「体力が弱って飲み込みが悪くなり、食事が難しい終末期の患者」の「救いの神」が、“ガリガリ君”だという投稿に、多くの経験者が共感を寄せています。気軽に食べられるアイスのイメージが強いガリガリ君ですが、病気などで食事を摂りづらくなってしまった人にとってはどういう存在なのか。緩和ケアの専門家と製造元にたずねました。
投稿者の廣橋猛(@hirohashi_med)さんは、「味が分かりやすくて美味しく、固いけどサッと溶けて口に含みやすい。患者さんも笑顔になる」と食べやすい理由を説明し、「病院の売店に必ず置いておいて欲しい。赤城乳業さん、日本緩和医療学会とコラボしませんか?」と呼びかけます。
終末期とは、病気や障害などの進行で医学的な治療に効果がなくなり、余命が数カ月程度だとされる時期のこと。「私の母も最後はこれでした」「18年前に亡くなった親友も好きだった。よく熱が出て食事が取れなくなるから、冷凍庫にいつもガリガリ君があった。今はいろんな味があるの、彼女は知らない」「ガリガリ君では無いのですが、うちの父も最期の数日は、シャーベットだけはとても美味しそうに食べていました。赤城乳業さんに届きますように!」など、肉親を含め、大切な存在を見送った人から多く共感の声が寄せられていました。
また、「当院、院内食で付加しててガリガリ君には何かと助けられてます」「うちの病院は、緩和の患者さんにアイスを栄養科へ依頼すると、ガリガリ君をつけてくれます 小さいカップのやつ」といった医療従事者からの声も。
緩和ケアの専門医として終末期や生命を脅かす病気の患者さんの苦痛の軽減などにあたりながら、緩和ケアについての情報を発信する廣橋猛さん。厚生労働省委託事業の緩和ケア普及啓発活動の責任者も務め、これまでの経験などについてたずねました。
「本人も家族も笑顔になるガリガリ君」
――患者さんがガリガリ君を好んで食べていたということは実際にあったのですか。
「今回ツイートをしたきっかけとなったエピソードです。入院されている、ある男性のがん患者様が嚥下する力の低下により誤嚥性肺炎を繰り返し、食事をすることができなくなってしまいました。
点滴にて生きながらえていたのですが、患者様はどうしても何か食べたいとおっしゃり、これなら食べられるのではないかとガリガリ君(ソーダ味)を一口食べてもらいました。自分で食べることは難しいので、お椀に入れて少し小さめに砕いたものを口に運びました。すると、意外にもうまく食べることができ、とても美味しかったと笑顔でもっと食べたいと要求されました。
多く食べると痰が絡んでしまうので、慎重に増やしていきましたが、ガリガリ君を食べるときの笑顔、そしてその様子をみたご家族も嬉しそうで、本当に良かったと感じた経験でした」
――終末期の患者さんが好まれる味や食感の傾向はありますか?
「終末期の患者様は口が乾燥しやすく、また味覚も鈍っていることが多いのです。その中で口に合いやすいものが、サッパリとした口当たりのもの、そして味がしっかりと濃いものがあげられます。
なので具体的にはアイス、果物などが相性よく、特にガリガリ君はアイスの中でも条件に合致します。ガリガリ君はアイスの中でもしっかりと固まっていて、かつ口の中でゆっくり溶けていくので、咽せやすい患者様でもうまく食べていただけることが多いように感じています。他にはアイスの実が好評です」
患者さんがガリガリ君など氷菓子であれば食べられるのは、体力が弱って飲み込みが悪くなるのに加え、口の乾燥や味覚が鈍ってきているなかでも、味を楽しめるという理由からだったのです。氷菓子のほか果物も相性が良いとのことですが、昔のドラマなどでお見舞いに来た人がりんごをむいているシーンがあるのは、こういう理由からかもしれませんね。
「貴重な存在の商品になれているとのこと、光栄です」
1981年に「子供が遊びながら片手で食べられるかき氷を」とガリガリ君を発売した製造元の赤城乳業は、自社の商品が医療機関で話題になっているのは知っているのでしょうか。また、今後、緩和ケアに対応したガリガリ君が作られることはあるのでしょうか。同社のマーケティング担当者に聞きました。
ツイッターでの反響は赤城乳業に届いており、これまでもお客さんから同様の意見や感想はあったそうです。さらに、2019年には日本緩和医療学会から赤城乳業へ感謝状が授与されたといいます。
最近では難病「全身性アミロイドーシス」による心不全で、今年、10月1日に亡くなったアントニオ猪木さんが、闘病中にガリガリ君を食べていたことについては、ニュースで見て把握していたとのこと。食事が摂りにくくなった人もガリガリ君なら食べられるという考えが広く支持されていることについて、「お客様の貴重な存在の商品になれていること、光栄に感じています」と担当者。
重い病気や障害で食事が困難な人でも食べやすい商品に関して、「かき氷商品が近しい場合、スティックタイプのガリガリ君のほか、カップタイプでは赤城しぐれ、シャビィ、Q's といった商品がございます」と紹介し、療養向けの商品開発については「現状は新発売の予定はございませんが、ガリガリ君はこれからもお客様から愛され続ける商品を目指してまいります」と、思いを語ってくれました。
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また、今回の投稿には、「悪阻の時も重宝した 赤城乳業さんありがとう」「悪阻で肝機能障害起こして入院する前、最後まで唯一口にできたのがガリガリ君ソーダ味をだったなあ。食べるというより、吸ってた」など、悪阻(つわり)の時も役立ったという人も。
ただ栄養を摂るだけではなく、味覚や食感などによる楽しみでもある食事は、人間らしさや生きる喜びにもつながるもの。病気や障害、悪阻で食べる楽しみを失いかけている人に、ガリガリ君をはじめとする氷菓は、涼やかな口当たりと甘みを堪能できる貴重なひと品に。もしも、自身や大事な人が、食事ができない状況になったとき、ひとつの候補として思い出してください。
■廣橋猛@緩和ケアの情報を発信(@hirohashi_med)さんのTwitter https://twitter.com/hirohashi_med
■緩和ケア普及啓発活動 緩和ケア.net http://www.kanwacare.net
■廣橋猛さん著『素敵なご臨終 後悔しない、大切な人の送りかた』(PHP新書)
■赤城乳業株式会社 https://www.akagi.com/