「どうしてクリームパンは足の形してるのダーリン?」…ねえ、どうして?
新作が発表されるたびに、「ラベルに印刷された文章のクセが強すぎる」と話題になる群馬の地ビールブランド「CHROA(クロア)」。このクレイジーな世界観の構築を一手に引き受けているのが、ファッションホイールデザイナーとしても知られるプロデューサーの片岡達也さんだ。実は片岡さん、2022年2月にある人助けの体験談をTwitterに投稿し、「カッコよすぎ」「すげえ」と大反響を巻き起こした。7月にクロアの新作「GIRL FRIEND」が発売されたのを機に、この痺れる出来事についてあらためて話を聞かせてもらった。
駅前でお金を落として泣いていた学生
まずは片岡さんの投稿(2月5日)を紹介しよう。
「駅前で学生が旅費の数万円入った封筒を落として泣いていた。たまらず俺は数万円を渡したことがあった。名前は言わないのが俺だ。しかしその学生が俺の看板を見つけ金を返しにきた。しかも多く入っていた。今度はその学生の身元を捜すというよくわからない事態になってる」
「金を落とした学生はその時『コロナ不況の中、母が工面してくれた大事なお金だったのです』と言っていた。ライダースを着た俺は『心配するな。お前の心の叫びが俺を呼んだのだ』と北斗の拳みたいなことを言っていたと連れが記憶していた」
◇ ◇
—学生さんと出会ったのはどういうシチュエーションでしたか。
「駅に娘を迎えに行った際です。彼がベンチで泣いていました」
—片岡さんが写った看板を見てお金を返しに来た顛末について教えてください。
「この出来事があった数カ月ほど後のことです。クロアの看板は街の中心にかなり目立つように立っていて、看板を見かけた本人が母親に話をしたようで。俺はクロアのオフィスには月に1度しか顔を出しませんので、応対したスタッフから連絡を受けました」
—返しに来られた際に、学生さんはどのようなことを言っていましたか。特に名乗ったり自分の連絡先を残したりはしなかったのでしょうか。
「本人と母親がいらして、『看板の方に息子が助けていただき…』と。母親は俺の存在をSNSやニュースで知っていてくれたようです。名前や連絡先は残さずに立ち去ったと聞いています」
—今度は片岡さんの方が学生を捜していると書いてありました。見つかりそうですか?
「少し多くお返しをされてましたので、お返ししたくて捜そうとも思いましたが、名前を残さないのはそれなりに意味があるのかなと。いつかどこかで、きっと違う形で会えると思います」
—クロアビールのラベルのように、片岡さまが振り返る当時のやりとりは実にドラマティックでクール、そしてクレイジーです。
「そこに誰かが倒れていたら起こしてあげたいと思うし、泣いていればハグしたくなる。そんなシンプルな生き方に40歳を過ぎた頃に気づきました。新宿で家がなかった20代前半から、アメリカで成功を味わい、全てを奪われ、また走り出しの繰り返し。金と名誉にとらわれた時期もありましたが…。ただいつだって周りから見たら、俺の生き方はクレイジーに感じると思います」
—最後に、学生さんに何か伝えたいことはありますか?
「コロナ禍、誰もがハートをぶっ壊しながら毎日生きてる。金に困り、生活に追われても、しっかり夢喰って生きろよ」
相変わらずクセが強い…新作のコンセプトは?
そんな片岡さんが手掛けた新作「GIRL FRIEND」のラベル文はこちら。
「どうしてクリームパンは
足の形してるのダーリン?
クロワッサンなあの子が
パンクな仔犬のように甘える
スーサイドベーカリー。
顔のない向日葵が差し出す
紅茶にモルトを絡めた液体は
エリビスのグランジハート味。
口紅で窓にGood byeと書いた
大人のロンドンズバーニング。
背泳ぎで自由形に挑むような
あの子の生き方 ダキシメタイ。」
野暮を承知で聞いてみよう。今回のビールのコンセプトは ?
「今期のクロア自体のブランドテーマがパンクです。新作は数年前、向日葵の咲く夏のベーカリーカフェで出会った水分パンクな仔犬のガールフレンドに捧げました。彼女はコロナ禍で歌う場所を奪われ、毎日のようにベーカリーカフェで紅茶とビールに溺れてました。やがて彼女は終わらないコロナ禍を背に、旅に出ました。その彼女への手紙です」
「実際ビールは醸造にコンセプトとストーリーを伝え、ビールに紅茶の茶葉を使用しています。発売同時に相変わらずの人気ですが、是非、やたらと喉が渇くこの不条理な社会で、クロアのブランドコンセプト、大人という生き方の麻酔を味わってください」
…よろしくどうぞ!
【クロア公式サイト】https://www.chroa.jp/