みなさんは1秒間に「タ」を何回発音できますか。回数の少ない人は2年後、フレイル(健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)になりやすいことが岡山大学の研究で分かりました。舌前方の運動機能の目安とされる「タ」の発声。フレイルを予測するメカニズムの解明はこれからですが、「タ」の発音を訓練すれば、フレイルに陥るのを防ぐことができれば…。
岡山大学病院歯科・予防歯科部門の竹内倫子講師、岡山大学学術研究院医歯薬学域予防歯科学分野の森田学教授らの研究グループが明らかにしました。研究成果は、2022年1月20日、スイスの学術雑誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されました。
岡山大学病院歯科・予防歯科部門を受診した60歳以上の患者を対象に、フレイル評価をした上で健康だった人97人について口腔機能や歯の状態、歯周状態を調べました。口腔機能では、舌の背側の細菌数▽口腔水分▽舌圧▽咬合力▽咀嚼能力▽嚥下機能▽ODKを検査しました。ODKは、唇の運動機能を反映する「パ」、前舌の運動機能を反映する「タ」、後舌の運動機能を反映する「カ」について、それぞれをできるだけ早く5秒間繰り返し、発音回数を調べる検査です。
2年後、97人は健常群63人(うち男性は21人)、フレイル群は34人(うち男性13人)で区分されました。さまざまな要因を分析すると、「タ」を発音する能力は2年後のフレイル状態との関連性が強いことが判明しました。2年後も健康な人は、1秒に平均して6.3回発音できたのに対して、2年後にフレイルに陥った人では5.9回で、舌の動きがやや衰えていたことが判明。発音能力と未来の健康状態は深く関連しているとみられます。
口腔機能を維持・向上するには、顔の表情も豊かにする「顔面体操」、舌の動きを滑らかにする「舌体操」、唾液の分泌を促す「唾液腺マッサージ」などの健口体操が効果的とされており、自治体や歯科医師会が教室を開催するなど力を入れています。岡山大の研究者は「舌の動きは訓練すると維持・改善できるといわれているため、舌の動きが衰えないようしっかり動かすことで、フレイルを予防できるかもしれません」とコメントしています。
岡山大学のリリースはこちら→http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id934.html
International Journal of Environmental Research and Public Healthのオンライン版はこちら→https://www.mdpi.com/1660-4601/19/3/1145/htm