「マッサージ気持ちいいニャ」
そう言っていそうなのは神戸市に住む杉本一弘さんのおうちのそらくんです。推定2歳のキジトラ猫。一弘さんはプロ野球・阪神タイガースで専属トレーナーを25年も務めるその道のプロですから、猫ちゃんだって気持ちいいに決まっています。
一度は譲渡されたが、出戻った猫
そらくんは2020年8月、生後約2か月のとき、きょうだい猫と一緒に尼崎市内で猫の保護・譲渡活動や動物愛護の啓発活動などに取り組む『つかねこ動物愛護環境福祉事業部』に保護されました。つかねこのシェルターには常時5~10匹の猫がいますが(そのほか預かりボランティア宅で暮らす猫も)、そらくんは先輩猫たちに無邪気にちょっかいを出しては煙たがられていたと言います。
その後、ある男性に譲渡され、かわいがってもらっていたのですが…約1年後、やむを得ない事情でつかねこに出戻って来てしまいました。当時の様子をつかねこスタッフは「シェルターに連れて帰ると怯えていて、とても悲しげな表情をしていました。鳴き声もさみしそうで…」と振り返ります。
そんなそらくんが穏やかな表情を取り戻したのは22年1月16日のこと。杉本家との“お見合い”の日でした。ペットを迎えることに一番積極的だったのは長女の悠月さん(高1)。小学生のときテレビで犬や猫の多頭飼育崩壊や殺処分の問題を知り、そのことについて学校で研究発表したほどの動物好きです。「迎えるなら保護犬か保護猫」と決めていました。次女の莉星さん(小5)も動物が大好きで、ペットを迎えることに大賛成。慎重だったのは父の一弘さんと母の律子さんでした。家族になるには“覚悟”が必要だと考えていたからです。
「その子が亡くなるまでちゃんと世話をする覚悟はあるか。旅行に行けなくなってもいいのか。そういったことは何度も確認しました」(一弘さん)
“お見合い”の日に表情が一変した
家族4人で保護猫を迎えると決め、知人を介してつかねこにコンタクトを取りました。つかねこは月に何度か譲渡会を開催していますが、杉本家が全員そろう1月16日にはなく、個別のお見合いをさせてもらうことに。その時点でシェルターにいる譲渡対象猫はそらくんだけだったそうです。2月になると一弘さんは春季キャンプに帯同、3月以降もオープン戦、シーズン開幕と続き、子どもたちと休みが合うことはほぼありません。ドキドキしながらお見合いに向かうと、そこには初対面でもなでたり抱っこさせたりしてくれるそらくんがいました。
「いつも悲しげな表情だったそらくんが、あの日は穏やかな表情をしていたんです。お父さんはさすがにマッサージがお上手でしたし(笑)、このご家族に迎えてほしいなと思いました」
そう話すのはお見合いに立ち会ったつかねこスタッフ。杉本一家も同じ気持ちでトライアルが決まりました。
いざトライアルが始まると、またしても環境が変わったことにストレスを感じたのか、数日間はケージから出てこなかったそうですが、そんなことで一家の気持ちは変わりません。満場一致で2月中旬、正式譲渡となりました。
1年たった今も抱っこは少し苦手なようですが、日中は律子さんの後を追いかけ、夜はベッドの足元で眠る甘えん坊のそらくん。「そらが来て会話が増えた」と全員が口をそろえるほど家族の中心にいて、「動物が家にいるっていい!癒されています」と悠月さんが言えば、一弘さんは「そらのことを気にかけて世話をする娘たちを見ていると、本当に迎えてよかったと思います」と目を細めました。
そして、大切な家族の一員となったそらくんに“友だち”をと、2匹目の猫をつかねこから迎えることにしました。やって来たのは黒猫のかいくん。初対面の日は距離を取っていましたが相性は悪くなく、このままうまくいけばまた家族が増えそうです。