「すべてのお客様が神様ではない」スマホ関連機器で200億円超 アンカー・ジャパンCEOが語るカスタマーサポートのあり方

伊藤 大介 伊藤 大介

すべてのお客様は神様なのかー。デジタル関連機器を展開し、国内売上高200億円超のアンカー・ジャパン(東京)の猿渡歩(えんど・あゆむ)代表取締役CEO(35)の投稿が共感を呼んでいます。

自社のカスタマーサポート(CS)に寄せられる一部の暴言に対し、「必要以上に汚い言葉を使う方より、他の99.9%のお客様に時間を使いたい」「CS社員の心も大事にしたい」とTwitterでつづりました。アンカー・ジャパンは中国企業Ankerグループの日本法人で、2013年の日本法人設立時に約9億円だった国内売上高が2020年度で約210億円と、7年間で20倍以上に急成長しています。成長を続ける企業トップにメッセージの真意を聞きました。

お客様でも必要以上の暴言を言う権利はない

ーー「カスタマーサポート社員の心も大事にしたい」というメッセージを発した理由について教えてください。

「製品不良にはもちろん真摯に対応し、貴重なご意見を製品開発にきちんと反映をさせていただいております。しかし、ひたすら文句を言いたいという人も一部いて、そういう人に時間を割き続けていると、真摯に対応すべき99.9%のお客様に対応する時間が少なくなってしまう。暴言を受けた社員がストレスで疲弊し、辞めてしまえば、企業にとって大きな損失にもなります」

ーー長時間にわたって暴言を繰り返される場合、どのように対応していますか?

「他企業では相手が電話を切るまで、こちらが電話を切ることができないルールを設けているところもありますが、弊社は臨機応変に対応をさせていただいております。製品不良以外の、いわゆる感情にまかせた暴言に近い言葉に対して対応を続けることは、お互いにプラスではありません。他のお客様のサポートができなくなってしまうので、一定の製品に関するサポートをさせていただいた後に『これ以上ご要望がある場合は、メールで受け付けさせていただきます』と電話での対応を終わらせていただくこともあります」

ーー日本では消費者の要望を最大限尊重する風潮があります。「Anker製品は多くの方に届けたいけれど全員じゃない」というメッセージを出すことに葛藤やためらいはありませんでしたか。

「特にありませんでした。日頃から社内で、CS社員の皆さんの気持ちを大切にしたいと伝えていますし、対外的にも企業姿勢として示すことはプラスだと思います」

「製品が不良であれば交換し、販売状況など場合によっては返金させていただくこともあります。製品起因でお客様のご不便をおかけしている部分に関しては、真摯に対応させていただくことを心掛けております。しかし、それ以上の暴言は、企業とお客様の枠を超えた発言だと私は考えています。製品を買っていただくことは、企業として非常にありがたいことです。ただ、購入者だからという理由で、カスタマーサポートのメンバーに必要以上の暴言を吐く権利はない、と私は思っています」

「(暴言を言われ続けることは)従業員も人ですので傷つきますし、悲しい気持ちになるだろうし、そういう体験をしてほしくて働いていただいているわけではありません。お客様へ良いサポートを提供してもらうために雇っています。だからこそ必要以上の暴言をうける機会を減らしたいなと思っています」

理不尽なお客様の不満への過剰なサービスは不平等

「日本では『お客様は神様である』という前提に立って、買っている以上、何を要求していてもいい、と考える人もいます。弊社は、製品の不具合等含め、お客様が心地よく安心して製品をご使用いただけるように真摯にサポートします。しかし、それ以上のことは弊社のカスタマーサポートの範囲外だと思っています。製品不良以外の理不尽なお客様の不満に対して過剰なサービスをするようでは、他のお客様に不平等になってしまう。99.9%の人が損をしてしまうようなことは、私はすべきではないと思っています」

ーーカスタマーサポートを外注せず、社内のメンバーで対応する理由を教えてください。

「お客様からのご意見はお褒めの言葉もあれば、厳しいものもありますが、いろんな声を傾聴することが大事だと思っています。外注してしまうと、売るまでが目的になってしまって、顧客対応はコストセンター(売上に直結しない部門)と考えてしまいがちです。ご購入後にどのようなサポートを体験したのか、それは次の購入機会につなげるためのブランディングだと思っています。サポートも含めて製品なので、そのために社内で連携できれば、と思っています。また、いただいたお声は、お客様のニーズに合わせた製品開発のための貴重なご意見であり、社員だからこそ対応すべき仕事だと考えています」

ーーカスタマーサポートの社員が心身に不調を来すような暴言もあったのでしょうか?

「『オフィスに来て、何かするぞ』という脅しのようなことを言われたことはあります。従業員の安全確保のため、入り口のドアを念のため閉めたり、ビルの関係各所に連絡したりという対応はしました。でも脅迫されたからといってサービスを手厚くする、というのはまた違うと思います。脅迫は弊社のカスタマーサポートで解決できる問題ではなく、それはもう警察にお願いする部分なのかなと思います。稀なケースですけどね」

厳しい評価も歓迎 レビューの星一つでも

ーーネット上の製品レビューを常にチェックし、製品改善につなげているといいます。厳しい評価も受け止めていますか?

「カスタマーサポートなどに寄せられる声で、『ここはできていない』という指摘をもらえるのはありがたいことです。Amazonレビューで言えば、星五つのレビューも星一つのレビューも書いていただけることはうれしいこと」

ーー製品のみだけではなく、パッケージ(箱)に対しても繊細な日本の消費者のニーズに応えるために、中国本社に働きかけられてきたそうですね。

「日本で受け入れられた製品は、世界で受け入れられると思っています。箱つぶれもそうですが、日本ほど品質やサービスへの期待値が高い国はありません。しかし、日本基準で製品を作れば、世界で通用すると思っています」

ーー「社員の心も大事にしたい」というツイートは顧客対応に携わる人を中心に共感を呼びました。

「同じように考えていた方の声が多かったのかな、と思っています。企業によっては『お客様は神様で、何でも言われた通りサポートしましょう』という考え方もあるのかもしれません。暴言を繰り返す人をハッピーにするのも、サポート方法の選択肢の一つではあります。でも他のお客様へのサポートや従業員の心のケアといった全体最適を考えた施策を行う方が、企業として大切かなと思っています」

 ◇   ◇

アンカー・ジャパンではほぼすべての部門で採用を行っているそうです。猿渡CEOは「弊社のカスタマーサポートにも興味を持ってもらえたら、うれしいですね」と話していました。

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