2010年代以降、山下達郎や竹内まりや、松任谷由実らに代表される「シティ・ポップ」と呼ばれる日本のポピュラー音楽の人気が世界的に高まっているという。2022年7月、仕事でロンドンを訪れる機会があったので、そのブームの一端に触れてきた。
現地在住の音楽ライターによると、流行発信地として知られるロンドン北東部のショーディッチ、スピタルフィールズ周辺エリアに、日本の中古レコードを扱うショップがあるとか。リバプール・ストリート駅から徒歩20分ほどのところに2021年4月にオープンしたばかりの「VDS LONDON」だ。VDSはVinyl Delivery Serviceの頭文字。店の入口には「IDLE MOMENTS」という別の店名が書かれているが、ワイン専門店とレコード店が一体化した業態らしい。
こぢんまりと洗練され、心地よい雰囲気の店内には、確かに日本のレコードが数多くある。山下洋輔や渡辺貞夫といったジャズからフォーク、YMO関連、懐かしいゲームやドラマのサントラ、そして津軽三味線などの「JAPANESE TRADITIONAL & OBSCURE SOUNDS」のコーナーまで設けられており、思っていた以上に日本に特化した品揃えだ。しかも店内で流れているのはPenguin Cafe Orchestra。セ、センスがよすぎる。
はてさてシティ・ポップは…と店内を回ってみると、ずばり「CITY-POP/SOUL/FUNK/DISCO(JAPAN)」の箱を発見。そこには山下達郎「MELODIES」(1983年)、竹内まりや「PORTRAIT」(1981年)などをはじめ、矢野顕子、濱田金吾、桃井かおり、松原みきといった名前が。値段はもちろんレコードによってまちまちだが、1£=160円とすると、例えば「MELODIES」は約5440円(34£)、「PORTRAIT」は約4000円(25£)、濱田金吾の「ハートカクテル」は少し高くて7360円ほど(46£)だった。※いずれも2022年7月現在。
店長をしている男性に聞いてみると、やはりシティ・ポップはロンドンでもDJやコレクターからの人気が高く、特に竹内まりや、杏里、松任谷由実、山下達郎などがよく好まれているという。ちなみに店で扱うジャズはやや中高年の人たちに、シティ・ポップは若い世代を中心に支持されているそうだ。
後日あらためて店を訪れたことろ、「こっちに日本人のスタッフがいるから」と店の奥にいたTさんという若い男性を紹介してくれた。東京、ドイツのレコード店を経て、数カ月前からこの店で働き始めたという。実は前回も店の奥にいたらしい。言ってよね…。
「シティ・ポップに関しては、近年アナログレコードの人気が再燃する中で、確かに注目されていますし、ヨーロッパ全体で人気がありますね。ソウルやディスコ、ジャズの流れでシティ・ポップをかけるDJもいます」(Tさん)
実はこのVDS LONDONの母体は、2018年に東京で設立された、中古レコードを専門に扱う「VDS」で、店長やTさんがいるVDS LONDONが初の実店舗なのだという。
Tさんは「ロンドンって日本人のコミュニティが少なくて、こちらの人が日本に興味を持っても入口があまりないんですよ。ここが日本の文化を伝えるひとつのきっかけになればと思っています」と話していた。
最後に、「お気に入りのシティ・ポップのレコードを持っているところを写真に撮らせてほしい」と店長に頼むと、「なんて難しいリクエストをするんだ…」と苦笑しながら、佐藤博の「SUPER MARKET」(1976年)をチョイス。撮影を終えると早速、店内のプレイヤーで流してくれた。ありがとうシティ・ポップ、ありがとう佐藤博、そしてありがとう店長とTさん。素敵なシティ・ポップを教えてもらいに、また遊びに行きたいと思います!
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