虐待児童を守る法的取り組み、児相に弁護士を配置…親子長期分離に成功した例も

平松 まゆき 平松 まゆき

 1月に6歳で亡くなった岡山市の西田真愛(まお)ちゃんへの虐待事件で、岡山県警は強要容疑と逮捕監禁致死容疑で母親の彩容疑者と交際相手の船橋誠二容疑者を逮捕した。6時間ちかく鍋の中に立たせるなど、真愛ちゃんに向かった暴力は捜査幹部をして「想像を絶する」と言わしめるほど凄惨だった。相次ぐ子供への虐待事件。平松まゆき弁護士に、児童相談所と弁護士の連携によって救われたケースをQ&A方式で解説してもらった。

 Q 岡山県で悲惨な女子児童虐待事件がありました。児童相談所等と弁護士が連携することはあるのですか?

 A まず、みなさんがイメージされる児童相談所(児相)は、与えられた権限を駆使して家屋に立ち入り調査をしたり、子どもを親から引き離して保護する場所、といった感じでしょうか。もちろん、子どもの生命身体の保護のために、児相がそうした法的権限を駆使する場面は多々あります。

 しかし一方で児相は、「親支援」の役割も担っています。児童虐待の撲滅には、要因の除去こそ求められるはずで、児童虐待の背景にあるものは何か、その家庭・その親に足りないものはないか、といった根本解決のお手伝いも児相で行っています。そのため、例えば親の離婚に伴う戸籍の問題や、親の借金の問題など、様々な法的問題が浮上することも少なくありません。

 そこで2016年、児童福祉法が改正され、全国全ての児相に弁護士を配置又はこれに準ずる措置を講じる(※後述)ことが義務化されました。これによって、子どもの生命身体保護の見地から、一時保護や、親権の停止・喪失といった裁判所がらみの手続きに加え、例えば親の借金を整理して子どもの養育費を確保するといった子どもにとっての「最善」を、よりよく追求できるようになりました。

 Q なるほど、すべての児相に弁護士を配置するという取り組みがあったとは知りませんでした。具体的に、弁護士が絡むことで子どもが救われたケースはどんなものですか?

 A 全国の報告例のほんの一部ですが、以下のような事案があります。児相が虐待が強く疑われる子を一時保護したのですが(期間は原則2か月)、子を施設に入所させるなどして長期の親子分離を実現すべく、裁判所に申立をしたいと考えたケースがありました。ただし、子に傷やあざができていたわけではなかったことから、児相としては、裁判所にケースを担当している児相の職員や児童心理司に対するヒアリング調査を行ってほしいと期待していました。しかし事前の協議から、裁判所が乗り気ではないことがうかがわれ、申立却下になるおそれがありました。

 そこで、児相に配置された弁護士が、児相の代理人として裁判所に意見書を提出して説得し、その結果、ケースを担当した職員、児童心理司に対する裁判所のヒアリング調査が行われ、結果として裁判所が長期の親子分離の結論を下しました。こうした児相と弁護士との連携は今後も必要不可欠と考えます。

 Q 児童虐待を防止するために、われわれ市民は何ができるでしょうか。

 A 一人でも多くの方に、児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」を知っていただきたいと思います。「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者」は、まさに「いちやはく」児相や市町村に連絡(通告)することが大切です。「思われる」であればよく、虐待の程度も問われませんし、間違っていたからと言って何のお咎めもありません。連絡した人が誰か、親には伝わらない仕組みになっていますので、ぜひ勇気を出して連絡してほしいと思います。

 ※「配置」(児童福祉法12条3項)は常勤だけでなく非常勤を含み、「これに準ずる措置」は「配置」に準ずる程度の弁護士の関わり(契約関係等)をいうものと解されています。

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