「田舎の本屋に我社の本があるイメージない」から一転 出版社の協力を取り付けた書店のポップとは   

京都新聞社 京都新聞社

 「みすず書房の本を販売したい旨を伝えたところ、田舎の本屋に我社(わがしゃ)の本がならんでいるイメージが浮かばないと言われた」。12月中旬、そんな書店と出版社とのやりとりを赤裸々につづった書店のポップ広告がツイッターで話題になりました。ポップはユニークな字で段ボールを再利用して書かれています。ポップが書かれた背景について、執筆者である書店の社長に聞きました。

 話題となったポップがあるのは、滋賀県守山市の「本のがんこ堂守山駅前店」です。この書店は売り場面積約70平方メートルの比較的小規模な店です。その入り口に話題となったポップがあります。

 冒頭の一文に続いて「なんやかんやとねばると売り場写真を送れとの事‼写真を送ると、POPの字がよいとの理由でやっとOKが出ました」と経過が書かれています。

 詳しい背景を本のがんこ堂の田中武社長(66)に聞きました。

 ―みすず書房は文学書や芸術書、人文科学の学術書で知られる、東京に本社のある「お堅め」の出版社です。なぜあのようなポップを書いたのですか?本当に断られたのですか?

 「本のがんこ堂では以前からみすず書房の(ナチスによるユダヤ人の強制収容所の体験記)『夜と霧』がよく売れるんです。半年ほど前、みすず書房フェアをしたいと、総括部長が出版社に打診した。楽勝で簡単に本が送られてくれると思っていた。そうしたら、滋賀県でみすず書房のフェアはしたことがない、20坪くらいの書店に本が置いてあるイメージすら湧かないと言われたんです」

 ―そこで売り場の写真を送ったわけですか?

 「そうそう。当時、守山駅前店でやっていた『知が集う書物の祭典』というフェアの様子を写真に撮って送ったんです。そこで筆文字のポップを見たみすず書房の担当者が『すばらしい』と言ってフェアをやることになった」

「おっさんやっとる」

 ―その後、ツイッターで話題になりました。

 「ツイッターに書いたのは『物を売るバカ』(角川新書)という本以来、交友のある川上徹也さんという作家さんでね。大阪に行く際に、うちの店に寄ったらしい。手書きのポップを見て『相変わらず、おっさん(田中社長)がやっとる』という具合でツイートしたみたい」

 ―それが大きな話題に。

 「バズると言うの?になってた。アルバイトの店員が『本のがんこ堂守山駅前店がツイッターで話題です』と教えてくれた。見せてもらったら、わしのポップやった」

みすず書房とは良好な関係

 ―みすず書房さんとは、どういう関係に?

 「ツイッターでは『みすず書房が上から見ている』という意見もあったみたい。今は良好な関係。フェアを始めて2カ月ほど守山駅前店では、みすず書房の本が約40冊売れた。『守山駅前店でみすず書房の本を常設にしたい』と打診すると、みすず書房は『ぜひとも』と言ってくれた』」

 ―本のがんこ堂の書店にはほかにもユニークな書体のポップが多いです。

 「手書きのポップはほとんど(社長自身が)筆かフェルトペンで書いている。手書きの方が早いもん。読みやすい字、親しみやすい字と気分で自由に変えられますよ。書くのは本が送られてくる段ボール。段ボールは大きさも堅さもちょうどいい」

守山が日本一本を読む町に

 ―本のがんこ堂は滋賀のローカルチェーンでカフェを含め全7店舗あります。今後、守山駅前店はどんな店舗にしていきますか?

 「本好きの人が来てくれるような、もっともっと変わった本屋にしたい。たくさんお客さんが来て、本当に楽しんでくれる書店にしたい。ちゃんとしたいい本屋をつくると、お客さんが喜んでくれる。やがては、守山市が日本一本を読む町になってほしいし、それにふさわしい本屋にしたい」

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