電話での性的な嫌がらせに憤る投稿が共感を集め、5万6000もの「いいね」を獲得しています。大きな反響から電話による痴漢の実態の一端がうかがえました。
電話がかかってきたのは「痴漢抑止活動センター」。そこに、男性の声で「女の人って、痴漢されている時感じるんですか?」。それに対して「感じませんね。どういう趣旨のお電話ですか? 通話を録音します」と応対したところ、電話はガチャリと切られてしまいました。電話を終えた感想として、「ごくごく控えめに言っても超ダサいと私は思います」と述べています。
投稿したのは、痴漢抑止活動センター(@scbaction)の代表・松永弥生さん。学生がデザインした、「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」というメッセージ入りのバッジを製作し希望者に無償で配布、公共交通機関での子どもに対する痴漢行為を抑止する活動などを行っています。松永さんに、その時の様子や活動についてお話を聞きました。
投稿には「病院の夜勤でもしょっちゅうこういう系の迷惑電話かかってきてたなぁ…」「取引先の人にそういう話してきた人がいて、何回も聞いてやろうと思って、『すみませんよく聞き取れなくて何ですか?』って3回聞いたらモゴモゴ言いながら仕事話に戻った。本当、ダサい」など、同じような被害にあったという人から多数のコメントが寄せられていました。
また、「小学生の時に痴漢被害あったことあるけどPTSDと男性恐怖症になったし、人がいる場所に行くと過呼吸になるようになったよ。高校生になった頃に寛解したけど、同じような人を増やしたくない」「不快だったので、手をねじり上げて連行して駅員さん達に渡した事があります」と痴漢被害の経験を語る女性も。
さらに、「男でも痴漢されたことあるけど ほんとに怖い動けないまじで」「俺も痴漢されたことあるから言うけど男もなんも感じないぞ。気持ち悪さと恐怖だけ。この電話かけたバカは早めに逮捕されてほしい」「しっかし、よくもまぁこういう団体にそんな電話するわ。同じ男性として恥ずかしい」など、男性からの怒りの声もありました。
松永さんは「相手のトーンにつられて『感じません』と言ってしまったけれど、『不快と恐怖、怒りを感じます』と答えるべきでした。とっさに言葉が出てきませんでした」と振り返ります。冷静に対応したようにも思えますが、思いもよらない被害を受けた状況では、言いたいことを言うのは大変難しいのです。反響をどう受け止めたか、改めて電話をかけてきた人に訴えたいことなどについてたずねました。
“いたずら”電話ではなく、「一種の痴漢行為だし性暴力」
痴漢抑止センターには以前から男性から相談という体で意図不明の電話が何度もかかってきていたそうです。松永さんは、ともに活動しているスタッフらに話したところ、「今度不審な電話があったら警察と情報を共有するために録音させて頂きますね」と伝えるようにとアドバイスを受けていたといいます。
――投稿されていた電話は、どんな感じでしたか。
「今回あった電話は、相談とかそういうんじゃなくて、明るい声で茶化すようなニュアンスで『女の人って痴漢されると感じるんですか』と直球で来たんですよ。『これは明らかに痴漢だと受けとめていいな』と思ったので、とっさに『感じません』という言葉がピシャッと出ました。『どういう趣旨のお電話ですか。録音させて頂きますね』と畳みかけるように言いました。電話を受けた時は『これは痴漢電話だ』というアラートが鳴るような感じでした」
――どういうところが特に問題だと感じましたか。
「痴漢抑止活動をしているっていうのは、ツイッターやSNS、ホームページに書いてあって、電話番号はホームページで調べたと思うんですよ。私が何をしている人間か知っていて、わざわざそんな電話をしてくるっていうのは、悪意を感じました。不愉快でした。
電話切った後に、『感じません』が正解だったのか『不快です』と言うのが正しかったのか、ちょっと迷ったのですが、でもとっさに『感じませんね』というシャットアウトするような言い方しちゃいましたね。でも、それは言えて良かったなと思いました」
――ツイッターでは相手への返答が「とっさに出てこなかった」とも発言されていますが、電話の相手に改めて伝えたいことは。
「いたずら電話のつもりかもしれないけど いたずらというより一種の痴漢行為だし性暴力だと捉えています。いたずらの範疇は超えてます。一種の痴漢だし、性加害、性暴力ですよ、と伝えたい」
――性的な加害って「いたずら」って言われがちですよね。
「言葉の暴力って言い方もあるのだけど、痴漢電話というのは若い時から受けてきています。黒電話の頃からね。まだその時はそれが暴力だとかセクハラだという言葉もなかったから、『いたずら電話』という言い方しかできなかったけど、今の私たちはそれはセクハラというものだ、一種の性暴力だという認識を持っています、被害者の方はもちろん。だから『加害をしているあなたもそういう認識を持ってくださいね』と言いたいです」
――ツイートに大きな反響がありました。
「びっくりしました、あんなにたくさんの反響があることに。私の投稿に対する批判の声が少ないのにも驚いたし、いろんな業種の方が同じように痴漢電話、セクハラ電話を受けていることにも。そして、業務に支障をきたしているというのも驚きました」
――いろんな業種とは。
「思わずメモを取ったのですが、本当にいろいろありました。便座メーカー、アパレル、ドラッグストア、コンビニ、カラオケ、ビデオレンタル、コールセンター、美容師、学校事務、デパート、あと、防災無線を流すところや、訪問看護のオンコールにもかかって来るとか、悪質だなぁとすごい思うんですよ。防災無線のアナウンスを女性の声ですると、途端に電話がかかってくるとかがあって、女性がいるとわかったら嫌がらせをしようっていう人がいることがかなりショックでしたね」
――男性からのコメントも多かったですね。
「多くの男性が痴漢電話に対して『それは酷い』『気持ち悪い』って言ってくれたのが、すごいありがたく、心強かったです。『そんなヤツいるのかとか思っていたけど、同じような被害に遭った人がたくさんいて驚いた』などという声を頂けて、働いている女性がこういう被害を受けているって知ってもらえる機会になったのが良かったかなって思います」
――反響を受けて、投稿したことについては、どうとらえていますか。
「今までツイッターでもこの手の電話のことを発言した人が少なかったのか、たまたまバズらなかったのかわからないけども、コメントくださった方々のトーンからすると『業務上のことだから我慢しないといけない』と対応してらっしゃるようで、被害を受けても文句を言う場所がなかったんだろうなって。今回私が投稿したことで、実は私もって声があがったのかなって考えています。
たまたま私が投稿したことに、たくさんの人が共感してくれて、『これもセクハラだし、これも怒りの声をあげていい対象なんだ』と気づけたとしたら、それはすごい意味があったなと、つぶやいた価値があったかなと思いました」
「時代が変わっても、加害する側の意識や態度は変わらない」
――性的な加害行為について、最近気になる傾向はありますか。
「盗撮が増えているなぁというのはニュースを見て感じます。盗撮のニュースが増えてるっていうので、盗撮の件数が多くなっているっていうことだけじゃなくて、それを捕まえようとしてくれる方がいたりとか、あやしいと思ったらすぐに警察に届ける方がいるとか。被害者が今までだったら泣き寝入りしているようなシーンでもきちんと警察に届ける、すぐに。防犯カメラのチェックをしてもらったりとか、逮捕につながるような流れが着実にできているような気がします」
――電話などでの痴漢は昔から変わらない印象でしょうか。
「昔は電話って出るまで相手がわからなくて、ナンバーディスプレイが出現したり、スマホになったりして、個人宅へのそういう電話って減ってきてるんだと思ったんですよ。たぶん、電話そのものに関しては、個人宛には減ってるんじゃないかと思います。
ただ、今回の件とは関係なく、以前、Twitterのスペースやクラブハウスで話した時に、SNSのDMやメッセージなど、形を変えて痴漢電話の類のものやセクハラメッセージっていうものが続いているのがわかって『なるほどなぁ』と思いました。加害する側の意識や態度は変わっていないようです」
――新たに出てきたタイプの痴漢に対してどのような対策があると思いますか。
「すでに実践している方も多いと思われるのですが、アイコンとか名前を女性だと分かるものにしないとかが有効だと思うんですね。そうしたくないのに痴漢・セクハラメッセージを受けるのが嫌だから、自分の性別をわからないようにするっていうのもなんか理不尽ですよね。ただ、対策としてはアリだと思っています。
逆に男性がゲームの中で女性アバターを使っていると性的被害に遭うということがメディアで最近話題になっています。メタバースとかで、すごいリアリティがある中で触られるので、男性も気持ち悪い、怖いって思ってるのがあって。すごく自分で言ってて嫌ではあるのですが、女性のアカウントだって気取られないようにするのが対策のひとつなのかなって思います」
――電話での痴漢の場合、通報するにしても、男性や上司など第三者が介入したとしても最初の被害は受けてしまいますね。
「今、私が言っているのはもともとの被害を受けないようにする方法で、職場だったらそういう訳にいかないわけじゃないですか。今回いろんなコメント頂いた中で対策として皆さんがやっているのは、男性に代わってもらう、上司とか同僚とか、そうするとすぐガチャ切りされるって言ってましたね。
コールセンターでは事前のアナウンスで、『この通話は応対品質向上のために録音しています』って言うのを流している。それは本当に重要なのかなって。ただ、それを流しても、平気でセクハラ発言してくる人はいると思います」
――痴漢抑止センターにはセンシティブな問題を相談したい人もいて、録音するのは難しいのではないですか。
「本当に相談したい方が録音されて、それをどこかに公開されたらどうしようとか思うと、相談できなくなると思うんです。ただ、うちはリソースの問題もあって、相談窓口を開いているわけではないんですね。相談だったら各地にある性被害のワンストップ支援センターなどにお願いしますと言っています。
録音に関してはアプリとかであればいいなと思います。録音したものをそのまま相手に流す機能があれば、すごい嫌だと思うんですよ。相手側としては、自分の音声が、自分の言った嫌な言葉が自分に返ってくる。そういうものがあったらたぶん撃退には役に立つんじゃないかな、と思いました。実際あるかどうか、私は知らないのですが」
――今回のことを受けて、改めて伝えたいことはありますか。
「こういう加害行為をする人は自分がやっていることが痴漢に該当するという意識がないと思います。電車内の痴漢についても『これぐらいならいいだろう』『自分のストレス発散だ』と思ってやっている人がいる。私たちの世代は子どもの頃に痴漢は性暴力でやってはいけないことであるとか、被害にあったら大人に相談するとか、相手から逃げるとかという教育を受けてない。
だから、今、一番、そういうのを何とかしたいと思っていて、『痴漢犯罪防犯講座セット』を学校に送ろうとしています。女子は被害に遭うことが多くて、男子の場合はすごく複雑で、被害者にもなるし、加害者にもなる。両方の可能性があるんですよ。男の子だから痴漢防犯講座を受けなくていいんじゃなくて、男女一緒に受けて『男の子も被害に遭う』ということを知るのと同時に『痴漢は犯罪である』ということを学んで、将来加害者にならないでほしいんです」
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松永さんが代表を務める痴漢抑止センターは、学校などで防犯セミナーを開催できる教材のセット『痴漢犯罪防犯講座セット』を配布するため、2022年12月23日までクラウドファンディングを実施中です。
セットには、痴漢の実態と身を守る方法についてのアニメーション「学生に知ってほしい痴漢の真実」や小冊子「100年続く電車内痴漢犯罪を学生の力で解決! 痴漢抑止バッジの挑戦」、痴漢抑止バッジなどが含まれます。また、2023年度に痴漢犯罪防止講座を行うためにセットの寄贈を希望する学校も募っています。
■痴漢抑止活動センター(@scbaction)のTwitter https://twitter.com/scbaction
■一般社団法人 痴漢抑止活動センター https://scbaction.org/
■「学校に痴漢犯罪防犯講座を寄贈」プロジェクト2023 クラウドファンディングページ https://congrant.com/project/scb/5599/