新宿「ベルク」のポジティブ思考が凄すぎると話題「客数がガクンと減った…でも新商品は続々」応援の声も続々

太田 真弓 太田 真弓

各地に出されたまん延防止等重点措置がまたもや飲食店業界に大きな衝撃を与えている中、異なる視点で「ワクワクしている」とコメントした新宿ベルク店長・井野朋也さんにお話を伺いました。

「やむを得ないことですが、客数がガクンと減りました。ベルクがヒマになるとどうなるか?そうです。スタッフが手持ち無沙汰になるため、新商品が続々と生まれます。お客さんはいないのに、品ぞろえは充実しまくるというシュールな光景がまた見れるのです。不思議とワクワクします。それだけが救いです」と記されたTwitterでの投稿には、ショーケースに所狭しと並ぶデリやスイーツの写真が。

 

「豚骨スープと野菜のゼリー寄せ」
「いのししレバカツ 自然卵のタルタルマスタード」
「キャベツとセロリのアチャール(辛いピクルス)」
「パテドカンパーニュフライ」
「ミニ・プリンアラモード」
「バナナオムレット」…

メニューのジャンルも多岐にわたり、とにかくどれも美味しそうです。こちらのツイートに「ベルク行きたい…」「パテドカンパーニュをフライに!? 是非食べてみたいです」「プリンアラモード~」「行く!」とリプがつき、「マッテテ」「いつまでもあると思うな好きな飲食店」と応援の思いが込められたツイートが相次いでいます。

「ベルク」とは、新宿駅東口改札からすぐの個人経営店。約15坪の店内には多種多様なメニューやデリが並び、唯一無二の佇まいとベルクならではの味わいに熱狂的なファンを持つセルフサービスのビア&カフェです。

今回のツイートに関して井野さんに取材をお願いしました。

――まん延防止等重点措置で、やむなく客足が遠のいてしまっている現状があると思うのですが、第6波前(年始あたり)と、今ではどのくらいお客様の数に変動があるのでしょうか?

今のところ売上は20%近く落ちています。そこに原価の軒並み値上げもあって(サラリーマン対象の店なので簡単に値上げも出来ず)頭を抱えている状況です。

コロナ以前は1日の来客数が平均1000~1500人ほどでした。15坪の小さな店ですが、薄利多売の商売なので、それで何とかトントンです。スタッフが30人いますし、新宿の駅ビルで家賃がべらぼうに高いですし…。ところがコロナ以降は客数が文字通り半減しました。

感染が拡大してまんぼうや緊急事態宣言が出ると、しょうがないことですが、新宿全体がひっそりします。その上、時短やお酒禁止など営業の制限を受けるので、客数も売上も落ちざるを得ません。

――それは一人でも多くのお客様に立ち寄ってもらったり、テイクアウトしていただくことが売上に直結しますね。メニューの数はどのくらいあるのでしょうか?

メニューの数は増えこそすれ、減ることはまずありません。今、どのくらいあるのか、ちょっと数えられません笑。日々新しいメニュー(デリやスイーツ、創作料理)が生まれているので。書籍やオリジナルのグッズなども扱っています。

――新しいメニューの中で人気があるものを教えてください。

それぞれ根強いファンがいますが、目立つのはジビエ系でしょうか。「猪生姜焼き丼」や「鹿カツ」などは結構話題になりました。オリジナルスイーツも密かな人気です。あと新メニューではないですが、カレーライスが「マツコの知らない世界」で紹介されてから爆発的に売れています。

コロナ禍でのマルシェ営業が新商品開発のきっかけに

――今回新登場したメニューは、スタッフさんが考案を?

商品開発は社員が手がけています。社員は現在12名います。社員もバイトもこの狭い店内で一緒に働いています。一昨年の4月の緊急事態宣言で駅ビルが閉じた時にベルクも飲食の営業を止められたのですが、交渉の末、食品売場(マルシェ)として営業が認められました。

スタッフの一人一人に話を聞いて、働きたい人は全員働いてもらうことにし、思い切って現場は全てバイトに任せたのです。社員は今まで忙し過ぎて手をつけたくてもつけられなかった通販や新商品開発に専念することにしました。マルシェには行き場を失った魅力的な高級食材が全国各地から集まります。そりゃ腕が鳴ります。

――スタッフの皆さんの腕の見せ所が適材適所に出てきた上に、一時的にマルシェへと業態変更して営業されたことが今のベルクに繋がっているんですね。お店では以前から様々なメニューの開発をされていたのでしょうか?

コロナ以前は店を回すので精一杯で、商品開発まではなかなか手がつけられませんでした。20年ほど前にメニューの大改革を行いました。それが今のベルクの土台になっています。

今のような爆発的な商品開発はコロナ以降に起きたことです。20年ぶりの大改革ですね。忙しくなると必死に店を回しますが、感染拡大で暇になれば、マルシェが部分的に残っていますし、また新商品が生まれやすい状況になります。

――デリやスイーツを購入された方々のお声や感想はいかがでしょうか?

毎日SNSにお客様の嬉しいコメントや写真が溢れています。それを見るのが何より楽しみです。印象に残っているのは、自分が苦手だと思っている食材がベルクではなぜか食べられるというコメントかな。同様のコメントがいくつかありました。苦手でもベルクではちょっと冒険してみようと思って下さるのが嬉しいですね。

 

ウケを狙ったりしている訳ではない

――テイクアウトをアピールするイラストもとてもユニークですし、店内のものがすべてテイクアウトできるのも心強いです。こういったアイデアもすべて井野さんが?

私は殆ど何もしてません(笑)。みんなの邪魔になっているだけです。お客様からの評判はいいと思いたいです。「ベルクらしい」とよく言われますが、それはきっと褒め言葉でしょう!

 

 

ーー「工夫次第でメッセージを楽しく伝えられるのだな」と改めて感じました。コロナ禍、お店で取り組まれていることなどあれば教えてください。 

コロナ禍ではマスク着用やサイレント(テレパシーで会話)はもちろん、時間制限(滞在時間30分まで)や人数制限(2名様まで)など国の要請以上に厳しいルールを設けています。ただ元々一人向けのさっと寄るタイプの店なので、そんなに違和感はありません。

お陰様で30人いるスタッフは今のところ一人もコロナにかかっていません。医療関係のお客様がとりあえず元気そうな私たちを見て「ベルクは別世界のようだ」と仰っていました。

コロナ以前にも、消費税増税や一律全面禁煙(都条例)が飲食店にとっては大きな打撃でした。しかも立て続けにやって来ました。よく潰れずにすんでいると思います。運がいいとしか思えません。

ピンチをチャンスと前向きに考えたりウケを狙ったりしている訳ではありません。半ばヤケクソでデラックスな商品を開発したり(全部乗せのモーニングサービスとか)、タバコが吸えなくなったかわりにタバコの形をしたお菓子を作ったり(ラムシガー)、「ケッ!(吸っても)罰金さえ払えばいいんだろう」とグレたり(「グレうさ」の誕生)しているだけですが、なぜかお客様の評判がよく笑、結果的にどうにかなっています。

ベルクは一種のパワースポットなのかもしれません

 

――改めて、このようなベルクとして成長してきた30年について教えていただいても良いでしょうか?

私がベルクを始めたのは20代終わりの頃ですが、ただのバカなので、またいつ新宿で新宿騒乱事件のような学生と機動隊の衝突が起きるかわからない、その時に学生を匿うためにも(当時、新宿の多くの飲食店はそうしたそうです)店を続けなければならないと本気で考えました。

でも自分は飽きっぽい性格だから続けられるかどうかわからない。だったら自分が飽きない店にするしかない。それが「自分たちも毎日食べて(多少とっつきにくくても)飽きない味」という店のコンセプトに繋がりました。つまり最初から自然食志向だった訳ではなく、結果的にそうなったのです。職人たちとはそれぞれ運命的な出会いをしました。

やはりどの職人も元々は自然食志向ではなく、自分の味を追求するうちに結果的にそうなったという点で(人間的に一癖も二癖もあるという点でも)共通しています。

――その時の気分や好みに合わせてチョイスしてサク飲みできるのがベルクの強みだと感じるのですが、ご自身はどうお考えですか?

小さな店なのに不思議な居心地のよさがあります。食のエッセイストとして知られる文筆家の木村衣有子さんが「ベルクに行けば何とかなる」と書かれていますが、名セリフじゃないかと思っています。

一人客が多いのですが、皆さんきっと色々な事情を抱えて、仕事前、仕事上がり、仕事の合間に寄って下さると思うんですね。でもベルクが癒したり励ましたりはしてくれる訳ではありません。適当にほっとかれますし。でも帰る頃には何とかなるという気持ちになれるのではと。一種のパワースポットなのかもしれません。

――今後の営業への思いや、将来ベルクを訪ねるお客様へのメッセージをお願いいたします。

「機動隊に追われた学生を匿うために店を始めた」と言いましたが、今でもベルクは一種の避難場所になっていると思います。何より凄いのは、JRから立ち退きを迫られた時にお客様の応援(署名活動、ネットやメディアでの告発記事)でこの場所が守られたことです(JR幹部によれば前代未聞だそうです)。奇跡としか思えません。今でもその奇跡は続いています。よかったらぜひ確かめにいらっしゃってください。

 

◇      ◇

ベルクのショーケースにキラキラと宝石のように並ぶ手作りの品々は、奇しくもコロナ禍でのマルシェ営業から生まれたものでした。「素材も味もお墨付き」とは井野さん談。長年愛されるお店は、様々な場面でお客様から支えられ、またお店側もお客様の心身両面を支えている存在なのではないでしょうか。

ベルクは現在、営業時間7時~23時、お酒の提供20時まで、フィーバータイムの21時~23時はテイクアウトオンリーで営業中。

【ベルク関連情報】

文筆家の木村衣有子さんが、店の壁新聞(月1回発行され、今月で333号の「ベルク通信」)を自由に切り貼りして『底にタッチするまでが私の時間』という本を昨年11月に出版。また、神戸の書店「自由港書店」さんがnoteに「私とベルク」を執筆。

■井野朋也(新宿ベルク店長)さんTwitter https://twitter.com/Bergzatsuyoten

■ビア&カフェ ベルクTwitter https://twitter.com/BERG_SHINJUKU

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