飼い主の夜逃げやカップルの破局で居場所を失った猫たち 保護猫カフェの看板三姉妹に

古川 諭香 古川 諭香

岐阜県可児市にある「保護猫カフェmoff moff」はJR太多線下切駅から、ほど近い場所に佇むお店。日の光がたっぷり入り込む店内には、ずっとのおうちと新しい飼い主さんに巡りあえることを待ち望む猫たちがいます。

そんな保護猫カフェmoff moffには、「看板三姉妹」が。3匹はみな、人間の身勝手な事情に振り回されてきました。

多頭飼育崩壊を生き抜いた、なびす子ちゃんとおれ緒ちゃん

「自宅で70匹以上保護されている保護活動者さんもいるので、当店でお預かりをして里親探しをすることで、猫も保護活動者さんも助けられないかと思ったんです」

オープンの経緯を、そう語るのはオーナーの市川智恵美さん。「看板三姉妹」の一員である、なびす子ちゃんとおれ緒ちゃんは、お店を始めるために物件を購入した時、インターネットの里親募集サイトで出会った仲良し猫。

実は2匹、多頭飼育崩壊の現場から救出された子たち。東北の地震で被災した元飼い主さんは、ある日、大量の猫を残して夜逃げ。連絡を受けた保護団体が現地に向かうと、そこには50匹以上の猫が…。

「家の周りは、猫だらけ。道路で轢かれていた子や家の中から出られずに餓死してしまった子もいたそうです。マヨネーズやケチャップ、木の枝などを食べて生き延びており、痩せた子ばかりだったようで…」

よくぞ、生き抜いてくれた…。経験した悲惨な過去を知った市川さんは心からそう思い、2匹を迎えることにしました。

迎え入れた当初は警戒し、高いところから降りてこず。

しかし、2匹はもともと人間が好きだったようで、2日ほど経つと甘えて来てくれるようになりました。

「撫でられるのは最初から好きでしたが、徐々に抱っこもさせてくれるようになり、数年後には一緒にお布団に入って寝てくれるようになりました」

 

2匹は夏以外、布団に入ったり、市川さんの上に乗ったりしながら一緒にスヤスヤ。

「なびす子は穏やかな性格で、おれ緒は目が合うだけで寄ってくる人間好き。控えめながらも甘えてくれる姿が、本当にかわいいです」

カップルの破局が原因で里親募集されたすあまちゃん

そんな2匹と暮らす中で、新たに迎え入れたのがマンチカンのすあまちゃん。

すあまちゃんも、インターネットの里親募集サイトに掲載されていた子。

「飼っていたカップルが別れたため、しばらくは彼氏のほうがお世話していましたが、やっぱり飼えないから連れていってと彼女に連絡。しかし、彼女は結婚しており、飼えないとのことで募集に至ったようです」

すあまちゃんは、とても怖がりな性格で、お迎え後も、しばらくはケージの隅っこで固まり、夜鳴き。

そこで、市川さんは普段の居場所であるリビングにケージを設置し、まずは自分に慣れてもらおうと考えました。

「毎日、声をかけ、撫でていたら数日ほどで私には懐いてくれました。なびす子とおれ緒は、その様子を遠目で見守ってくれていましたね」

その後、すあまちゃんは市川さんの膝に自ら乗ったり、手などを舐め、すり寄ったりと積極的にスキンシップをとってくれるように。

人見知りで、他の人にはまだ上手く甘えられませんが、心を許せる相手ができた喜びを噛みしめているようです。

猫の命を紡ぐ「保護活動者の現状」も知ってほしい

そんな「看板三姉妹」、実はすあまちゃんとおれ緒ちゃんの相性があまりよくないため、市川さんは住み分けをすることで、どの子も伸び伸び暮らせるように配慮。

「追い詰められて漏らしてしまうことがあったので、すあまにはカフェのスペースで生活してもらっています。現在、お店で看板娘として出てくれているのは、ほぼすあまです」

 

ただ、3匹の距離は少しずつ縮まっているようで、たまに顔を合わせても喧嘩をする素振りを見せなくなってきたのだとか。

「実は、なびす子は最近、FIP(猫伝染性腹膜炎)だと診断されました。病状は軽く、落ち着いていますが、どの子も、とにかく健康で長生きしてほしいです」

そう語る市川さんは保護猫カフェを営む中で、「看板三姉妹」以外にも人間の都合に振り回されて苦しむ猫たちの姿を、たくさん見てきました。

中でも、多いのは多頭飼育崩壊。

「最初に不妊手術をしてくれていたら、行き場がなくなって苦しむ猫も増えず、費用も少なくて済んだのに…と思ってしまいます。決して、猫たちが悪いわけではありません」

また、普段から保護活動をしている方々の苦悩に触れているからこそ、その厳しい現状を多くの人に知ってほしいとも思っています。

保護猫カフェmoff moffでは基本的に一般の方からの保護依頼は受け付けておらず、保護活動者と連携し、猫を受け入れ、里親募集を行っています。

 

市川さんはカフェにいる子たちの健康を守るため、必ず隔離期間を置き、初期医療の済んだ子のみをお店に迎え入れるよう、徹底。もしも、一般の方から保護依頼があった場合は繋がりのある保護活動者に連絡し、保護をするには初期医療費がかかることを保護主に説明してもらっています。

しかし、そう伝えると、『詐欺だ』とか『そっちは好きでやってるんでしょ』と言われたことがあったのだそう。

「だから、保護ボランティアという言葉がいけないのかなと思い、私は保護活動者さんと呼ぶようになりました。市も保護を無償依頼してくることがあるそうですが、保護活動者さんはほとんどの方が身銭を切っており、すでに保護した子たちにもお金がかかることを理解してほしいです」

最近は、保護猫という言葉の認知も進み、SNSでは子猫を拾った投稿者に対して「保護団体さんに連絡を…」という善意の声がかけられることも多いもの。しかし、市川さんはギリギリの中で保護を続ける保護活動者の姿を見ているからこそ、「安易に頼るのではなく、保護活動者さんの苦労にも目を向けてほしい」と感じています。

動物と暮らしたい、助けたいという想いは尊いもの。しかし、中途半端な愛し方だと、結局、動物の心を傷つけることになってしまうことも少なくありません。

目の前にある命と、どう向き合うか。保護猫カフェmoff moffの「看板三姉妹」は、そんな問いを私たちに投げかけながら、飢えや見捨てられる恐怖に怯えなくてもいい暮らしを謳歌しています。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース