「100歳まで生きてどうするんですか?」の著者に聞いた、本当に老後は2000万円必要なのか

松田 義人 松田 義人

 

かつて『写真時代』『パチンコ必勝ガイド』といった雑誌を創刊しヒットを飛ばしたことで知られる作家・編集者の末井昭さん。幼少期には実母がダイナマイト自殺、先物取引、数億円の借金、複数の愛人との交際、離婚・再婚を経験するなど、その人生はあまりに激しく、映画化もされました。

これらのエピソードだけを聞き、「粗暴な人」というイメージを抱く人も多いかもしれませんが、当の末井さんご自身はかなり控えめな印象の方です。「権力をふるうことをしたくない」「弱い立場の人間でいたい」「自分の年齢に合わせて、それに見合う『演技』をするのはダサい」といった人生観をお持ちで、多くの著書にある優しくゆったりとした筆致と合わせて、老若男女幅広い層からの支持を得ています。

そんな末井さんの最新刊が先月刊行されました。『100歳まで生きてどうするんですか?』(中央公論新社)という本です。

 

ほとんどの人が漠然と「少しでも長生きしたい」と思うことが多いものです。そういった考えに対しても末井さんは「欲張り」のように感じ、本書のタイトルをつけたそうです。しかし、本書を綴るにつれ「100歳まで生きられるんだったら生きてみたい」という考えにもなったそうです。

近年「人生100年時代をどう生きるか」「老後2000万円問題」などに加えこのコロナ禍でもあります。お先真っ暗でノーフューチャーのようにも思える時代ですが、末井さんによれば「老後のこと、病気のこと、『死が怖い』と思っている人にこそ読んで欲しい」とも。今回はそんな末井さんに「将来」「歳を取る」ことをテーマにお話をお聞きしました。

パンデミックで「死」を意識するようになり、これをきっかけにWEB連載が始まった

冒頭で触れた通り、末井さんは幼少期に実のお母さんがダイナマイト自殺をした経験をお持ちです。「死への思い」「死生観」といった考えも他人よりも強くありそうにも思いますが、当初の末井さん自身は「自分がいつ死ぬか」ということを考えたことがなかったとのことです。

「パンデミックでニューヨークやイタリアが医療崩壊になり、人がどんどん死んでいくのを見て、だんだん『死』が他人事ではなくなりました。それまで、『自分がいつ死ぬか』ということを考えたこともなかったのですが、考えざるを得なくなりました。

そんなとき、『朝日新聞』から『不要不急』についてのインタビューがありました。その頃、パチンコが『不要不急』の代名詞のように言われていたのですが、僕自身『パチンコで助けられた(鬱から逃れられた)ことがあるので、社会が<不要不急>と思っていることでも、それが緊急に必要な人もいる』という話をしたら、その記事を読んだ出版社の方から『不要不急の人生論』でも書かないかと言われました。これをきっかけに、それまで考えなかった『老後のこと』や『死』のことをテーマにして書くことにしたのです」(末井さん)

「書くことにした」というのが2020年12月から2021年10月まで『婦人公論.jp』で連載された「100歳まで生きてどうするんですか?」で、これを一冊にまとめたのが本書です。末井さんによれば、それまで「年齢」を意識していなかったのに、「気づくと老人になっていた」とか。

「浦島太郎が玉手箱を開けたようなものです。浦島太郎の話は、自分のような人間のことをおとぎ話にしたのではないかと思います。年齢のことを意識してないと、自分の年が70でも80でも実感がないのですが、自分の年を意識しだすと『えっ、平均寿命まで10年を切ってるじゃん』みたいな、そういえば最近足腰が痛くなり、立ち上がれないこともあるなとか、急に老人になったような気持ちになるんです。体力、気力は個人差もありますから、老化の一番の要因は自分の年を意識するということではないでしょうか」(末井さん)

コロナ禍の「変化のない毎日」で「老人」になった

いくつかの著書の中で末井さんは「年齢に合わせて『演技をする』ことで、人は老け込む」と綴っています。人によっては、自分の実年齢や立場……たとえば40歳なら40歳なりの自分、50歳なら50歳なりの自分、役職がついた自分の「像」などを想定していて、その役になるよう「演技」をすることで、自然と老け込んでいくということなのだそうです。末井さん自身は当初こういった「演技」をしないようにし、どの世代・どんな立場の人とも分け隔てなく楽しい生活を送っていたそうです。本書によれば近年、末井さんが年齢を聞かれた際、ウケ狙いでもなんでもなく「36歳」とうっかり答えてしまったこともあったそうです。

しかし、本書ではこういった「老化を意識しない楽しい生活」が一変したとも綴られています。

「3回目の緊急事態宣言下、なるべく家から出ないようにして、変化のない日々を送っているのですが、そうすると記憶力がどんどん落ちてきて、昨日のことさえ思い出せないことがあります。

そういう日々が続いていくと、家ごもりしている間のことは、記憶に残らないということになります。何年後かにこのコロナ禍を振り返り『あの頃はコロナで大変だった』ということしか思い出せないとしたら、過去が空白になったみたいでもったいないように思います。

というのは、若くて体力と気力がある頃は、過去のことを思い出したりすることもなく、ぐんぐん前に進んでいきますが、体力も気力も衰えてくると、ため込んだ思い出に浸っていることが楽しみになってくると思ったりするからです。それを老人というなら、この1年で、僕はずいぶん老人になったような気がします」(本書より)

 

「老後2000万円」もなくて大丈夫 1日300円で生活できれば200万円くらいで十分!?

末井さんのわかりやすい言葉が、かえって切なくリアルに伝わってきます。

ただし、「若くて体力と気力がある世代」にとっての「将来の不安」は肉体的なことよりやはり「お金」ということになりそうです。「老後2000万円必要だ」と言われても、多くの人はそんな大金をため込むことは容易ではありません。

冒頭でも触れた通り、末井さんは「お金」にまつわる激しい経験も多くお持ちです。この点についても聞いてみました。

「(老後の)お金のことでいえば、入金と出金が同額なら問題はありません。『2000万円必要』とか言われていますけど、1日300円で生活できる人なら200万ぐらいあれば20年は生きられます。入金を増やすか出金を減らすかどちらかなのですが、やたら入金のほうに考え方が偏っているのが問題なんです。あまりそっちのほうにいってしまうと、精神を壊します」(末井さん)

今や将来に不安や悩みを抱える若い世代も必読の一冊!

こういった末井さんのあらゆる考えが、優しく自由に綴られているのが『100歳まで生きてどうするんですか?』です。読者対象は、おそらく定年間近の人、老後を過ごしている人ということだと思いますが、もっと若い世代の方が読んでも、気持ちが楽になるはずです。特に将来に悩みや不安を抱える人にとっては、モヤモヤした気持ちをスーッと改善してくれるような効果が得られるかもしれません。

「老後のことや、病気のことで悩んでいる人や、死が怖いと思っている人に読んでもらえればと思います。読めば死ぬのが楽になる!!!」(末井さん)

 

今年74歳になるという末井さん。あらゆるものに対して差別がなく柔軟で自由なその姿勢は、様々な経験を経た末井さんならでは生き方でカッコ良く映ります。ただし、一つだけ常々末井さんが語っているのは「バカではダメですよ」ということ。この点もしっかり肝に銘じつつ、本書を読んで楽しい毎日をおくると良いように思いました。

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