10月から始まったNHK朝ドラ「舞い上がれ!」で、岩倉家の経営する町工場の職人笠巻久之を演じている古舘寛治。「古舘」はそれ程メジャーな名字ではないのだが、フリーアナウンサーの古舘伊知郎が有名なため、あまり珍しいという感じはしない。
さて、「古舘」とは文字通り「古い舘」のことだろう。
「舘」は「館」の異体字で、この漢字を使った名字は東北に多い。東北では小規模な城のこと「たち」「たて」といい、「館」や「舘」という漢字をあてた。「古舘」とは使用されなくなった古い小城のことである。
中世には各地に多くの城があった。城とはいっても、現代の人がイメージするような天守閣を備えた堂々としたものではなく、防御に徹した館のようなもの。そもそも、中世には集落ごとに領主がおり、平時は村の館に住み、戦になると山にある城(たち)に籠って戦った。
応仁の乱のような大乱を除けば、戦国時代のように何千・何万もの武士が会して戦うわけでなく、地方ではせいぜい数十人とか百人規模の小競り合いが中心だった。従って、「たち」の規模も小さく、集落3~4個に1つの城郭があったともいわれる。
こうした小領主達は時代が進むにつれて離合集散を繰り返し、戦国時代後半になると国単位を支配する大名に集約されていく。そして、江戸時代初めには一国一城令によって、原則1国につき城は1つとなった。
その過程で、自らの「たち」に拠っていた小領主達は、「たち」を出て城下町に住むようになり、「たち」は打ち捨てられていった。「古舘」とは、こうした使われなくなった「たち」のことである。
現在、「古舘」「古館」という名字は岩手県に集中しており、「古舘」の方がやや多い。ただし、読み方は「ふるだて」が多く、「ふるたち」は三陸地方にわずかしかいない。
ところが「古舘」は佐賀県唐津市付近にもある。ここでは「古館」は少なく、読み方もほとんどが「ふるたち」である。従って、東京出身の古舘伊知郎や、大阪出身の古舘寛治のルーツは、いずれも佐賀県にある可能性が高い。