これぞ「オーサンビュー」だ! 世界最大級の両生類が埋め尽くす部屋に泊まってみた

脈 脈子 脈 脈子

 オオサンショウウオをご存知だろうか。川にひっそりと棲む地味ぃな色の生き物。世界最大級の両生類と言われるこの生き物の魅力はしかし、地味なんてものではない。何時間でも眺めていられる愛くるしさがあり、そうしているうちに内なる母性たちが総スタンダップして、オオサンショウウオへの愛おしさを叫びはじめる。

 「オオサン!オオサン!オオサン!」

 筆者はなぜこんなにオオサンショウウオに惹かれているのか?深海生物をはじめ水生生物は好きだが、オオサンショウウオに格別の思い入れがあったわけではない。こうなったのは、クロスホテル京都(京都市中京区)が手がける、狂気じみたコンセプトルームがすべての始まりだった。 

見渡す限りの絶景「OH! san View Room」 

 眼前に美しい海が広がる部屋のことを「オーシャンビュー」というのなら、どこに視線を向けてもオオサンショウウオが目に入る部屋を「オーサンビュー」というのは至極妥当だろう。

 なにせ、棲家のある鴨川から京都水族館への道中、わいわいと90頭以上のオオサンショウウオが集まってきちゃった(というテイ)のだから。インスタやTwitterでは「#ohsanviewroom」で盛り上がっている様子も見えるが、百聞は一見にしかず。実際に泊まってみようじゃないか。

 電車に揺られ降り立ったのは、東海道五十三次の終点であり、石川五右衛門が「釜茹での刑」に処された三条河原にかかる三条大橋。鴨川を木屋町方面へと渡り、かつて多くの京都ピープルたちが青春の時間を過ごしたという「京劇ドリームボウル」があった高瀬川のほとりを目指す。

 河原町通りと高瀬川に挟まれた場所に建つクロスホテル京都。足を踏み入れたロビーには、いい匂いが上品に漂っている。迎え入れてくれるスタッフの柔らかな笑顔がとても温かく、ホッとする。空間・接客・流れる時間、すべてが心地よく、「こんなラグジュアリーなホテルに、本当にあんな部屋があるのだろうか?」という疑念を拭えない。ルームキーを手に案内表示を確かめながら角を曲がると、なにか、いた。

 「OH…!」

 ドアを開ければ、そう声を漏らさずにはいられない。もはや、ここはくつろぎの時間が約束されたラグジュアリーホテルの1室というより、オオサンショウウオのアジトである。おじゃましまーす...と遠慮ぎみに会釈をして中へ。

 実際に自分の目で見ると、想像以上の迫力と存在感がある。このウォールステッカーのイラストを担当したのは京都・滋賀を拠点に活動するデザインユニット「YOSHIDAKE」の吉田亮太さん。鴨川に棲むオオサンショウウオをモチーフにしたコンセプトルームを作ると決まった時には、可愛くデフォルメするという案も出た。

 その時「いや、そうじゃない」と異を唱えたのが総支配人の粂野隆史さん。「オオサンショウウオの魅力を、ちゃんと伝えたい」との思いからだった。その熱意をくんだ吉田さんのイラスト原案は、監修した京都水族館の飼育スタッフも驚くほどのクオリティで、ほぼ一発OKだったという。

 ところで、室内を縦横無尽、好き勝手にぬめぬめしているように見えるオオサンショウウオたちだが、実は鴨川サイドから入って右回りに壁を這い、京都水族館方面へ出ていく“一方通行”である。これもデザイナー吉田さんの案。あくまで、京都水族館への旅の途中ですからね。この一方通行が、カオス状態のこの部屋に秩序を生み出しているのも趣深い。 

オオサンショウウオに見守られてワーケーションしてみた

 テーブルでパソコンを開き、先ほどのインタビューをまとめる筆者の背後はこんな感じである。なんか、たまらん。

 なお、部屋にはHarman Kardon(ハーマンカードン)のスピーカーが設置されているという気の利きよう。さっそくBluetoothで接続して、BGMを流す。さすが、めちゃくちゃいい音!仕事がはかどる。

 キリが付いたら「OH! san View Room」だけに資料として置かれている書籍「はっけん!オオサンショウウオ」を読んで、もう少しオオサンショウウオのことを勉強しようかな。ふかふかの大きなベッドにごろりと寝転がる。もちろん視界の端では、オオサンショウウオたちがぬめぬめしている。

 天井のオオサンショウウオを数えているうちに、スヤっと眠ってしまったらしい。まぶたを開くと飛び込んでくる、オオサンショウウオたち。「よっ!今日もいるねぇ。元気かい?」と、挨拶も軽やかである。最初こそ、あまりの数にひえぇぇぇとなったが、お風呂もトイレも一緒に過ごしているうちに、相棒のような存在になっている。なんだろうこの気持ちは。

 ちなみに「OH! san View Room」の企画に携わった同ホテル広報の土屋薫さんは、集合体を直視することができない体質だそうだ。ところが、今では愛着が湧いてきたと言い、取材中たびたび、壁にいるオオサンショウウオの頭を愛おしそうになでていた。愛着を呼び起こす何かが、オオサンショウウオには、そして、この部屋には、ある。

 この「OH! san View Room」には、宿泊人数分の京都水族館入場券と、エコバッグ付きオオサンショウウオのぬいぐるみかホテルで使用しているものより、ひと回り小さいウォールステッカー1シートのどちらかを、1人1つずつ選べるお土産が付いている。

 さらに、室内のオオサンショウウオの数を数えて正解すると、ここでしか手に入らない記念ステッカーまでもらえてしまうのだ。なお、筆者は都合7回数えて、間違えた。

いよいよ本物へ会いに行く

 オオサンショウウオへの愛着も最高潮の状態で、いよいよ本物に会いに京都水族館へ。太古から姿がほとんど変わらず、清流に棲む川のぬし、オオサンショウウオは日本・中国・アメリカに生息し、それぞれが固有種だった。ところが近年、鴨川では日本のオオサンショウウオと中国のオオサンショウウオの交雑が進み、日本固有の個体は絶滅の危機に瀕している。国の特別天然記念物に指定されていて、許可なく触ることはできない。

 京都水族館にたった1頭しかいない日本固有種のオオサンショウウオ。いったいどんな姿をしているのかと水槽を覗き込むと、あくびしてる〜〜!!!なんと人間くさい!と親近感を覚えるが、こちらは人間より歴史の古い生き物。むしろ、あらゆる生き物の祖先なのでは?とすら感じる。オオサンショウウオに感じる愛着の源は、これかもしれない。

 あくびをしたりと、のほほんとしているように見えるが、野生のオオサンショウウオが置かれている状況は、実は厳しい。河川の堰堤工事などで、彼らが暮らせる自然環境が減少しているという。水族館での飼育は、太古の姿を伝える貴重な生き物とヒトとの共存を図る上で、大切なデータとなるのだ。

 京都水族館の広報を務める奥村亜紀さんは「ホテルとの取り組みが、よりオオサンショウウオへの理解に繋がってほしい」と話す。

 「OH! san View Room」から気がつけば種の保存の重要性に流れ着いていた。オオサンショウウオを、守りたい...!日本の固有種を守る取り組みにも、もっと理解を深めなくては。ささやかな問題意識が芽生えると同時に、来たる9月9日のオオサンショウウオの日に行われる予定だという、京都水族館・クロスホテル京都それぞれのイベントのためにスケジュールを押さえておかなければと考えながら、筆者は京都の街を後にした。

◇ ◇

「OH! san View Room」クロスホテル京都
京都府京都市中京区河原町通三条下る大黒町71-1

▼夏休みが狙い目!予約はウェブサイトまたは電話にて
https://www.crosshotel.com/kyoto/
075-231-8833(宿泊予約)

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