週末のみ縄文人!?竪穴式住居で暮らすサラリーマンが話題に きっかけは「都会のライフラインが断たれたら」という危機感 

塩屋 薫 塩屋 薫

「現代の道具を使わずに竪穴住居を作り、週末そこで暮らしてる。穴はとがった棒で堀り、木は3日かけて作った石斧で切った。ちなみにサラリーマンである」と投稿し、6万以上の「いいね」がついたのは、コンビで活動している週末縄文人さん(@wkend_jomonjin)です。制作過程や火起こし、土器づくりの様子は動画でも紹介されていて、活動のきっかけを教えてもらいました。

リプ欄には、「原点に立ち返れそうでいいなって思います‼︎あと、やりたいことをとことんやってるってのが、またすごくいいなと思いました‼︎一泊してみたいな」「この記事小学生とかに見せたらいい教材になりそう…竪穴式って鎌倉時代まで地方に残ってたっていうし」「うわあ、素晴らしいですね。縄文時代は争いも少なく、人々で助け合いながら暮らした素敵な時代なので、こうやってその時代のものを自分の手で作ることで、人間の本質に辿り着けそう」など、感心する声が続々。

住まいについての質問も寄せられ、実体験ならではの回答をされています。
「お住まいの中の湿気、いかがですか?興味深々です」→
「湿度はわりと高めですが、炉で火を起こせば一気にカラッとするし虫もいなくなります。縄文人は毎日火を焚いてたはずなので、かなり快適に過ごせてたと思います!」
「これ雨が降ったらどうなるんでしょう?屋根には完璧な防水機能はないだろうし、水が溜まったり湧いてきたりはしないんでしょうか?」→
「雨は問題ありません(台風並みの大雨でもない限り)屋根には笹を50本以上束ねたものを隙間なく葺いています。実際に、アイヌにも「チセ」という笹葺きの住居があるほど、笹は優れた屋根材です。建物の周囲には堀った土を盛ってるので、雨は侵入してきません」

大変さを発見することが楽しくもある

30日かけて木やその皮、笹を使い、賃貸の土地に竪穴式住居を完成させた縄文人さんコンビは、同じ会社の同期。軽快なかけ合いが楽しい制作過程をYouTubeで公開し、「お互い自然やキャンプは好きでしたが、DIYスキルはほぼ皆無なので、動画でもよく失敗します」とのこと。活動の詳細を教えてもらいました。

――この週末活動を始めた時期と、きっかけを教えてください。

火起こしが一番最初で、時期はちょうどコロナが騒ぎになり始めた2020年の夏でした。きっかけは色々あるのですが、ひとつはコロナ禍が始まってすぐの頃に感じた、都会のライフラインが断たれるかもしれないというリアルな危機感です。その時、この文明の不安定さや、そこに頼り切ってる自分の足腰の弱さが見えた気がしました。そこで、同じ危機感を持っていた同期同士で、人類の文明をゼロから作り直して、強い足腰を手に入れようということで始めました。

仕事が暇になったので「何か楽しいことしようぜ」というノリもあります(笑)。僕らの活動のテーマは、「現代の道具を使わず、自然にあるものだけでゼロから文明を築く」ことです。ライターを使わずに火を起こし、石を磨いて作った斧で木を切る。そんな原始のテクノロジーをひとつひとつ習得し、積み重ね、縄文時代から現代に至る文明の道のりを辿りたいと思っています。最終的には江戸時代くらいまでいくのが夢です。

――竪穴式住居を作った動画、興味深かったです。1番苦労した点は?

1番大変だったのは、笹を採って屋根に結びつける作業です。14日間かけて2万本の笹を集めて結びつけたのですが、あまりに進まないので気が狂いそうでした(笑)。ただ、基本的にすべての作業が大変なのですが、その大変さを発見することが楽しくもあります。

例えば、石斧だと直径5センチくらいの木を切るのに10分ほどかかります。チェーンソーを使えば10秒なので、現代人の感覚からすればとんでもなく時間がかかるように思えますが、僕らは石斧を作れるようになるまで手で石を持って切っていました(ハンドアックスといいます)。その時は30分ほどかかっていたので、石斧でも革命的なスピードに感じます。「石斧すげえ!」と思えるんです。少し文明批判的な意味で始めた側面もあったのですが、やればやるほど文明へのリスペクトが湧いてきています。

それに、石斧だと木の生命力にも気づかされます。切ろうとすると木の抵抗を感じるので、簡単には切りたくないと思うようになりました。木に対するありがたさや、畏敬の念のような感覚といいますか…。社会学者の見田宗介さんが本の中で、「存在するものへのデリカシー」という言葉を使っているのですが、その感覚が強くなったと思います。

――毎回スーツ姿だったり、現代の道具を使わないなど、こだわりがあるのですね。

なるべく現代の技術には頼らずに文明を再現していき、その“大変さ”を身体で知りたいです。一方で、縄文時代のように川沿いの平らな土地を自由に使っていい訳でもなく、そこら辺の木を勝手に切ってもいけません。火起こしも消防の許可が必要だったり、弓矢で狩りをすることも狩猟法で禁止されていたりします。現代の中で縄文人の暮らしをするには、越えなければならない壁が多数あります。

そのため、動画外(例えば木を切らせてもらってる知人の土地から、竪穴住居を作ってる自分たちの土地までの車での移動など)は現代の技術を使わざるを得ないところがあります。現代の制約の中では仕方ないことだ思っているので、自分たちが納得できるかどうかで線引きをしています。ただ、映っていないところでナイフを使ったり、スコップを使ったりはしません。それでは"大変さ"を実感するという活動の意味がなくなってしまうので。

また、基本的に暗くなったら作業はやめるので、夜間の照明は使っていません。どうしても作業したいときは火を焚きます。スーツは同じものを、洗濯せずに着ています。「現代人がゼロから文明を築く」のがテーマなので、現代人の象徴としてスーツを着ることにしました(自分たちもサラリーマンなので)。ちなみに、スーツは意外と丈夫なのも発見できました!匂いも焚火をしまくっているので、燻したような匂いで臭くはない、と思っています(笑)。

敢えて事前に勉強しすぎないことも意識

――事前に敢えてネットや本では調べないようにしていますか?

正確にはまったく調べないわけではなく、「調べすぎないようにしている」です。そもそも、縄文時代の技術について詳しく説明された資料はなかなかみつかりません。そのため、自分たちで考えて試すトライアンドエラーで作っていくことが多くなりました。結果的に、それで作れた時の喜びが大きかったので、今は敢えて事前に勉強しすぎないということも意識しています。

――この週末活動で、現代の暮らしと比べて感動した事を教えてください。

先の質問での石斧に感動しました。逆に、棒で穴を掘っている中で、スコップ(現代)の偉大さに気づくこともあります。これまでは「掘る」だけの機能だと思ってましたが、実は土を「ほぐす」ことと、それを「掬い出す」という2つの機能に気づきました。棒には「ほぐす」機能しかないので、手を使って掬い出さなければなりません。スコップってすごいんです(笑)。

――投稿へ多くの声が寄せられましたね。

驚いてます。「自分もやってみたい」という方が多いのが嬉しいですね。また、「自分も子供の頃に竪穴住居を学校や畑に作った」という方もびっくりするくらい多くておかしかったです。やっぱりみんな竪穴住居には憧れるんですね(笑)。それと、このコロナ禍で生きることの根本的な意味だったり、自分が自明視してきた社会や文明に対する信頼が揺らいでる方が多いのかも、と勝手に想像しています。

――今後、挑戦してみたい事は?

土器を作って、それで製塩(海水を蒸発させて塩を作る)をしたいです。以前の動画で、手作りの網でヤマメを獲って食べたことがあるのですが、そのときめちゃくちゃ塩が欲しいと思ったので(笑)。いつか製鉄もしたいですね。なんだかんだ石斧で木を切るのは大変ですし、もっと大きな木も切れるようになりたいので。鉄斧を手にした時の自分の感覚の変化も気になります。そうなったらもはや週末弥生人かもしれませんが(笑)。

◇ ◇

自分たちの手で地道な作業を重ね、大きな目標を実現させている週末縄文人さん。最後に、現代人にもおすすめの道具を尋ねると、石はとても便利だと言います。「少し打ち割ったり、水に濡らして研いだりすればナイフになります。普段の自宅玄関にも拾ってきた石を置いているのですが、段ボールや包装紙を開ける時に使ってます。ナイフほど危なくないし、重しにもなるので便利です!ちなみに、縄文人も黒曜石の欠片をナイフにしてたそうです」と教えてくれました。

週末縄文人さん
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