「生活保護を受けても、猫を飼い続けたい」←「贅沢だ」と批判の声も…ペットをめぐる“対立”はなぜ起きる?

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2021年の犬・猫の飼育頭数は、約1605万頭だという(一般社団法人 ペットフード協会)。日本国民全体でいえば、2割~3割というところだろうか。

そんななかで飼い主の頭を悩ませているのが、近隣住民や職場の人々とのペットにまつわるトラブルだ。時には家族・親族とペットが種で揉めごとになってしまうこともある。

まいどなニュースでも、2022年はペット飼育にまつわる“困りごと”についていくつか取り上げてきた。その中から特に話題になった記事について、ペットの福利厚生に詳しい羽鳥友里恵(はとり・ゆりえ)さんに意見を聞いてみた。

羽鳥さんはペット関連事業を展開する株式会社PETSPOT代表で、大分県別府市の化粧品会社「SARABiO 温泉微生物研究所」の最高動物福祉責任者(CAO・チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー)を務めている。

ペットの病気のために休暇をとれる社会へ

ーー聞いたことのない役職ですが、「チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー」とはどんな仕事なのですか。

チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー(CAO)は、主に職場でペットを「飼っている人」と「飼っていない人」が共存できる環境を整えていく仕事です。社員が家族であるペットと働きながらでも豊かに暮らせるような施策や制度などをつくっています。

ーー具体的にいうと、どんな制度ですか?

たとえばペットを理由に仕事は休みにくいと感じませんか。CAOはペットが病気になった時の病院付き添いや、介護のために有休をとりやすい社内制度をつくったりしています。ペットが亡くなったときの忌引き休暇も同じ。ペットを飼っている社員と、そうでない社員の両方に配慮した福利厚生を設計するという考えですね。

CAOはいまは日本ではSARABiO 温泉微生物研究所にしかない役職ですが、これからこうした仕事が広がっていくと思います。

ーーそれはかなり助かるな…。

意識調査をしたところ、ペットの病気や、亡くなったことを理由に仕事を休むことを「職場に言いづらい」と思っている飼い主は約8割もいました。そのうち半数は「言いづらいので嘘をついて休んでいる」現状です。

コロナ禍に入ってますます、ペットの存在は人間に与える精神的影響が大きくなってきています。だからこそ、ペットフレンドリーな職場働く環境を整えていくことがとても重要だと考えています。

他にもPETSPOTとしては、自治体と一緒にペットを通したコミュニティづくりをしたり、災害時にペットと一緒に避難できるマニュアルの整備にも関わっています。

最近では特に、ワーキングスペースやペットと泊まれるホテル様からご相談をいただくことも増えました。ペットと連れている人向けの接客マニュアルの設計にも携わっています。

マンションがいきなりペット不可に...ペットトラブルはなぜ起きた?

ーー紹介してきた“困りごと”の中で、多くの読者の関心を集めた記事のひとつが、マンションでの飼育にまつわるものです。ペット飼育可だったマンションで、管理規約の改正によって「ペット不可」になってしまったケースがありました。ある特定のペットと飼い主のトラブルによって、住民の多くがペット飼育に不満を感じるようになった結果だそうですが、巻き込まれたほかの飼い主にとっては、管理組合の判断は「一方的」で、理不尽に感じられるようです。

【参考記事】「ペットOK」だったマンションが、管理規約改正で「飼育禁止」に…「こんな理不尽なことってあり?」弁護士が解説

このニュースには私自身もとても関心がありました。PETSPOTの活動はペットを「飼っている人」と「飼っていない人」がどう共存していくのかが軸ですから。

まずは、こうした規約の変更は違法ではない、できてしまうから管理組合も実行するというところがあります。ペットを飼っている身からすると深刻なケースですね。

でも管理組合がこんな判断をするときは、そのきっかけになったトラブルがあるはずです。そのトラブルの種がペットなのか子育てなのかゴミ出しのルールなのかが違うだけで、結局は価値観の違う人たちが暮らしているというところに問題の根っこがあります。

とはいえ、ゴミ捨てのトラブルがあったからといってゴミ捨て場が撤去されることはありませんよね。つまりこのケースではマンションを管理している側が「ペット飼育者は退去させてもいい」という発想を持っているのかもしれませんね。ペットを飼っていない人の考え方です。

ーーたしかに、自分もペットを飼っていれば、絶対にこういう発想にはならないですよね。

そうですね。飼っていない人にはペットと暮らす気持ちや状況がまったくわからないのです。でも、ペットを「飼っていない」人が、どうしたらペットとの生活を理解できるのか、というのはとても難しい問題です。知ったり考えたりする環境がないことが課題でもあるかもしれません。

ーーたしかに...飼い主どうしのコミュニティはあっても、飼い主でなければそもそもコミュニティに入れません。

ですから、管理組合だけの一方的な主張とは言えないと思います。人間性を問いただしたところで解決はしません。

それは飼い主さんの側もけっこう似ていて、飼っていない人に配慮ができないことが多いです。大切に想うあまり、たとえば「ワンちゃんが多少迷惑をかけるのは仕方ないじゃないか」という発想になってしまうケースもあります。

よくペットを子供のように扱う飼い主さんがいますが、人間の子供と動物は同じではありません。人間のようには知能が成長し続けることはないため、自分で反省して行動を変えたりすることに限界があるのが動物です。だから「しつけ」が重要だということを勘違いしている飼い主さんはやっぱり多いです。

こうしたズレがある限り、マンションだけでなく職場でも家族でも同じ問題が起きてしまうと思います。

「正しい飼い方」を決めるのは誰なのか?

ーーもうひとつは、「生活保護」に関わる相談事でした。生活保護を申請するにあたり、知人から「生活保護を受けるのであれば、飼っている猫は手放さないといけないのでは」と言われ、悩んでいるというケースです。掲載された記事のコメント欄には「生活保護を受けようかと考えている人がペットなんて贅沢すぎる」といった批判まで書き込まれるなど、議論を呼んでいたようです。

【参考記事】「生活保護を受けるのであれば、飼っている猫は手放さないと」と言われましたが…本当ですか

記事にも書いてありますが、もちろん違法ではありません。生活保護を受けていてもペットは飼うことができます。

そのうえで、コメントには、生活保護を受けていてもペットを飼うことのメリットを語る人もいましたし、逆に生活保護で余裕がないのであれば、飼ってしまっても、エサが与えられなくなったら? 病気になってしまったら治療ができるの? というリスクを指摘するコメントもありました。

でもこうしたリスクは実は「生活保護を受けている人」でなくても抱えることがありますよね。

ーーそうですね。ではどうしてこんな対立が起きるのでしょうか?

いろいろな意味合いがありますが、「動物愛護」と「動物福祉」の考え方の違いがあると思いました。

ふたつは似ているのですが、動物愛護は「人間は動物に対してどう接するべきなのか」、動物福祉は「動物から見ると何が良いことなのか」という動物の権利から考えていくところが違います。動物福祉ではペットだけではなく、たとえば家畜も同じように考えます。

高齢者の方がひとりでペットと暮らしているようなケースを考えてみましょう、「何歳になってもペットと暮らせるということは人間にもペットにも素晴らしいことだし、飼える社会であるべきだ」と考えるのが動物愛護的な考え方です。一方で「いや、それはちゃんと飼育ができない可能性がどうしてもあるから”動物にとっては”良くないんじゃない?」というのが動物福祉的な考え方です。

この「生活保護」のケースでもそれぞれの立場に寄った意見が対立していました。

ではどうすればおさまるのでしょうか。私は、この対立はなくなるものではないし、最終的にどちらが正しいと言えるものでもないと思うんです。どちらにも別々の正義があり、私はどの立場も選べるような社会になるべきだと考えています。

日本はペット意識が低い、「ペット後進国」といういわれかたをすることがあります。でも、この対立は海外でも同じように起こると思います。

ーーたしかに、白黒つけるようなことではないのかもしれません。

ただし、「ペットを飼うにはお金が必要なんだよ」ということは基本的な意識として広がらないといけないと思います。そのために意味があった記事だったのではないでしょうか。

たとえばコンビニのレジ袋が有料化されましたが、これは有料化することで、レジ袋を使う人を減らすことよりも、「エコについてみんなが考えなくてはならない」というメッセージ性が大きい取組みだと思います。

それと同じで、この生活保護に絡んでピックアップされたのは「ペットとお金」のこと。それは飼っている人も、飼っていない人も知って考えなくてはなりません。どちらの人も一緒の社会で暮らしているのですから。

   ◇   ◇

【取材協力】

◆羽鳥友里恵(はとり・ゆりえ) 愛玩動物飼養管理士・ペット防災危機管理士、株式会社PETSPOT代表、株式会社SARABiO 温泉微生物研究所・最高動物福祉責任者(CAO=チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー)。博報堂での広告営業の仕事を経て、2021年7月に「日本をペットフレンドリーな社会にしたい」と「PETSPOT」を創業。「株式会社SARABiO 温泉微生物研究所」にて、ペットライフスタイルブランド「Docpal」や「BESTIES」をプロデュースし、2022年4月同社のCAOに就任。現在ペットを飼っているヒトと飼っていないヒトが共存できる社会環境を整えていくコンサルティング事業を展開し、企業、自治体、ホテル、商業施設との取り組みを拡大中。

▽株式会社PETSPOT
https://petspot.jp/
▽SARABiO 温泉微生物研究所
https://www.saravio.jp/

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