和菓子店にとっての海原雄山「怖いお客さん」とは? その理由に納得「私、怖がられている可能性」「プレーンオムレツ、ジントニックみたいな立ち位置」

竹内 章 竹内 章

和菓子屋さんにとって最恐のお客さんは、店先で怒る人ではなく、「きんつば」のみを買い求める人です。餡子(あんこ)本来の味をそのまま味わえるシンプルなお菓子ゆえ、作り手の仕事が物を言うのがその理由といいます。そんな和菓子の世界の奥深さを伝える、金精軒製菓(山梨県北杜市)のツイートが話題です。中の人に聞きました。

明治35年創業で信玄餅で知られる金精軒製菓。SNS担当者が「ネットで「怖いお客さん」と検索すると、文字通りの怒ると怖い方の話がたくさん出てきますが、和菓子屋からすると「きんつば」だけをお買いになる方は少し怖いです」と意味深なツイート。「和菓子の魂である餡子の味が直球で味わえるお菓子なので、これがお口に合わなかったらどうしようもないからです。」という告白に、「職人の世界やな」「それ、良くわかります」と共鳴共感するユーザーが相次いでいます。SNS担当者に取材しました。

ー餡子は和菓子屋さんにとって店の代名詞のような存在なのでしょうか

 「和菓子屋さんのご主人には謙虚な方が多く、『情熱を注いで作った餡子でも、それがお客さんに伝わって緊張させてしまうようなお店にはしたくない』という計らいをされるお店があります。一方、『お店で餡子を炊くのは特定の職人さんにしか許されていない』といった体育会系ど真ん中の和菓子屋さんは、『餡子は自分の人生そのもの』という思いが込められているので、今回のつぶやきが当てはまるかと思います」

 ー御社は体育会系ですか

「当社はどちらかというと前者です。僭越ながら餡子にほんの少し自信がある一方、素材が良くても餡子がまずかったら言い訳が効かない環境にあるので、餡子の味を気にするお客さまをついつい気にかけてしまいます。お茶が趣味の方やお茶の先生を想像していただければ」

ー言い訳できない環境とは

「サントリーさんの商品に「アルプス天然水」というナチュラルミネラルウォーターがありますが、採水地が私達のお店と同じ町内です」

ー水が和菓子に影響するのですか

「小豆を洗ったり餡を炊いたり和菓子はとにかく水をたくさん使います。水はお菓子の材料のひとつともいえます。例えば、小豆や小麦粉などは、どんなに名だたるブランドでも年によって出来が変わります。あまり良くない年の小豆しか手に入らないことも当然あり、そんな素材を少しでも美味しくする知識や技術があります。ところが水だけはどうしようもありません。水が悪いと悪いだけ和菓子は不味くなります。『良い素材で美味しい和菓子を作っても三流』と仰る職人さんもいらっしゃいます。

ー理想を追求する厳しい言葉です

「工場を建てる際に地下水がわく場所を選んだり、その地下水を自社で濾過し、水質検査も自分たちで行うほどお水にはこだわっています」

ー餡子の奥深さについて

「餡子は、餡粒子と呼ばれる小豆のでんぷんの粒と砂糖を、熱と水で化学反応させて作るものです。単に小豆を柔らかく煮るのではなく、特殊な反応が起こっています。この熱の入れ方によって化学反応のタイミングやスピードが変わるり、餡子の味は大きく変わります。小豆を煮る鍋の形や材質が影響してしまうほどです。金精軒では一年中同じ味の餡子を作らなければならないので、季節の気温の変化が影響しない熱の入れ方で餡子を炊いています」

ーきんつば以外に、味が直球で判断できる和菓子は

「昔ながらの黒い羊羹です。これには水羊羹は当てはまりませんが『裸の水羊羹』(*裸とは真空パックになっていないこと)に限っては、餡子が美味しくなければ絶対にできないお菓子なのでお勧めです」

ー「美味しんぼ」の海原雄山のような「このお客さまはすごい」と感じた経験を

「『餡子に還元糖が入っていないのに美味しい!』とおっしゃった水飴製造会社の専務さんに平伏したことがあります。餡子を直火にかけると作られるのが還元糖で、味にコクを生み出します。このセリフは、餡子にどう火を入れているのか見抜いていないと絶対に言えません。当店では蒸気釜という設備で餡子を炊いており、鍋を直火にかけることはしません。その有無を舌で判断なさるなんて、とんでもない砂糖のプロだと感服しました」

きんつばエピソードをSNSでは、イタリアンのアーリオオーリオやペペロンチーノ、カクテルのジントニック、おそば屋さんのかけそば、プレーンオムレツに例えるユーザーも。中には、金精軒製菓の店頭に海原雄山が現れたという想定で、「女将を呼べっ!」「では教えてくれ、本物の和菓子とはなんなのだ?」「この餡をつくったのは誰だー!?」と大喜利も展開されました。

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