巨大わらかがし、使用したわらは1トン 体長22mのティラノサウルスを編んだ町民の思い

西松 宏 西松 宏

 福岡県筑前町の安の里公園に現れた「巨大わらかがし(かかし)・ティラノサウルス」(全長22メートル、幅6メートル、高さ8.5メートル)が話題を呼んでいる。「困難な時代を乗り越え、次の時代に飛び立とう」とのメッセージを込め、子どもからシニアまで、町民のべ800人が制作に携わった大作だ。11月5日に披露されて以来、一目見ようと訪れる見学者が絶えない。

 福岡市中心部から車で約30分。国道386号線を甘木方面へ走っていくと、曽根田川沿いに、稲わらで作られた巨大なティラノサウルスが出現する。今にも電線や鉄塔をなぎ倒してこちらへ向かってきそうだ。

 このティラノサウルス、町の有志で構成するまちおこしグループ「筑前若者会(ちくぜんわっかもんかい)」(会長・金子毅さん)のメンバーらが中心となり、9月上旬から中学生やシニアクラブ、町の各種団体などのべ800人が協力。約2ヶ月かけて完成させた。

 

 巨大わらかがしの制作は今年で8作目となる。2015年秋、町合併10周年を記念して巨大イノシシを作ったのを皮切りに、これまでゴジラ、龍、零戦、宇宙戦艦ヤマト2202、ゴリラ、鶏と卵を制作してきた。

 筑前町は稲作と養鶏がさかん。同会会長で一級建築士の金子さんは「町のシンボルになればと、毎年稲刈り後、町民の皆さんが力を合わせて作り続けてきました。今年は『これまで以上に迫力のあるものを』との声が挙がり、恐竜の王様ともいわれるティラノサウルスに決めました」と話す。

 同町企画課によると「新型コロナウイルス感染症や気候変動など、これまで人類が経験したことのない状況に直面している今、困難を乗り越える力、現状を受け入れ適応する力を結集し、次の時代へ飛び立とうとのメッセージを込めた」という。

 制作はまず鉄骨や木材で土台となる骨組みを作り、稲わらを束にして紐で繋げる「とば編み」という作業をして、肉付けするわらを準備。その後、骨組みにそれらのわらを貼りつけていく。苦労したのは体全体のフォルムをどうバランスよく表現するかという点だったそう。「特に脚の付け根(太もも)の部分など、筋肉が盛り上がっているところがべたーっと平らにならないようにし、わらをたくさん重ねて貼ることで、躍動感が出る工夫を凝らしました」(金子さん)。使用したわらは約1トンにものぼるという。

 11月5、6日の「どーんとかがし祭」でお披露目され、地元メディアで報じられて以降、県内外からたくさんの人たちが訪れている。間近で見た人たちは「大きいねえ」「今にも動き出しそう」「すごい迫力」などと声を揃える。「元気をもらった」という人や、「来年は何を作るの?」と早くも次回作を期待する人もいた。

 「建築関係者をはじめ、いろんな職業のメンバーたちが互いに知恵を出し合い、試行錯誤を重ねながら毎年作っています。年を追うごとに『自分も何か手伝いたい』という若い人たちが増えているのが嬉しいですね。これをきっかけに世代間交流や技術継承ができますし、制作に関わる人が増えれば町を盛り上げようとの気運も高まります。今では『巨大わらかがしはわが町の誇り』と胸を張る町民も多いです」と金子さんはほほえむ。

 展示は来年1月下旬ころまでの予定。12月の5のつく日は、夕暮れから20時までライトアップもしているので機会があれば訪れてみては。

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