目の錯覚を利用した「トリックアート」でうっかり事故を防ぐために描かれた「花壇」が”設置”され、注目を集めている。場所は大阪府の羽曳野市立生活文化情報センター「LICはびきの」敷地内。絵はプロチョークアーティストのAO(アオ)さんが指導し、就労継続支援B型事業所「マリアワークス京橋東」の障がい者男女4人が描いたもので全国初の試みだという。
今回、注意喚起を促すトリックアート「色とりどりの花が咲く花壇」が描かれたのは図書館などが入る羽曳野市立生活文化情報センター「LICはびきの」敷地南西部分。写真で見て分かるように、これまでテラス部分とバス停につながる境界の段差に気づかず、事故が相次いでおり、市民から改善を求める声が上がっていた。
「実際には2段ほどあるのに、道路につながっていると思い込み、車がそのまま進んで脱輪したり、見えづらい夜間に自転車に乗って、階段に落ちて転倒するケースもありました」と市の関係者。山入端創(やまのは・はじめ)羽曳野市長もどうしたら事故が防げるか、その対策に頭を抱えていたという。
今回の試みが実現した経緯はこうだ。どう改善するのがベストなのか考えていた羽曳野市の山入端市長が、たまたま大阪府議会のインターネット配信で「トリックアート」による交通事故抑止の提案がされている場面を視聴。即座に提案者の大阪府議にコンタクトを取り、話を進めた。
山入端市長が持ちかけたのは「市民のみなさんの安全を第一に、環境や景観に配慮した方法で注意喚起できないか」というもの。これを受けた府会議員が交流のあるマリアワークス京橋東へ橋渡しをしてトリックアートによる事故防止策が誕生する。
というのも、マリアワークス京橋東の森川峰男さんによると、週2回のペースでプロチョークアーティストのアオさんを招いて、トリックアートやチョークアートなどの教室を開催。個性的な作業を行っていたことから即戦力として、障がい者男女4人が加わることになった。
コンセプトは施設のテラスから金剛山を望むことができることや道路の向こうに古墳公園が広がっていることから「色とりどりの花が咲く花壇」を描くことに決定。3月8日に製作を始め、4月8日に完成した。
製作に参加した4人は40代から60代の男女。マリアワークス京橋東によると「仲間とともに最後までやり抜くことで達成感が得られたようですし、社会参加、社会貢献できることを何より喜び、楽しんで絵を描いていました。このような形で利用者がトリックアートを描き、事故防止に貢献する試みは全国では初めてでは」と話した。
チョークアートはもともとオーストラリアが発祥。黒板用のチョークで描かれることもあれば、オイルパステルという油性で色あせにくいものを使うケースもある。「こちらが驚くほど上達しており、作品の完成度はどんどん高くなっています」と森川さんは言う。
ちなみに、先生役のアオさんは2017年に第12回日本チョークアーティスト協会展でホルベイン画材賞(最優秀賞)受賞、2018年にはテレビ東京「TVチャンピオン チョーク看板王選手権」でセミファイナリストになっている。
羽曳野市では「これを機会にトリックアートを導入し、他の場所でも事故防止に取り組んでいきたい」と話している。就労者の活躍の場を広げ、それが事故の防止につながる。こんなサイクルは今後、どんどん広がって行きそうだ。
▼就労継続支援B型事業所「マリアワークス京橋東」
大阪市城東区蒲生3-15-4 ドエル小泉2F、電話06(6955)8712
※利用できるのは18歳以上65歳未満の障がいやや難病のある方で継続して仕事をしていきたい方や今後就職や社会復帰を希望される方が対象。今年4月から増枠しており、見学者を随時受付中。