「私たちがやらなきゃ誰がやる?! 18歳成人を現役士業が支えます」高校と士業との新たな取り組み

國松 珠実 國松 珠実

今年4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた。法的には大人に。気をつけることが増えたというが、何をどう気をつければいいのだろう?

そこで兵庫県立伊川谷高校(神戸市西区)と現役の士業が協力し、「18歳成人」をテーマに3年生に授業形式で教えるという、全5回のリーガルサポートプログラムが実施された。複数の士業が集まって、学生相手に連続授業を行うのは珍しい取り組みだという。

 士業5人が、高3生に自分の専門を講義

 「だまし取られたお金を取り返すには、どうすればいい?」、「『企業に搾取される』って、どういう意味?」

3年1組から5組の、5つの教室から先生の声が聞こえる。生徒たちに向かって話すのは教師ではなく、現役の司法書士や税理士、弁護士たち。講師の彼らが、クラスにいる約40名を前に、自分の専門にちなんだテーマを授業形式で講義するのだ。

「1人が1回につき1クラスを、ローテーションで教えます。生徒にとっては、毎回違うテーマの話を、違う大人から聞けます」と言うのは講師の1人、司法書士の安藤紀子さん。一般社団法人おひとりさまリーガルサポート(以下、おひサポ)の代表理事でもある。

テーマはSNSや犯罪、アルバイトを含む労働問題などの身近に感じられるものや、税金や投資、契約など一見関係なく思えるものも。しかし「LINEにこういう誘い文句が表示されても、気軽に登録しちゃダメ」と、身近な例で生徒の関心を引くのはさすがだ。またクイズ形式で出題したり、グループワークで話し合う時間をつくるなど工夫している。

「これまで単発の講義はありましたが、学生向けに週1回ずつ連続で、しかも分野の違う職種の士業が組んで教えるプログラムは、ほとんど例がありません」

プログラム実現のきっかけは昨年秋、おひサポメンバーの一人で司法書士の青葉洋明さんが、伊川谷高校の体育館で2年生200名に向けて行った学年全体講演だった。それは一度きりだったが、当時2年生の学年主任だった福田浩三教諭が感銘を受け、青葉さんに熱烈オファー。話し合いの末に今年6月から10月の期間、おひサポメンバー5人による連続講義が実現した。

 はじめはギャップに面くらった!私たちが10代に伝えたいこと

もともと「おひとりさまリーガルサポート」は、家族や親戚が遠方に住む「おひとりさま高齢者」を、いざというときに法律職の人間が医療や介護職の人たちまで巻き込んでサポートしようと、司法書士や税理士、弁護士7人が昨年夏に設立した。

しかしサポートを求めるのは高齢者だけではない。クレジットカードが原因で、二十歳で自己破産した若者の例を挙げながら、青葉さんは「若者はトラブルにあっても、頼るところも、頼るべきかの判断もつきません。そこに18歳成人という法律です。困ったときは、我々のような大人に頼っても良いんだと知って欲しかった」。伊川谷高校からのオファーがあったのは、そんな時だった。

士業と教育者とは普段接点はないが、おひサポはさまざまな業種とコラボレーションし、現場や地域をよりよくする「カケル(×)法律プロジェクト」にも力を入れている。今回は、こちらの目的にも沿うものだった。

ところが引き受けたものの、当初は心が折れそうになったという。いつもの前のめりな大人相手の講演とはちがい、ときに居眠りする生徒相手では無理もない。

「我々もマスクで生徒の表情が見えず、反応もよくわかりません。半ば諦めたような気持ちでしたが、その後のアンケートの自由記述欄には学んだことや感想がビッシリ!なんだ、ちゃんと聞いてくれてたんだって、生徒の様子とアンケートとのギャップに驚きました」と若者の傾向を語る、司法書士の福村さん。

また自分の失敗談を例に話すと反応が良いとか、ときに昔の自身の給与明細を例に挙げ「特にこの〇〇税の数字に注目しよう!」など、具体例を示すと生徒の顔が一斉に上がるといった、伝えるコツもつかめてきた。反応から学び、すぐに活かせるのが連続講義のメリットという。「伝えると伝わるは違う、発見と挑戦の連続」と口をそろえる。

「生徒にはまず、法律を身近に感じてもらえたら。考える力やモノの見方にはいろいろあり、一概には言えないこともたくさんあると知ってほしい」と期待を寄せる。

 周囲を動かした、先生の熱意

プロジェクトの実行に一番奔走したのが、伊川谷高校3年の学年主任の福田浩三先生だ。毎週ネタが満載の新聞「學年通信」を発刊する名物先生で、「やったことのないコトに挑戦するのが楽しい!」という姿勢に、おひサポメンバーも「福田先生の熱意に押された」と笑う。

「知識が自分の将来を守る。そこに1人でも気づいて欲しい」とプロジェクトの狙いを語る先生。また『本物を見る』という体験は10代に強い影響を与えると、生徒の可能性の掘り起こしにも熱心だ。「先日は、司法書士になりたいという生徒が1人、相談に来てくれたんです!」と教えてくれた。

伊川谷高校とのプロジェクトは一旦終わる。安藤さんは「これからも教育現場のリクエストに応じた、共に創っていく提案型の講座で、若い人たちの教育に携わっていきたい」と意気込みを語ってくれた。

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