「可愛さが全身を強打しました」「なんてかわいい多毛類」 京大研究者の論文コメント、どうみても推しを語るオタク構文と話題に

竹内 章 竹内 章

「なんて可愛い多毛類なんだ」クシエライソメを見た瞬間、可愛さが全身を強打しましたー。そんな書き出しの研究者コメントを掲載した京都大学のプレスリリースが話題です。「やばいテンションで書いて送った」(本人)という文章は、研究対象への愛がほとばしる熱量多めのオタク構文。執筆者の京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所の山守瑠奈助教に聞きました。

研究成果は、深海に生息する多毛類の生物、クシエライソメ(ナナテイソメ科)の生態を解明したもので、河川から海へと流入した照葉樹林の落ち葉を巣材や食物として利用することを明らかにしました。研究は、山守助教を第一著者に、人間・環境学研究科の加藤真教授、鳥羽水族館の森滝丈也さんらのチームで、論文はイギリスの国際学術雑誌『Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom』に掲載されました。

可愛い、イソメの可愛さを伝えるのに文字数が足りない

山守助教は、研究成果を紹介する京大サイトの記事に以下のようにコメント。

「「なんて可愛い多毛類なんだ」クシエライソメを見た瞬間、可愛さが全身を強打しました。小さな手(「疣足」と呼びます。イボと形容される多毛類の小さな足、もうその時点で可愛いですよね?)で落ち葉を掴んで口に運ぶ姿、落ち葉が運ばれる完全無欠の「ω」型の前口葉(口の上部にある組織)。可愛い、イソメの可愛さを伝えるのに文字数が足りない……という感情を心の内に仕舞って、陸上の森と深海の繋がりについて推していきたいと思います。」(山守瑠奈)

その後、このコメントがプレスリリースされたことを知った山守助教は「待って 嘘でしょ プレスリリースの原稿、一部ちょっとやばいテンションで書いて送ったらそのまま掲載された 待って、待って本気? え? 校閲無いの?」と激しく動揺する胸中をツイート。一気にオタク構文のコメントが話題になりました。

ちなみにオタク構文とは、オタクが使いがちな文の構造で、主にSNSの投稿や動画サイトのコメントなどで見られます。全体的に極端な表現を使う傾向にあり、「全人類見て」「5万回は言ったと思う」など規模が大きく、実生活で非オタク相手に使う際は注意が必要です。山守助教に聞きました。

「クスッ」となる文章を

ーオタクが推しについて語るテンションを感じました

「あの文章はプレスリリースの原稿としてつづったものです。大学の広報室でメディアの方が数々の真面目な研究成果をながめる中で、少し『クスッ』となるような文章を書いたつもりでした。研究者コメントは比較的最近設けられた欄なので、まさか大学のサイトにも掲載されると認識していませんでした」

ークスッどころではありません!師匠(指導教授)に発覚することも心配していましたが、大丈夫ですか

「少々強火の文章を綴ったのは、広報室で校閲にかかってマイルドにされるという想定からでしたので、まさかそのまま掲載されるとは…。師匠には気づかれていません。ハラハラしていますが、まだ耐えています」

河川から深海へのつながりの不思議

ナナテイソメ科は自ら分泌した糸と周囲の堆積物を用いて、筒状の巣を作ります。その中で、クシエライソメは巣材に必ず落ち葉を使います。今回の調査では、鳥羽水族館の底引網調査で採集されたクシエライソメについて、巣材に使われた落ち葉の種類を詳しく観察。遺伝子情報から進化の道筋も調べました。その結果、クシエライソメは河川下流域に広がる照葉樹林の落ち葉を利用していること、また、その落ち葉を巣材だけでなく食物としても利用していることがわかりました。

落ち葉が深海の生物の食料と巣材になっていたという不思議について、山守助教は「深海と陸上のつながりは普段はあまり想像しにくいと思いますが、実は沈木を中心とした生態系など、陸上の有機物は深海でも重要な栄養源のひとつとなっています。クシエライソメもそうした陸上の恩恵を受ける深海生物の一種なので、彼らを通して生態系のつながりを考えていただければ」と語ります。

クシエライソメの魅力については「可愛さについての言及はもう十分…ではないです。クシエライソメをはじめ、携帯型の巣(携巣)を持つナナテイソメ科の多毛類は、自分の巣を持ち運ばないといけません。なので、巣から上体部を出して、目標物をいぼ足(可愛いアンヨです)でつかみ、後ろの方の体を引き寄せます。ちょうど、尺取運動のような動きになります。その重い巣を引き寄せる動作が、つい「ヨイショ!」とアテレコしてしまいたくなる可愛さです」とイソメ愛がドバドバあふれ出ています。

さらに興味深いのは巣を紡ぐという生態です。「ナナテイソメ科のイソメたちの中には、海底の貝殻などさまざまな素材で作る種類、自前の膜だけを使った透明な巣を作る種類がいます。どのような進化の過程で携巣を使うようになったのか、また携巣はどのくらい防衛の機能があるのか、など、ナナテイソメ科のイソメたちの巣の進化の過程や生態学的な意義がとても興味深いです」と熱く語ります。

「まさか自分がTwitter珍獣になる日が来るなんて…」ともツイートした山守助教。京都大学の今後のプレスリリースは、研究者コメントにも注目です。

今回の研究成果「深海で落ち葉を紡ぐイソメの生態を解明―河川流入した照葉樹落葉を巣材と食物に利用」について
京都大学のリリースはこちら→https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-11-07-0
論文はこちら→https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-the-marine-biological-association-of-the-united-kingdom/article/abs/terrigenous-leafutilizing-life-of-the-tubebearing-annelid-anchinothria-cirrobranchiata-annelida-onuphidae-in-the-deep-sea/C85676D8B4252D4157F8079ADAD4E2C5

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