「な~んもしない」赤ちゃんアザラシとまったりするだけの動画を配信する水族館 実はこんな狙いが

茶良野 くま子 茶良野 くま子

アザラシの赤ちゃんと飼育員がただただのんびり、まったりするだけの“な~んもしない動画”を秋田県の男鹿水族館GAOが配信。「ずっと見ていられる」「何でも咬みたいのね」「いいなあ」「BGMは小鳥のさえずり♫」と、目でも耳でも癒やされるとコメントが寄せられています。

通路に座り込んで仲良しぶりを見せるのは、今年3月に生まれたゴマフアザラシの赤ちゃん「おんぷ」(メス)と、担当飼育員の柿添涼太朗さん。まったり動画が注目されましたが、普段はトレーニング解説などの動画を積極配信。思わず「オンライン講義ですか?」と聞きたくなるほど濃厚な内容で、まるでプロ向けです。情報発信に力を注ぐ柿添さんに、その理由を訊ねてみました。

—赤ちゃんアザラシと遊ぶだけの動画が話題に。撮影した状況は?

「エサの時間の後、赤ちゃんの遊びの一環と人に慣れさせるための取り組みです。飼育下では刺激が少なくなりがちなので、好奇心旺盛なこの時期にいろんな遊びを通して刺激を与えることで、赤ちゃんの感受性を養っていく狙いがあります」

—お客さんに慣れさせる目的も?

「はい。展示プールの外の環境や、周囲に人がいる状況に慣れさせるためでもあります。『こんな風に遊べるのはこのくらいの時期だけで、物心がつくと怖がるようになる』と解説もしました。見ているだけだと生き物のことが誤解されて伝わることも多いので、いつもなるべく話すようにしています」

「動物のことをもっと知って」トレーニング解説も

赤ちゃんがプールに帰り、シートを畳んで、まったり動画は11分で終了。羨ましがるコメントが並びましたが、もちろん、いつもいつもこんな風に遊んでいるわけではありません。普段は赤ちゃんの成長ぶりや、トレーニング解説動画を公開。「握手」「吻(ふん)タッチ」「回転」などの動作をどのように引き出し定着させているのか、そしてなぜそれが必要なのかを説明しています。

動物たちとのトレーニングで大切にしているという「強化の原理」も解説。「私たちの日常生活にも応用できる概念だと思います。トレーニングに限らず、 動物について知る中で、人間についても考えるといいことはよくあります。 そこが、動物の面白いところの一つですよね」(柿添さん)

また、エサの魚を食べられるようにするため行う「強制給餌」も、食べられるようになるまで数回にわたり解説。「食べて当たり前だと思っていた」「押さえつけるので可哀想に見えてしまう…」などのコメントには、「小さくても押さえるのは大変ですし、咬まれることもあります。強制給餌は、アザラシにとっても人間にとってもかなりしんどい作業です。最悪の場合、衰弱して死んでしまうことも考えられるので、『早く食べてくれ~』と念じながら食べさせていたんですよ」

「可哀想に見えるかもしれませんが、強制給餌がなぜ必要なのか、野生ではどうしているのかなど、動画を通していろんな疑問を持ってもらえれば、アザラシの生態についてより理解が深まるはずです。新しいことを知ると、今まで気づけなかった動物の魅力もたくさん見えてくると思います」

かわいらしく、のんびりしたイメージのアザラシですが、それだけではないようです。

「『のんびり』もアザラシの持つ一面だと思いますが、ただ一つの面しか知らず、そこだけを見て“かわいい生き物”としてしまうのは誤解と言いますか、もったいないと思っています。生物のいろんな面を知ってもらうこと。その中で、かわいいと感じる部分も、不愉快に感じる生態もあるでしょう。それらをひっくるめて、全ての生物は賢く、 尊敬できるものだと思います」

柿添さんは、他の水族館も含め飼育員歴は10年ほど。「昔から動物好きで、より深くのめり込んだのは、動物のトレーニングを学び始めてからです」と話します。「私のように少し変わったきっかけで動物を好きになったり、 新たな視点を持てるようになる人もいるだろうなと思い、さまざまなことを発信するようにしています。1人でも多くの人に動物を好きになってもらいたい、 表面的な『かわいい』『面白い』だけではなく、 より深く学んでもらえれば嬉しいです」

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