桂小枝さんの名物CM「冬は、貼る。桐灰、貼る」関東の人は知らないって本当? 業界トップシェア、桐灰カイロの知られざる世界に迫る

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寒い日、関東で生まれ育った友人に、うさぎのイラスト付きの「あれ」を渡した。「半日たってもずっと温かいね」って、当たり前のことで驚くやん。ていうか、あの落語家が出てたコマーシャル知らんって、どういうことなん? 調べると、地域によるシェアの違いが見えてきた。ここまで読んでぴんとこない人は「そっち側の人」かも。

あれやん、あれ。そうそう、桐灰カイロだ。キンキラキンのキン。

偶然にも、筆者が担当する地域に国内の桐灰カイロの7割以上を生産する工場があったので、その歴史から教えてもらいに伺った。

桐灰カイロは1915(大正4)年、金属製容器に入れて持ち歩く固形灰の製造会社として広島市で始まった。桐灰化学工業、桐灰化学などに社名を変え、2001年からは小林製薬(大阪市中央区)グループの100%子会社となった。

「懐の暖炉」という意味の「懐炉」。桐の炭は火持ちが良く、高級品であったことから、品質にこだわり、1930年に「桐灰」を商標登録している。

76年に、現在の形に近い不織布入りの使い捨てタイプを販売した。鉄粉や活性炭を交ぜ、酸化反応する際の熱を利用している。

現在、内容量の違いにより、貼るタイプは最長14時間、貼らないタイプは24時間温かさが持つ。「カイロブレンダー」と呼ばれる研究職員が「何度を何時間」という正確な調合を日々追究。不織布のきめの細かさで空気と触れる具合を計算し、温度を均一に保ち続ける。2021年12月現在、カイロシェアは全国1位だ。

今や中国や台湾など、海外にも桐灰カイロの生産、販売拠点は広がっている。ただ、国内では流通する地域に差があるという。

「オホーツクの流氷にやってきました~。とにかく寒いです。早く『桐灰貼る』で温まろうと思います~」。「冬は、貼る。桐灰、貼る」。一部地域に住む人にはなじみのあるせりふかもしれない。僧侶に扮した落語家の桂小枝さんが出演し、95年から2015年まで放送されたテレビCMの一場面だ。

兵庫で生まれ育った筆者は、「流氷の中を漂う僧侶姿の小枝さん」という、よく考えれば異様な光景を、疑問も持たずに見てきた。どうしても膝上のスカートがはきたかった高校時代、貼るカイロには大変お世話になったし、貼らないカイロにサインペンでミッキーマウスやドラえもんを描いて友人と交換したのも懐かしい。

貼る・貼らないカイロの放送圏は北陸、中部地方を含む西日本と北海道のみで、販売地域もこれらの地域で半数以上を占めているという。

現在、小林製薬が商品を開発し、兵庫県三田市と群馬県藤岡市に工場を構える桐灰小林製薬がカイロの製造を担っている。三田に工場を置いたのは1992年。高速道路のインターチェンジに近く陸路での配送に便利なことが理由だ。年間、国内で生産するカイロ約4億枚のうち、約74%が三田で作られている。

関東には他社製品が多く流通しており、店頭に並べることも難しいのが現状だという。桐灰小林製薬の北居良顕社長(52)は「関東では『付加価値』カイロで売り出していきたい」と展望を話す。

首こりや腰痛に効く温度と形状の「血流改善」シリーズは、温度の持続が保証されていることから、医療機器として活躍している。ほかにも、従来品より平均温度が10度高い61度で、最高73度にまで達するカイロ「マグマ」は、冬のスポーツ観戦や外での長時間作業に最適。温かさプラスアルファの商品を生み出し、全国で販売している。暖冬など、気温によって売り上げが左右されない商品の開発も進めている。

ちなみに、筆者が受け持つ三田市は「兵庫のシベリア」とも例えられる寒さの厳しい地域。外での取材では手とペンの間にカイロをはさみ、字が書けなくなるのを防いでいる。工場を置いた理由に商品の耐久実験ができる地域だという考えはあったのか尋ねると「そういうつもりはないですが、本当に寒いので多くの人に使ってもらいたいですね」と懐深く、あたたかい笑顔で答えてくれた。

(まいどなニュース/神戸新聞・喜田美咲)

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