お外で懸命に生きてきた6匹の猫たち 激しく威嚇する心の氷を溶かしたのは時間と飼い主さんの愛情だった

古川 諭香 古川 諭香

「最初は警戒心の強かった子も今では心を開き、懐いてくれています。諦めず、目の前の猫ととことん向き合い、愛情を注いで接すれば、いつか必ず気持ちは伝わると思う」

そう語るのは、まるくん(茶白)、むぎちゃん(茶トラ)、茶太郎くん(茶トラ)、クロくん(白黒)、バロンくん(白)、茶々丸くん(茶トラ)という6匹の猫と暮らすあゆみさん(@spica_atelier)。6匹はみな、過酷な環境を生き抜いてきた元野良猫です。

1匹の野良猫との出会いによって保護活動に目覚めた

あゆみさんが猫を保護するようになったのは、1匹の野良猫との出会いがきっかけ。当時、いとこから託された猫を18歳で亡くし、再び猫と暮らしたいと思うようになったあゆみさんは保護猫を迎えようと、ネットで里親募集を見ていました。

そんな時、愛車の天井に乗る野良猫を目撃。頬がこけるほど痩せ、被毛も汚れていたため、ご飯をあげるようになりました。

それから、しばらく経ったある日。子猫の里親募集があるとの声かけが。最初は応募するつもりでしたが、家に訪ねてくる野良猫の未来を考えた結果、子猫なら他に里親が見つかる可能性が高いと思ったため、野良猫を保護。以後、個人で野良猫を保護するようになりました。

現在、共に暮らしている6匹の愛猫は足を引きづっていたり、ガリガリにやせ細っていたりと、みなボロボロの状態で保護。

その中でも一番、保護に苦戦したのが、背骨が浮き出るほど痩せていたむぎちゃん。

あゆみさんはある日、自宅から少し離れた場所で何度か見かけていたむぎちゃんがマンションの駐車場でうずくまっているのを発見。車を停められるスペースがなかったため、一度帰宅し、猫用おやつやキャリーケースを持って徒歩で現場へ。

むぎちゃんはおやつを食べてくれたものの、警戒して逃走。それから10日ほど会えない日々が続きましたが、ある日、もといた場所から少し離れた住宅地でうずくまっているところを発見。

車に常備していた猫用おやつをあげると、前に貰ったことを覚えていたのか、近づいてきてくれました。

「住人の方が出てきて、少し前から来るようになったと教えてくれました。できたら保護してあげてと言われましたが、当時、自宅にはすでに猫がおり、単頭飼いしか経験したことがなかったので多頭飼いに不安がありました」

けれど、命を救いたいという気持ちが勝ったため、お迎えの準備をすることに。数日間、住人の方にご飯をお願いし、数週間かけて保護しました。

なお、保護後、動物病院へ連れていくと、むぎちゃんは脱水や栄養失調で猫風邪、重度の口内炎・歯肉炎を患っていることが判明。

「もう少し遅ければ、命を落としていたと言われました。現在も、口内炎は治療中。ドライフードは角が口の中に当たらないよう、粉状に砕き、ウエットフードに混ぜて食べてもらっています。他の子たちも味の好き嫌いを考慮し、ご飯をブレンドしています」

そんな配慮を行うあゆみさんは野良猫を家族として迎える際、新しい環境に必要以上に警戒しないよう、優しい工夫も行っていました。例えば、保護後は不妊手術を終えたら、周りをバスタオルや布で覆ったケージの中に入ってもらい、安心感を得てもらっていたのだそう。

「警戒心が増さないよう、ご飯やトイレ掃除などのお世話以外は構わないを徹底。環境に慣れてきたら、バスタオルや布を少しずつ上にあげ、ケージの外が見えるようにし、覆わなくても食事やトイレができるようにしていきました」

また、新入り猫を迎え入れた際はケージ内での暮らしに慣れてきたタイミングで、ケージのまま移動させ、他の猫たちと対面。

「みんなそれぞれ違う境遇や心の傷を抱えてうちに来ていますが、猫同士うまく折り合いをつけてくれているようで、今まで大きな喧嘩をしたことはありません」

大人の野良猫だって愛せば、心を開いてくれる

あゆみさんが声を大にして伝えたいのは、愛情を注げば元野良猫でも心を開いてくれるのだということ。

実はあゆみさん自身、野良猫を保護した後、激しく威嚇され続け、心が折れかけたことがあったのだそう。獣医師から、「成猫は自我が芽生えており、野良猫の成猫となると懐かせるのは難しい。猫が家にいても触れられないとなると、人間が癒されず、ストレスを感じることになる」と言われた時には、何のために野良猫を保護するのかと自問自答したこともありました。

しかし、ある時、猫目線に立ってみて、考え方が変化。

「人間から怖い目に遭ってきた過去があれば、警戒心を持って当然。家の中で元気に過ごしてくれて、少しでも幸せを感じてくれるなら、触れられなくてもいい。いつまでかかるかわからないけど、いつか心を開いてくれたら、それはそれで嬉しいと思えるようになりました」

焦りがなくなったあゆみさんは、腰を据えて愛猫たちの心の氷を溶かしていくことに。

「威嚇しているうちは、話しかける程度。指先を怖がる傾向があったので、手をグーにしてケージ越しに当て様子見し、ケージ越しで『ちゅーる』を食べてくれるようになったら扉を開けて『ちゅ~る』をあげるようにしました」

慣れてくれるまでにかかった期間は、猫によってまちまち。例えば、野良猫を迎え入れるきっかけを作ってくれたまるくんは人に対して攻撃的で、触れるまでに10ヶ月かかったそう。

「今では、ゴロゴロ&スリスリの甘え上手。顔を近づけると匂いを嗅ぎ、髪の毛を舐めてくれる。サイレントニャーもしてくれます」

そして、動物病院で慣れるのが早そうだと言われていたクロくんも繊細な性格だったようで、環境の変化というストレスから過剰グルーミングで自分を傷つけたり、あゆみさんを激しく威嚇したりしていたそう。

「尋常じゃないほど人を怖がっていたので、虐待されていたのかもしれません。触れるまでにかかった期間は、半年。まだ抱っこはできませんが、撫でると喉を鳴らし、名前を呼ぶと返事をしたり、足元でゴロンと寝転んでくれたりします。本当は人が好きで甘えたいのだと感じます」

そうした変化を目の当たりにしたからこそ、あゆみさんは人間に対しての警戒心を強めざるを得ない野良猫の心に思いを馳せてほしいと思うようになりました。

「私の経験上、人間から怖い目に遭ってきた子ほど自分の身を守るために警戒心が強くなり、威嚇すると感じました。それは人間の身勝手で無責任な都合により、突然捨てられたり、虐待を受けたりと過酷な状況を生き抜いてきた証。野良猫はなりたくて野良猫になっているわけではないということを私たちは今一度、認識し、猫の繁殖能力の強さを理解して、不幸な猫を増やさないためにも不妊手術をしていくことが重要だと思っています」

―殺処分ゼロが達成され、虐待に対する処罰が重くなり、野良猫の命も尊重されるような社会になってほしい。そして、年齢や家猫、外猫などに関係なく、困っている猫が保護されるような世の中にしていきたい…。

そんな想いを抱く、あゆみさんは今後、オンラインショップで販売している自身のハンドメイドグッズの売り上げを動物の保護活動に役立ててもらう予定。

「今は、お客様が大切なお金を使って作品を購入してくれたというご縁を猫たちにも繋げたいと思い、売り上げを愛猫たちのために使っていますが、ありがたいことに購入して下さるお客様が少しずつ増えてきましたので、さらに売り上げが増えれば保護団体への寄付という夢が叶いそうです」

大人の野良猫は、懐かない。そうした思い込みで、見過ごされている命はきっと多いはず。そんな現状を変えるきっかけを、ぜひあゆみさんの言葉から得てみてほしいと思います。

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