人間が怖くてご飯も食べられなかった元保護犬 生まれた子犬と一緒に歩む「ゆっくりでいいよ。心を開けるまで、待ってるから」

渡辺 陽 渡辺 陽

殺処分対象の元野犬

姫ちゃん(10歳・メス)とミルクちゃん(5歳・メス)は親子。広島県に住む吉田さんは、姫ちゃんを山口県周南市の健康福祉センター(保健所)から引き取ったのだが、その後、姫ちゃんが妊娠していることに気づいたのだという。
「昔飼っていた保護犬が天寿を全うしたのですが、何気なくSNSを見ていたら姫が掲載されていたんです。周南市では野犬を捕獲器で捕獲しているので恐らく野犬だったのではないかと思います。殺処分対象と書いてあったので、連絡をして引き取ることにしました」

妊娠判明、そして出産

吉田さんは、センターから引き出したその足で姫ちゃんを動物病院に連れて行き、健康診断をして虫下しやダニ避けの薬をもらった。野犬の成犬を迎えたのは初めてなので戸惑うことが多かったという。
「家では恐怖のあまり固まってしまって、ケージの奥で小さくうずくまり、全く動きませんでした。トイレもごはんも人前ではできなかったので、1日に数時間、姫だけになれる時間を作ってあげました」

やがて姫ちゃんのお腹と胸がふっくらしてきた。吉田さんが動画を獣医師に送ると、「あ〜、妊娠しているね!犬運強いね〜!」と言われた。
「周囲の人は心配しましたが、私は涙が出るほど嬉しく思いました。1週間後4匹の子犬が誕生しました」

尻尾フリフリではないけれど

元気いっぱいの子犬たちが吉田さんに甘える姿を見て、姫ちゃんも少しずつ心を開いてくれた。吉田さんは子犬たちがトイレをいろんなところにしても物を壊しても温かく見守った。
「この子たちを育てて『待つこと』の大切さと『受け入れて楽しむこと』の喜びを知りました」

しかし、4匹みんなを飼うことはできないので里親を探したという。3ヶ月後、3匹の子犬はそれぞれ愛情あふれる里親さんに迎えられ、旅立っていった。吉田さん宅に残ったミルクちゃんは、まるで姫ママを守るかのように振る舞ったそうだ。姫ちゃんは、1年半かけて散歩の楽しさを味わってくれるようになった。

姫ちゃんはまだ完全には心を開いているわけではないが、確実に前に向かって進んでいる。ミルクちゃんは吉田さん一筋。甘えん坊なんだという。
「姫は尻尾フリフリで駆け寄ってくるわけではありませんが、野犬がゆっくりと心を開くさまは人の心を温かくしてくれます。元野犬を迎える人が増えてくれることを願っています」

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