専門医に聞いた、3回目のワクチンを接種する意義 収束にはオミクロン用ワクチンが鍵

渡辺 陽 渡辺 陽

新型コロナウイルスの新規感染者、東京都では前週比ですとやや減少しているようですが、東京都の療養者は約80人に1人、大阪府では緊急事態宣言も視野に入れています。今後、第6波はどのように収束していくのでしょうか。また、収束したとしても、次の変異、また次の変異と私たちは翻弄されるのでしょうか。

現在、日本では3回目のワクチン接種が急がれていますが、新型コロナウイルスやワクチンについての正確な情報を発信するプロジェクト「こびナビ」の木下喬弘医師は、さらにその先、オミクロン用のワクチン」が鍵になると言います。なぜオミクロン用のワクチンが必要なのか、3回目のワクチンを接種する意義はあるのかなど、木下医師に聞きました。

オミクロンに特化したワクチン接種が収束の鍵

――第6波の収束に向けて3回目のワクチン接種が進められていますが、オミクロンに特化したワクチンも開発されているのですね。

木下喬弘医師(以下、木下)「今の時点で3回目のワクチンは、感染そのものを予防する効果を狙うというより、重症化予防のために接種するものだと言えると思います。オミクロンを予防するためには専用のワクチンが必要で、既に米国ではファイザーもモデルオミクロン用のワクチンの治験を始めています。安全性や免疫反応を確認して、どれだけ抗体が上がるのか調べている段階です」

――なぜオミクロン用のワクチンが必要なのでしょうか。

木下「従来の武漢株からいろいろ変異してアルファやベータやデルタなどになったのですが、実はベータは、武漢株から結構遠いんです。オミクロンはさらに遠い。変異ウイルスのなかでも武漢株に比較的近いものであれば従来のワクチンで概ねカバーできるのですが、オミクロンの場合、そうは行きません。再び武漢株が流行るようなことは起こらないと思いますが、感染そのものを予防するためには両方のワクチンを接種して全体をカバーする必要があります」

――しかし、そうなると変異するたびに新しいワクチンを打つことになりかねないのではありませんか。

木下「変異と言っても無限に変異できるわけではありません。ウイルスはヒトの細胞に結合しないといけないので、オミクロン以上に伝播性が高く、かつワクチンも効きにくい変異体がどんどん出ることはないのではないかと思います。もっともこれは厳密な根拠があるわけではなく希望的観測ですが。とは言っても、次のゲームチェンジャーであるオミクロン用のワクチンが開発されたので、希望も見えています」

それでも3回目のワクチン接種が必要な理由

――重症の高齢者が増えてきているということもあり、大規模接種会場を設けるなどして3回目のワクチン接種が進められていますが、3回目のワクチン接種はどのような効果が見込めますか。

木下「オミクロンは基礎疾患のある人や高齢者、免疫不全の方にとっては依然として脅威の病気であり、3回目の接種で重症化を抑える必要があります。それ以外の人にとっても、感染リスクも下がりますし、それなりに抗体がつくので、不完全ながらオミクロンの感染を予防する効果があります。ただ、3回目の接種が済んだら感染者がガーッと減って、第6波を乗り切れるというのはちょっと考えにくいと思います」

――第6波を従来のワクチン接種だけで完全に抑え込むというのではなく、あくまでもオミクロン用のワクチン接種ができるようになるまで凌ぐというように捉えたらいいのですね。

木下「第5波の終盤からはワクチンがゲームチェンジャーになりました。しかし、残念ながらオミクロンには、それほどの効果は期待できません。3回目のワクチンは重症化を予防するのですが、日々の感染者数を減らすほどの効果はほとんどないので、一気に収束して去年の10月、11月のようにいい時期が長く続くというのは楽観視し過ぎかなと思います。順番に接種していく途中で効果が減弱していく人もいて、再びそういう人が感染してしまうこともあり得ます。従来のワクチンだけで抑え込むのは難しいでしょう」

ワクチン以外の収束の要件は感染対策

――もっと勢いのある収束が期待されていたと思うのですが、なかなかそうは行きそうにありません。ワクチンだけで抑えるのが難しいとなると、今、他に何が必要だと思われますか。

木下「実効再生産数が1を切ったら、その瞬間から急速に下がってくるはずです。なぜ1を切ったら下がってくるのかというと、オミクロンも爆発的に感染しているわけではなくて、感染対策をしている人たちはある程度守られているわけです。しかし、20代、30代の若い人の中には、コロナを怖いと思っていなくて、しょっちゅう飲み会をしている人もいます。そういう人たちは感染の中心にいて、オミクロンにかかりやすい。しかし、彼らのコミュニティの中で感染者が増えて、極端な話ですがほとんどの人が感染してしまうと、一定の免疫を持つまでそのコミュニティには入らなくなるでしょう。すると、そのコミュニティの中で感染者が減っていくのです」

――いったんはコミュニティの中で感染が蔓延するのですが、免疫ができて収まってくるのですね。すると感染対策をしている人たちに飛び火しなくなるのでしょうか。

木下「少なくとも第5波まではそういうハイリスクな行動を取る人たちの中で感染者数が減ってきて、その後、日本全体でも感染者数が減ってきました。第6波では子どもの間でも感染が広がっているので、同じように行くかはわかりませんが、20代や30代の感染が減れば一定の効果はあると思います」

――感染の中心にいる人は全体から見ると少数だと思いますが、他の人たちの感染対策も功を奏したのでしょうか。

木下「デルタの場合、基本再生産数が5くらいで、全人口の8割が免疫を持っていないと収束しないはずなのですが、日本では人口の8割まで行かなくても収束しましたよね。8割もの人が感染して免疫を持つよりずっと、ずっと小さい値で収束した。それは、日本でも結構感染対策をしている人がいるということだと思うんです」

――しかし、無防備な若者たちから飛び火して感染させられる高齢者や感染対策を真面目に続けている人にしたら、不公平な感じもしますよね。

木下「見方によってはそうですね。でも、感染対策はどうしても不公平感が出てしまうんだと思います。若い人たちの中には、『自分たちは感染しても死なない』という人もいますし、『感染対策をしたら働けなくなる』という人もいます。国の補償にも限界があるので、生活が立ち行かなくなる。すると、『ぼくらは大丈夫なのに、なんで自分の青春や財産を放棄して他の人を助けなくては行けないのか』と思ってしまうのは当然だと思います。若い人も高齢者もそれぞれに不公平感があるので、そこを解決するのが政治だと思います。不公平感が強くなると、『私だけが感染対策するのってバカバカしい。もう対策なんてやめよう』という人が増えて、米国のようなことになってしまうのです」

◇ ◇

木下医師は、「去年の夏に比べたら、不便だと思いますが確実に前進している」と言います。確かに、マスク不足は解消され、なんとかワクチンも接種できるようになりました。ひとまず、3回目のワクチンを接種して新型コロナウイルスに感染しないよう身を守りたいですね。

(この情報は2022年2月13日のものです)

<木下喬弘医師プロフィール>

2010年大阪大学卒。大阪の3次救急を担う医療機関で9年間の臨床経験を経て、2019年にフルブライト留学生としてハーバード公衆衛生大学院に入学。2020年度ハーバード公衆衛生大学院卒業賞"Gareth M. Green Award"を受賞。卒業後は米国で臨床研究に従事する傍ら、日本の公衆衛生の課題の1つであるHPVワクチンの接種率低下を克服する「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」や、新型コロナウイルスワクチンについて正確な情報を発信するプロジェクト「CoV-Navi(こびナビ)」を設立。公衆衛生やワクチン接種に関わる様々な啓発活動に取り組んでいる。著書に「みんなで知ろう! 新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話」。

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