人気のペット画像などを無断で転載してフォロワーを稼ぐ、悪質なSNSアカウントによる被害が後を絶ちません。先日も自分の愛犬との微笑ましい日常をX(旧Twitter)やInstagramに投稿している人気のアカウントが、写真を盗用されて困っているとのニュースが話題になりました。
「まいどなニュース」の記事によると、無断で転載されたのは、愛犬がペット用ドライルームの中にいるちょっとSFっぽい雰囲気の画像。投稿から数日後、「ニコニコしながらゲーミングPCに侵入してきたワンコ」などと事実と異なるコメントを付けて投稿し、多くの「いいね」を集めているといいます。
このような問題が起きたとき、飼い主としては何か対策は取れるのでしょうか。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
著作権侵害を理由に、削除請求や損害賠償請求が可能
▽1 著作権侵害
まず「著作権」について説明します。
「創作者の思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)を創作した人は、その物の著作者であり(同2号)、著作権を有することになります。著作権は、特許権や意匠権、商標権のように、特別な登録手続を取る必要はありません。
自分の飼っているペットの面白いしぐさや愛らしい姿を撮影した写真や動画は、撮
影者のオリジナリティに溢れた創作品として、撮影者である飼い主の著作物に該当す
るでしょう。
著作権者には、著作物に対する様々な権利が認められますが、その中に複製権(著
作権法21条)というものがあります。複製とは、「印刷、写真、複写、録音、録画
その他の方法により有形的に再製すること」をいいます(同法2条1項15号)。詳
細は省きますが、要するに、一定の例外(私的使用のための複製であるとか、図書館
での複写など)を除いて、著作権を有しない第三者が誰かの著作物のコピーを自由に
作成することは許されないのです。またこの他にも著作権者は、自分の著作物をネッ
トなどで公衆送信する権利(公衆送信権。同法23条1項)も専有しています。そこ
で、著作物の電子データファイルをサーバにアップロードする行為は、著作権者の複
製権もしくは公衆送信権を侵害する違法行為となります。
▽2 削除請求
違法行為である無断転載に対する対応策としては、まず著作権の侵害を理由としてその投稿の削除を求める方法があります。無断転載者にDMなどで直接警告することでもいいのですが、X(Twitter)やYouTube、Instagram等の著名なサービスには、著作権侵害を始めとした知的財産権の問題について報告する仕組みが設置されています。
この仕組みを使って、該当する投稿が著作権を侵害するものであることと、そのように考える根拠を運営側に示して、プラットフォームに削除をお願いするのがもっとも簡便な方法です。
プラットフォーム側にそのような通報の仕組みがない場合は、裁判所に削除仮処分の手続を申し立てることを検討することになります。
▽3 発信者情報開示請求、民事・刑事上の請求
著作権は法的に認められた権利ですから、他人の著作権を侵害した場合は、不法行為として、著作権者に与えた損害を賠償しなければなりません。例えば、自分のペットの写真を使ったグッズを販売していたが、無断転載によって販売を妨害され売上が減少するなどの損害が生じた場合は、無断転載者に損害賠償を請求することも検討すべきでしょう。
損害賠償請求をするためには、相手の住所・氏名を特定する必要があります。しかし、ネットアカウントの多くは匿名で、見ただけではどこの誰なのかがわからないことがほとんどです。そこで、「中の人」を特定するための手続として、発信者情報開示請求という手続があります。この発信者情報開示請求で無断転載者の正体を明らかにした上で、損害賠償請求を行っていくことになります。
また、著作権侵害には刑事罰(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金又はこれを併科されます。著作権法119条)も定められています。無断転載が繰り返されるなど悪質な場合は刑事告訴することも視野に入ってきます。
無断転載に対する対抗手段として削除仮処分、発信者情報開示請求、損害賠償請求や刑事告訴などを紹介しましたが、これらの法的手続はいずれも複雑で手間がかかりますから、見通しをしっかり立てた上で実行しなければなりません。法的手続を検討する場合は、あらかじめ弁護士に相談することをおすすめします。
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【今回解説した記事】
▽地域情報サイトを悪用…“里親詐欺”か? 子猫の譲渡でトラブル、虐殺が疑われる写真も
https://maidonanews.jp/article/14271445