トリミング中に刃物で切られた?傷跡が残る猫 治療費はサロンに払ってもらえるか 弁護士が解説

猫・ペットの法律相談

石井 一旭 石井 一旭

トリミングサロンから戻ってきた猫が怪我をしていたようだとの相談を受けました。依頼していたカットも期待していたような仕上がりではなかったそうです。あさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。

【相談】トリミングサロンから戻ってきた猫がしきりに足を気にしている様子。調べてみると、右後足に刃物で切られたような跡がありました。トリミングの最中に誤って切られた可能性があります。この場合、トリミングサロンに治療費を払ってもらうことはできるでしょうか。また、カットも思ったとおりではなかったので、支払った代金を返金してもらいたいです。

トリミングサロンが責任を認めるかが焦点 まずは証拠を残して

トリミングサロンで猫を可愛いカットにしてもらうことは、業務委託契約あるいは有償の準委任契約として分類できるでしょう。

法的性質をどのように解釈するとしても、業務を請け負ったトリミングサロンは、十分な注意をもって仕事を完遂する義務があります。このような義務を、「善管注意義務」といいます。
誤って猫に怪我をさせた場合、この善管注意義務に違反したものとして、債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負担します。

実際には、まずトリミングサロンが責任を認めるかどうかがポイントになります。トリミングサロンが、カットにミスがあったことを認めて責任を認めれば、あとは責任のとり方の問題となり、具体的には賠償金額の話になります。

トリミングサロンが責任を認めない場合は、この猫の怪我がトリミングサロンによるものであるとの証拠が必要になってきます。怪我をした場合は、すぐに動物病院に行って、獣医師の診断を受け、どのような怪我であるのかについて診断書を作成してもらいましょう。また、証拠を残すという点では、少なくとも怪我がわかった時点で、患部の写真を撮影しておくべきでしょう。トリミング前にわざわざ写真を撮影している人はいないと思いますが、もしそのような施術前の写真があれば、比較対照できるので、重要な証拠になります。

猫がトリミングサロンで負傷したことが確定した場合は、損害賠償の話になります。損害賠償の内訳は、猫の治療費、通院交通費、場合によっては慰謝料も認められる可能性があります。

東京地方裁判所で平成24年7月16日に判決が出た事件ですが、トリミングの最中に、トリマーが猫のしっぽを5センチも切り取ってしまったというケースがあります。猫はすぐに獣医師の適切な治療を受けたため、幸いにして傷はふさがり、後遺症もなかったとのことですが、飼い主は、トリミングサロンに対して、猫の治療費・通院交通費に加え、猫のしっぽが短くなったことで猫が以前のように軽快に動けなくなったとして猫の財産的損害、飼い主の精神的不調による休業損害(仕事を休業した分の保障)、慰謝料などの支払いを求めて、トリミングサロン運営会社とトリマーに対し訴えを提起しました。

判決は、トリマー側は猫の安全に配慮し傷つけないようにトリミングを行うべき注意義務に違反して猫のしっぽを切断し、飼い主の所有物を傷つけたとして両者に賠償責任を認めました。

判決文では、「確かにペットは法的には「物」として処理されることになるが,ペットの場合は生命のない動産とは異なり,生命を持ちながらみずからの意思を持って行動し,飼い主との間には種々の行動やコミュニケーションを通じて互いに愛情を持ち合い,それを育む関係が生まれるのであるから,その意味では人と人との関係に近い関係が期待されるものである」と示し、ペットの価値について一定の理解を示している点が注目されます。

しかし、猫の財産的損害と飼い主の休業損害については、飼い主独自の損害としては認めず、慰謝料算定の考慮材料とするにとどめ、結局、治療費・通院交通費と家族4人の慰謝料として約10万円を認めたにとどまりました。

もう一つの問題、「思ったとおりの仕上がりではなかった場合」にトリミングサロンに賠償請求できるかどうかですが、事前に「思ったとおりの仕上がり」をトリミングサロン側に伝えていたかどうかがポイントになります。

トリミングサロン側が飼い主の「思いどおりの仕上がり」を知らされていなかった場合は、飼い主の内心まで推し量った上でトリミングすることはできないので、責任を問うことはできません。

また、トリミングサロンに仕上がりをお任せしていた場合も、カットの仕上がり具合はトリミングサロンの裁量となりますので、カットの質そのものが悪いような場合を除けば、やはり責任を負わせることは難しいでしょう。

他方、仕上がりのイメージ写真をあらかじめ渡していた場合や、行きつけのトリミングサロンでこれまでと同じカットを希望していたのに全く違うカットにされた、などのように、トリミングサロン側が「飼い主の思ったとおりの仕上がり」を把握していた場合は、「思ったとおりの仕上がり」にしなかったことについてトリミングサロン側に債務不履行があるといえますので、カットのやり直しや代金の減額・返金を求めることができます(民法562条1項、同563条、同559条)。

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