「社会の役に立ちたい」「社会貢献性の高い仕事をしたい」と思い、「解決したい社会課題」や「自身のテーマ」を探す人も少なくないのではないでしょうか。「社会課題の解決」を自身のテーマに、NPO・ベンチャー・官公庁と様々な立場から解決に挑む、文化庁・文化観光推進コーディネーターの丸岡直樹さんにお話を聞きました。どのように「自身のテーマ」を見つけていかれたかを伺います。
自分の人生は自分で決める。「楽しく生きるには?」からはじめたキャリア構築
ーまずは、学生時代から現在に至るまでの経歴を教えていただけますか?
大学在学中は、教育系NPOカタリバで学生職員(インターン)として、高校生のキャリア開発支援に携わっていました。高校生との対話を通して、キャリアや進路について考えるきっかけを届けることを主な活動とし、100校以上の高校に訪問、2000名以上の高校生と対話をしてきました。
卒業後は、歴史的建造物の利活用を通じたまちづくりに取り組むベンチャー企業「バリューマネジメント」に就職。1年目の終わりには、宿泊施設の現場責任者に任命され、2年目の終わりには6億円程度の売上を担う、宿泊事業のマーケティング責任者に就任しました。接客からマーケティング、サービスの設計などバリューチェーンでの業務を一通り経験した後、2017年には、バリューマネジメント宛てに官公庁からお声がけいただき、地域創生を推進するために、観光庁に出向することとなりました。
観光庁では、全国で地域の観光まちづくりを支援するために、50カ所ほどの地域へ通い、地域の方々との対話を通じて、地域初の試みを実現させるお手伝いをしてきました。観光庁への出向を終えたのち、一度バリューマネジメントに戻り、2021年2月より、今度は文化庁で文化観光推進コーディネーターとして仕事をしています。
文化庁では、大切な文化が今後も継承されるように、お城に泊まれる体験“キャッスルステイ”の実現や、現代アート×伝統工芸の協業など、文化を理解し感動できる機会を創る“文化観光”に取り組んでいます。
ー本当に、様々な環境で活躍されているんですね…!
人生、何があるかわからないですよね(笑)。まさか私もこういう人生になるとは思っていませんでした。組織や環境の違いなど関係なく、 どれも最高に面白くて。
-ソーシャルセクターであるNPO、ベンチャー、官公庁と、規模も仕事の進め方も全く異なる組織で仕事を経験してきた方は多くないと思います。「まさかこんな人生になるとは」というお話もありましたが、どのような流れでこれまでのキャリアを歩むことになったのか、就活時代について、詳しく教えてもらえますか。
就職活動では、「どんな人生を送りたいか」と、自分自身に問いを投げかけることで、段々と思考を深めていきました。 まずは、たくさんの選択肢のなかからどの仕事を選んでも変わらない「私自身が大切にしたいこと」 から考えました。
ここからは、自分に問いかけていった順にお話したいと思います。
▽Q1.どの人生を選んだとしても、変わらず大切にしたいことは?
「人生を楽しく生きたい」ということは共通していると思いました。なんなら全人類、楽しく生きたくない人はいないはずです(笑)。次に、私にとって楽しく生きるとは何か、考えたんです。
▽Q2.楽しく生きていると感じるのはどういう時か?
ただ毎日をゲームや趣味に時間を使うことももちろん賛成ですが、私が本当に「楽しい」と感じるときは、「価値があると思えることをしているとき」だという考えに行きついたんです。「誰かのためになりたいと本気になったとき」や「目の前の人の役に立ちたいと思うとき」に、「楽しさ」というか、熱がこみ上げる感覚がありました。
-「誰かのため」を実践しているときに「楽しい」と感じる。そう思うようになったのには、きっかけなどがあったのでしょうか?
インターンをしていた、教育系NPOカタリバでの経験が大きいかもしれないです。高校生は家と学校など狭いコミュニティの中で生活しているので、生まれ育った環境によって、こういう風になりたいと憧れるロールモデルの多様性が限られているという「憧れの格差」があると言われています。私自身が高校生と対話をすることや、対話の場を高校に届けることで、目の前の生徒の可能性が広がることを、身をもって実感してきたんです(そして同時に私自身も、多くの気づきを高校生からいただきました)。そんな「誰かのため」に頑張れる時間、言い換えれば「社会課題」に向き合い、「社会」や「他者」に貢献できている時間が、私にとって価値のある、「楽しい」と感じられる時間でした。
▽Q3.どのように人の役に立ちたいか?
医者や教師のような、一人ひとりに向き合う仕事も尊いですし、素晴らしいお仕事だと思うのですが、私としては、自分の価値を届けられる人数が限られてしまうと、社会課題の根本解決には遠いように思うところがあって。逆に、同級生の中には、官僚を目指す人も多くいました。国の規模感だと、たしかに多くの人にアプローチすることができると思います。でも、「顔が見えない」と言うか…。当時の私は国の規模感で仕事をするとなると、大きな組織のなかで、歯車になってしまうのではないかという不安があったんです。
信頼関係の築ける顔の見える関係でありながら、一人ずつではなくもう少し規模感のある仕事がしたいと考えたときに行きついたのが、「人々(組織・コミュニティ)」に関わる仕事です。
コミュニティの中に素敵な仕組みや価値観が浸透していたら、たとえ私がいなくなったとしても、そのコミュニティにいる人が豊かであり、その人々が周りにポジティブな影響を広げることで、社会を良くできるのではないかと考えるようになったんです。
当初は組織を良くしていく企業再生コンサルタントなども視野に入れてみたのですが、結局のところ、より多くの利益を生み出せる案件が優先されることになるので、私の中では若干違和感があり、どのような組織・コミュニティに関わりたいかを考えるようになりました。
▽Q4.自分が力になりたいコミュニティってどういうところだろう?
人生の時間を費やす意味のある「コミュニティ」はどこかと考えたときに、「ローカル・地域のコミュニティ」ではないかと気づきました。地域社会は、色んな人の想いが蓄積され、多くの人の支えになっています。一方で、過疎化や財政難などを背景に、存続が危ぶまれる地方もあります。10年後、30年後を見据えて、先祖からのバトンを次の世代に紡いでいくことは、今働いている世代にしかできないことなので、私自身が仕事にする価値や意味を強く感じました。
ローカル・地域をメインの仕事にしていますが、興味の根底は「人」にあるので、教育領域や人が輝く瞬間を支援することは、やり続けたいことの一つです。なので、私自身が勤める会社自体や組織を良くしていくことにも当然興味があります。バリューマネジメントで人材開発部に所属していた期間はありませんが、他の業務と兼務という形で、入社以来、自社の「採用」や「研修」、「組織開発」にも携わってきました。私自身が興味を持ち、「価値を届けたい」と思える人や組織の役に立てていることが、たまらなく楽しいです。仕事ではあるものの、心からやりたいと思えることに取り組めているので、仕事量が多くても苦にならないですし、面白さを感じています。
-お話を伺っていると、丸岡さんが仕事を楽しんでいることが、ひしひしと伝わってきます。
◇ ◇
【「まちづくり」の社会課題に取り組む 丸岡直樹さん】
学生時代は教育系NPO「カタリバ」で学生職員(インターン)を経験し、高校生のキャリア開発支援に従事。大学卒業後は、歴史的建造物の利活用に取り組む「バリューマネジメント」で、宿泊施設の現場責任者、宿泊事業のマーケティング責任者を経験後、観光庁に出向。現在は、文化庁に出向し、文化観光推進コーディネーターとして、文化や観光を軸にした「まちづくり」に取り組んでいる。
ストレングスファインダー:学習欲、個別化、着想、ポジティブ、達成欲