奄美群島・加計呂麻島(かけろまじま)に期間限定移住中の、イラストレーター・ちゃずさんを追ったドキュメンタリー映画「夫とちょっと離れて島暮らし」(2021年公開)。監督は俳優の國武綾さん。なんと初監督にして全国で劇場公開中というから驚きです。
さらに驚くべきは、彼女自身、撮影が決め手となり、東京から奄美大島に夫婦で移住してしまったということ。しかも永住!東京と奄美大島、生活様式も文化もかなり違いそう。それでも住みたくなる奄美大島って、そんなに魅力的なの?何がそうさせるんだろう!?
監督と旧知の仲である私は、どうしてもその秘密を知りたくなり、久しぶりに再会した彼女に直接聞いてみました。
天然記念物を轢かないように気をつける生活って想像も出来ないなあ(笑)
――それにしても、永住とは思い切った決断をしたんだね!
東京のコンクリートに囲まれた生活が元々あんまり合ってないと感じてて。夫であり、本作プロデューサーの中川究矢さんと「いつか奄美に住みたいね!」って話はしてたの。
――不安はなかった?
離島なので台風の心配はあったかな。虫も大きいし多いなと(笑)。でも撮影で滞在中に、それ以上のものがあるって感じたよ。
虫は出るけど慣れてくるし、困っても誰かが助けてくれると思った。スーパーもコンビニもない加計呂麻島で「晩ご飯どうしよう」と思ったら、うちに食べに来なよって誰かが声をかけてくれたり、集落の方が獲れたてのイノシシの肉を出してくれたり。
――イノシシの肉!自然が多い田舎や島は他にも沢山あるけど、奄美大島を選んだのは、何か特別な理由があったりするの?
寒いのが苦手で南国が良かったのと、固有種が生きる原生林や、手つかずの自然が多いところが気に入ったり。2021年に世界自然遺産登録もされたばかり。
「アマミノクロウサギ飛び出し注意」の標識が道路にあって、運転中に轢かないように気をつけたり。自然と生き物と人間が当たり前に共存してる。“住まわせてもらっている”感覚なのかな。
――天然記念物を轢かないように気を付ける生活って、想像も出来ないなあ(笑)。
ノロの家系の方(シャーマン的存在)もいらっしゃって。映画の完成間近、不思議な現象が次々と起きて悩んでいると「映画を作る綾さんに対して“この人と何かしたい”という強すぎる念を持った生き霊が憑いている」と言われ、除霊していただいたり。奄美ならではというか、目に見えないものを信じていいんだよって思えるような。
創作意欲がわく場所で、アイデアが溢れてくる
――凄いね。不思議だけど、素直に聞けちゃう。
「島が人を選ぶ」「島に受け入れてもらえるか」って話をよく耳にするのも興味深い。悪天候で飛行機や船が着かないなどの理由で、島に来たいけどなかなか来れない人もたくさんいるよって。
――綾ちゃんが奄美を選んだことも、奄美に選ばれたっていうことも、理屈を超えた何かがあるんだね!表現者としても変化や影響はありそうだね。
島は、海も空も広いし、深い森も美しい。夕焼けの色って赤だけじゃなくていろんな色が混ざってるんだってふと気づいたり。「地球にいるわ!」って実感できる機会が多い。すごく創作意欲がわく場所で、アイデアが溢れてくる。
奄美にいると、職業や年齢の区切りが取れていくような感じもして。島の人と関わる中で、人を信じていいんだ、好きなことしていいんだって思えて。人を信用できなかったり、“自分には出来ない”と思い込んでいたのが、一番怖い事だったと気がついた。
監督業をやって経験が広がって、俳優としても表現の幅が増えたんじゃないかな。監督を全うできたのは島のおかげだと思ってる。
東京みたいに情報の多い街より、奄美の方がインプットが多いのも刺激的。
――聞いてるだけでもワクワクしてくるね。それはそうと、奄美大島で生活していて苦労したことはない?
噂が広まるのが早いところ、かな(笑)。Twitterより早いと言われています!
――そうなんだ(笑)。
編集中に「ちょっとトラブルがあった」って話したら一瞬で広まっていたみたいで。いつの間にか「この映画はどうやら完成しないらしい」に変わっていて(笑)。
――あはは!島あるあるなのかな(笑)。
余裕ができたのか、喧嘩が減ったよ
――そうそう、移住して旦那さんとの関係に変化はあった?
一緒に暮らす空間や心に余裕ができたのか、喧嘩が減ったよ。街を歩いていると知り合いにたくさん会ったりして、気分転換にもなる。大好きな奄美で生活できているだけで、2人とも充分機嫌は良いよね(笑)。
――そっか!夫婦円満で何より。ところで今後も大阪、石垣、名古屋と公開が決まっているけど、とても評判いいみたいだね。特に奄美出身の人たち、奄美ファンの人たちに熱烈に支持されてるとか。
「島をそのまま切り取ってくれた」と島の方に言っていただけて。島内の多くのお店や施設に映画のポスターを貼ってもらったり、口コミで映画を広めてもらったり、想像以上の方に力を貸していただけて。だから皆さんのおかげで公開できたと思っています。
本編のラストは、西阿室集落の方が撮った映像でできていることも含め、島の方々の思いが詰まった映画なので、あとの私の役目は世界中に届けるだけだなって。
――私も映画を観させてもらったけど、飾り気がない、そのままの島の風景が映っていて、とても素敵だった。多くの人に見てもらいたいって思ったよ。これから映画を観る方々に伝えたいことがあれば、ぜひ!
私が、東京で息苦しさを感じていた時にカメラを持って加計呂麻島へ行って、ちゃずさんを通して出会った自然や人々がいて。そこで心をほぐされた経験をそのまま映画にしたので、心をホッとさせたい方に映画館でぜひ観てもらいたいです。
――ありがとうございました!
あっ、今度、奄美に黒糖焼酎飲みにおいでよ!飲みながら歌って踊ろうね~!
――行く行く!行きますとも~!!
◇ ◇ ◇
人も自然も生き物も、すべてが隔たりなく共存する奄美。そこには、人間としての生き方や表現者としての在り方を再発見できる理屈を超えた何かがありました。以前よりもよく笑って楽しそうに喋る彼女を見つめながら、私もいつか必ず訪れて、全身で奄美のパワーを感じたいと思ったのでした。
★★★
◇映画「夫とちょっと離れて島暮らし」(國武綾監督)
2022年2月26日より公開 大阪シアターセブン
3月12日/13日 石垣島しらほサンゴ村
4月以降 名古屋シネマスコーレ
★★★
◆國武綾
俳優。1986年生まれ、広島県出身。映画「恋の渦」(大根仁監督)、「サッドティー」(今泉力哉監督)、「アイドル・イズ・デッド-ノンちゃんのプロパガンダ大戦争-」(加藤行宏監督)、「闇金ウシジマくん part2」(山口雅俊監督)、「彼女は夢で踊る」(時川英之監督)、ドラマではTBS「コウノドリ」、テレビ東京「生きるとか死ぬとか父親とか」などに出演。「夫とちょっと離れて島暮らし」で初監督に挑戦し、夫でありプロデューサーの中川究矢と2021年より奄美大島に移住。出演作「永遠が通り過ぎていく」(戸田真琴監督)が、2022年4月1日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー。