新型コロナの現在地と今後どう向き合うべきか「後遺症への理解」「ワクチンへの科学的評価」

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

新型コロナの感染拡大が始まって3年、私たちの生活や社会は、非常に大きな影響を受け続けてきました。現在、日本での第8波や、中国での感染急拡大も懸念されていますが、今後どうなっていき、私たちは新型コロナとどう向き合うべきか、新たな年に向け、改めて考えてみたいと思います。

新型コロナパンデミック3年を振り返る

新型コロナパンデミック(世界的大流行)は、2020年3月に始まりました。

突然変異によって、動物からヒトにうつるようになった未知のウイルスで、ヒトが免疫を持たないために、感染が急激に拡大しました。当初はワクチンも治療薬も無く、効果的な治療法も分からず、「人類の科学の力」による対応が困難であり、したがって、ロックダウンなどの極めて厳格な感染対策が必要となりました。2020年、世界は閉じられ、膨大な数の方が、新型コロナウイルスによって亡くなりました。

2021年になると、ワクチンや治療薬が開発・使用できるようになり、「科学の力」が感染対策として効果を持つようになりました。しかし、人類がこうした「武器」を獲得する一方で、ウイルスは「変異」という武器によって、感染力を強めるようになり、世界中で幾度も大きな感染の波を起こしました。

2022年は、感染力の強いオミクロン株が主流となり、感染者は激増したものの、ウイルス自体の性質の変化や、ワクチン接種や感染によりヒトが免疫を獲得したことによって、世界的に見れば、重症者や亡くなる方の数は、相対的に少なくなりました。(ただし、日本は、第7波、第8波の新規感染者数、死者数が、過去最大という状況にあります。)

こうした状況を受け、2022年冬から、世界各国は感染対策の緩和の方向に徐々にかじを切り、日本も夏以降、順次、制限を緩和していきました。

グラフで見ると、2020、2021年は、感染者数に比して死者数が非常に多く、2022年は、感染者が激増する一方で、死者数は、以前に比して抑えられていることが分かります。

現在、日本は第8波を迎え、死者数は過去最大となっていますが、以前分析した通り、日本だけでなく、韓国、台湾、NZなど、東アジア・オセアニア地域にピークが遅れてきていると考えられますが、現在の日本の人口当たり死者数が、他国に比して多い点は気になります。(全体的に、以前より検査をやらなくなっている、死者のカウントの仕方が国によって違うといった事情もあるとは思います。なお、中国はデータをきちんと出していないので、グラフには載せておりません。)

 

                                                                     

「新型ウイルス」は、いつまでも「新型」のままではない

この先の見通しを考えてみます。

ウイルスは、本来は、同じ種(例:ヒトーヒト間、トリートリ間)の中でうつるものですが、「突然変異」によって、種を超えて動物からヒトにうつるようになったものが、ヒトにとっての「新型」ウイルスということになります。

されど、「新型」ウイルスが、いつまでも「新型」であり続けるわけではなく、ヒトが免疫を獲得し、ワクチンや治療薬が開発され、医療によっても対応ができ、ヒトと社会が当該ウイルスに「慣れ」、対応力を持つようになることで、「新型」ではなく、「通常」のウイルスとなっていく、ということになります。

この先は、(変異が起こり、毒性が著しく増したウイルスとなったような場合はまた別ですが)、「パンデミック(世界的大流行)」という状況事態は収束したと判断され、ウイルスが「新型」ではなくなり、「通常」のウイルスとして、「平時」の中に組み込まれていくということになりますが、それには、もう少し時間がかかるだろうと思います。

(※)例えば、2009 年4 月にメキシコで確認され、新型インフルエンザパンデミックを引き起こした「H1N1インフルエンザウイルス」は、「新型インフルエンザ(A/H1N1)」とされていましたが、多くのヒトが当該ウイルスに対する免疫を獲得したこと等から、2011年3月に、通常の季節性インフルエンザとして扱うこととされ、名称も「インフルエンザ(H1N1)2009 」と変更されました。

新型コロナは「インフルエンザと同じ」になった?

 「新型コロナが、(通常の)インフルエンザに近づいてきた」という話があります。確かに、ウイルスの性質の変化や、ワクチン接種や自然感染で免疫を獲得したこと等によって、重症化率や致死率は低下(※)してきています。

(※)2021年夏の第5波において、我が国の重症化率は、60歳未満:0.56%、6-70歳代:3.88%、80歳以上:10.21%、致死率は、60歳未満:0.08%、6-70歳代:1.34%、80歳以上:7.92%、そして、2022年夏の第7波では、重症化率は、60歳未満:0.01%、6-70歳代:0.26%、80歳以上:1.86致死率は、60歳未満:0.00%、6-70歳代:0.18%、80歳以上:1.69%です。
厚生労働省アドバイザリーボード資料(2022年12月21日)

ただし、「率」の問題と、実際の「数」の問題はまた別で、「率」が同じくらいでも、母数が多ければ、被害の程度は当然大きくなります。2022年に新型コロナで亡くなられた方は約38,000人、一方、2019年に通常のインフルエンザで亡くなられた方は約3,600人となっています(※)。

(※)新型コロナやインフルエンザへ感染したことをきっかけとして、循環器や消化器等の持病が悪化して亡くなることも多く、どこまでをその疾病に起因して亡くなったと判断するか、「死因」の考え方や、実際の数値には幅があることには、留意が必要と思います。

ほかにも、新型コロナは、流行する時期がインフルエンザほど限定的ではなく、そのため、マスク着用などの感染対策を、時期を問わず行う必要があるかといったことや、インフルエンザに対するタミフルやリレンザのような、「投与対象を限定せず、広く普及した抗ウイルス薬」がまだ無く、また、深刻で長引く後遺症が多く報告されているなど、「インフルエンザと同じだから、もう大丈夫!」と言い切れる状況には、残念ながらまだないように思います。

今後の課題

課題はたくさんあるわけですが、そのうちのいくつかを考えてみます。

第8波においても医療ひっ迫のおそれが懸念されていますが、これについてはずっと議論をしてきているものの、抜本的な改善に至っていないという状況です。

<持病の悪化、後遺症>

オミクロン株に感染した場合、デルタ株の頃のような重篤な肺炎は相対的に減ってきましたが、循環器や消化器系等の持病が悪化して亡くなるケースが多く報告されています。

また、新型コロナの症状自体は軽症でも、後遺症が長く続くことがあります。

こうしたことについての実効的な検証と注意喚起、そして、実際に治療体制を整えていくといった、きめ細やかな対応が必要となります。

後遺症については、周囲に理解されづらい、対応できる医療機関が極めて少ないといった問題も指摘されていますので、社会全体での理解の深化が求められると思います。

<ワクチン・治療薬>

特に、高齢者や持病のある方は、ワクチン接種が望ましいわけですが、重篤な副反応事例も報告されていますので、接種場所におけるアナフィラキシー対応をきちんと行える体制を講じるといったことはもちろん、高まっているワクチンへの不安や不信に対し、安全性についての科学的評価を行い、ネガティブな情報についてもきちんと説明をし、可能な限り誠実に対応する姿勢が、国民の信頼を得るために不可欠だと思います。

新型コロナワクチンは、高熱などの副反応の頻度が高く、一方で、新型コロナウイルスに感染しても軽症・無症状の場合が多く、結果として、特に若年層において、ワクチン接種のリスクとベネフィットを勘案して、「接種しない」という結論に至りやすいという特徴があります。

副反応が出にくく、より効果の持続期間の長いワクチンの開発・改善に取り組んでいただくことが必要だと思います。効果的で幅広い対象に使用できる治療薬についても、同様です。

<分類変更>

感染対策は、ウイルスの性質の変化や、ワクチン・治療薬の開発・普及、医療の対応状況、社会経済状況への影響度合い、国民の意識の変化等によって、柔軟に変化していくべきものです。これは新型コロナに限った話ではなく、むしろ、状況が変わっていくのに対応が変わらないということの方がおかしいはずです。

年明けから本格的に検討が行われる新型コロナの感染症法上の分類変更や、それに連動して、治療費やワクチンの公費負担についての検討等も行われていく必要があります。

ただし、杓子定規な取扱いではなく、現状に合わせた工夫(例:流行状況を見て、ワクチンの公費負担をしばらく継続する等)をしていくことも必要だと思います。

ウイルスや「懸念」はゼロにはならない

日本では第8波に入り、年末年始の人の移動などによる感染の拡大、また、中国では、ゼロコロナ政策の大転換もあり、感染が急激に拡大していることで、新たな変異株の出現を懸念する声もあります。

もちろん、最悪の事態を想定し、変化に柔軟に対応できるよう入念な準備をすることは必須です。されど、あらゆる「懸念」を繰り返し持ち出し続ければ、対策や人心は消極的になり、社会の「真の正常化」は遠のくおそれがあります

変動する事態に合わせ、迅速に効果的な対策を取ること(※)は大切ですが、私たちはどこに向かっているのか、の大きな流れはブレさせることなく、進んでいかなければならないと思います。

(※)例えば、今回の中国での感染急拡大を受け、政府は、12月30日から、中国からの入国者を対象に入国時検査を実施し、陽性の場合は、7日間の待機施設での隔離が行われることとなりました。妥当な判断だと思います。

 「不安」はゼロにはなりませんし、新たなウイルスもきっとまた出現します。しかし、知識や見通しを持つことによって、「不安を小さくすること」は可能だと思います。そしてまた、新興感染症の発生を含め、自然災害の発生それ自体を止めることは、今の人類には残念ながらできませんが、生じる被害をできるだけ少なくするように、あらかじめ準備や対策を行うことが、私たちにはできます。

3年間、申し上げ続けていること

この連載の初回(2020年8月)で、新型コロナについて、下記のような考えを申し述べました。3月のパンデミック当初から、テレビや講演で申し上げてきたことも、ずっと同じなのですが、3年の状況の変動を経ても有効と思われ、そこから、新興感染症に関する普遍的なものを導くことができると思われますので、少し長くなりますが、改めて記載してみます。

【新型コロナとの向き合い方】
・「最新の正しい情報」を基に、過度に不安にならず、最悪の事態を想定しつつ、前向きに。
・新興感染症のパンデミックは、収束までに、かなりの時間がかかる。感染の波は、何度も繰り返し来る。
・「新興感染症って、そういうもの」という『理解』と『覚悟』と(よい意味での)『諦め』を持って、折り合いを付けながら、やっていくしかない。
・毎日の新規感染者の数の増減に、一喜一憂するのは妥当でない。
・感染した方やクラスターの発生場所を責めるような風潮は、全くよいことではない。

【大事なこと】
・亡くなる方・重症になる方を、できる限り、出さないようにする。
・医療提供体制とのバランスが大事。
・新型コロナ自体が軽症であっても、深刻な後遺症が残るケースも報告されているので、注意が必要。

【社会や経済への影響】

・全国的に一斉休業・休校等を行うことは、社会や経済へのマイナスの影響が極めて大きい。多岐の業種にわたって、厳しい状況にある方は非常に多い。
・長期休校による学習機会や仲間とのふれあいの損失や、世代を問わず、メンタルヘルスへの影響も看過できない。
・「感染症対策」と「社会経済をきちんと回すこと」の両方を考えないといけない。 

【基本の感染対策】

・マスク、手洗い・消毒、換気といった基本的感染防止対策を取る。
・できるだけ「感染しないように」、「(自分が感染しているかもしれない前提で)、人にうつさないように」する。 

【自分や自国を守りたければ、他者や他国を守る】

・新型ウイルスとの戦いは、世界のすべての地域で「収束」しないと、終わらない。航空網はじめ、人的・物的交流がさかんな現代においては、ウイルスがすぐに世界各地に広がってしまう。
・途上国で感染が広がると、医療状況や社会経済上の問題から、感染拡大を止めることは、より一層困難になる。
・自分や家族を守りたければ他者を守り、自国を守りたければ他国を守る必要がある。
・ワクチンや治療薬の世界における分配についても、こうした視点が必要になる。

【歴史に学ぶ】

・人類の歴史は、新興感染症との戦いの歴史。新型コロナが収束しても、新たなウイルスは、今後も繰り返しやってくる。そういうものだと思って、備えるしかない。
・人類は、幾度も感染症のパンデミックを乗り越えてきた。だいじょうぶ。 

2023年が、よき年となりますように。

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