山中でふらふらになっていた秋田犬 迷わず保護そして家族に 「あの頃は人に心を閉ざしていたね」 

渡辺 陽 渡辺 陽

山道で遭遇した大きな白い犬

けんみちゃん(10歳・メス)は徳島県の山中にいたところを保護された。

Yさんはスピリチュアル好き。ネットの噂できいた神社に夫と一緒にお祓いに行くことにした。その神社「賢見神社」は、徳島県の山奥、源氏に終われた平家の落人が隠れ清んだという山里にあった。全国一社の由緒ある神社で、犬にも関係しているという。

お祓いを受け、スッキリした気持ちで元来た道を戻ろうとすると、助手席の夫が「温泉に行きたい」と言い出した。急遽、ナビの目的地を変更。最寄りのよく知らない温泉に向かうことにした。徳島県から香川県に抜ける道は薄暗く、道幅も狭く、木々が鬱蒼と茂った陰気な道だった。

カーブに差し掛かりハンドルを切りながら運転していると、夫が「俺、猫より犬が好きやから、いつか大型犬を飼いたい。色は白がいいなあ」と言った。その時、目の前の道路に白い物体が現れた。

「モゾモゾ動いていたものは、大きな犬でした。あまりに突然のことだったので一旦通り過ぎたのですが、『・・・今の見た?ちょっと戻って!』と夫が叫びました。幻覚かと思ったけど現実のことでした」

お腹を空かせふらふらの秋田犬

すぐに戻ってみると、白い大きな犬はふらふら歩きながら徳島方面に向かう山道を登っていた。声をかけてみたが、犬は人間不信に満ちた目をしていた。

「痩せて、薄汚れていて、立っているのがやっとという感じでした。爪は恐ろしく伸びていました。何も食べていなかったのでしょう。賢見神社の宮司さんからいただいた甘いせんべいをあげたら、秒で食べました」

けんみちゃんが歩いていた道は、そこから何キロも民家や水場がない道だったので、Yさんは連れて帰ることにしたという。その日は、たまたまワゴン車に乗っていたので乗せることができた。けんみちゃんはすっかり痩せていて、後ろ脚に力がなく、ちゃんと座れないようだった。目には人間不信が表れていたという。

「唸っていたわりに、SUVのリアを上げたら、最後の力を振り絞ってサッと車に乗りました。賢見とは、犬見だったという伝説もあるそうで、山の神さんの遣いかもしれないと思いました」

神社の御利益か?

Yさん夫妻は秋田犬を見たことがなかった。何を食べさせたらいいのか分からず、大館の秋田犬保存会や県内の保存会の人に電話して色々教えてもらったという。最初は里親を探すつもりだったが、世話をしていたら愛情がわき、飼うことにしたそうだ。

「けんみは虐待されていたようで、頭を撫でようとすると今でもびくっとします。また、普段は穏やかで吠えたことがありませんが、ゴルフクラブやホウキなど長い物を見るとものすごく吠えるんです。大声を出すと、ブルブル震えて部屋の隅で縮こまり、しょんぼりしています」

そんなけんみちゃんもYさん夫妻には心を開いてくれている。愛想を振りまくタイプではないが飼い主に忠実。Yさんは渋谷のハチ公が飼い主をずっと待っていたという話を信じていなかったが、今では秋田犬なら本当にやるかもしれないと思っているそうだ。

Yさんにとって「癒しの塊」だというけんみちゃん。毎日一緒に散歩していたら、腰痛も治って健康になったという。賢見神社のご利益かもしれない。

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