社会貢献活動の一環として、多くのプロアスリートが病院や福祉施設への慰問や寄付、スタジアムへの招待などを行っています。どういった場所へ、どういった形でエールを届けるかはそれぞれですが、今年、プロ野球・阪神タイガースの秋山拓巳投手は「犬のためにできること」を考え、行動に移しました。動物関連団体に特化したオンライン寄付サイトを運営する公益社団法人『アニマル・ドネーション』(以下、アニドネ)に100万円を寄付したのです。
「一番の理由は僕自身が動物、特に犬がめちゃくちゃ好きだから。犬のために何かできることはないかとずっと考えていました。犬を飼いたいけれど、職業柄、家にいない時間が多くて飼えない。同じような人も多いと思うんですけど、一方で手放してしまう人もいる。そういうことをもっと知ってもらいたくて」
選手寮で犬を飼うことを提案
幼い頃から実家にはミニーちゃんというオスのシーズーがいました。「家族の中でボクだけナメられていた」と苦笑いしながら左手首にうっすら残る傷跡を見せてくれましたが、「それでもかわいかった。16歳まで生きてくれて高校までずっと一緒。楽しい時間だった」と振り返ります。プロ入りから5年間は寮生活でしたが、当時の寮長に「全員で世話するから犬を飼ってほしい」と直訴したと言いますから、秋山投手の犬好きはホンモノです。
「だって、犬がいたら癒されるじゃないですか。絶対プラスになる選手はいると思うんです。寮で飼えばいいのにって、今も思いますよ」
秋山投手にとって犬は癒しの存在。地方球場やキャンプ地で犬連れのファンを見つけると触らせてもらい、犬を飼っている友人宅を訪れては癒されていました。ただコロナ禍の今、そうしたこともなかなかできず……。「飢えている感じ」と表現する秋山投手の最近の楽しみは、SNSで犬の写真や動画を見ることです。
「飼う予定もないのに犬種の特徴を説明している動画を見て心の準備をしたり、引っ越すわけじゃないのにペット可の物件を見ていますね」
保護施設を視察して感じたこと
筋金入りの犬好きだからこそ、飼育放棄や殺処分などの問題から目を背けることはできませんでした。きっかけはある人のインスタグラム。
「チワワを飼っている方がいろいろ発信していたんです。それを見たとき、怒りにも似た感情を覚えました。放棄する人たちはどういう気持ちでやっているんだろうと。一般の方がこういう発信をしているのだから、僕も何か力になれたらと思いました」
2020年シーズン中から具体的に考えるようになり、「何か活動するなら保護犬、保護猫のためになることを。自分にやれること、やりたいことはこれだ」と決めました。
秋山投手の寄付はアニドネが認定した複数の動物保護団体の活動資金となります。1月10日、本人たっての希望で寄付先の1つである認定特定非営利活動法人『アニマルレフュージ関西』(以下、ARK)の兵庫・丹波篠山市にあるシェルターを視察しました。事情があり飼い主と離れ離れになった47キロの大型犬・ローデシアンリッジバックのリベルくんと敷地内を散歩したり、島根の多頭飼育崩壊現場からレスキューされた犬たちと触れ合ったり。シェルターも見学して、ARKのスタッフからそれぞれの犬が施設にやって来た経緯や保護犬事情などについて説明を受けました。
「施設の方が配慮して、人との触れ合いに慣れている子たちを用意してくれました。ただ、シェルターにはずっと吠え続けていたり、僕たちに怯えている犬もいた。あの子たちは僕なんかが想像もできないようなつらい思いをたくさんしてきたんでしょうね。でも、思ったより元気な犬が多くて安心しました。正直、見学する前は触ることができないような子たちばかりかと勝手なイメージを持っていたので。施設の方がすごく愛情を持って接して、家族として迎え入れてもらえる準備をされていることが伝わってきました」
もっと勉強して発信していきたい
自身の勝利数や安打数に応じて寄付額を決める選手も多い中、秋山投手はあえて成績と結び付けない選択をしました。成績に左右されることなく、この活動を長く続けて行くためです。そして寄付だけではなく、プロ野球選手という立場を生かした“発信”にも力を入れたいと話してくれました。
「今はペットショップで飼う人がほとんど。でも、こういう状況や施設のことを知ってもらえれば、違う考えをしてくれる人も増えると思うんです。保護犬を迎えてくれる人が増えればうれしいですし、今飼っている人たちにもっと責任を持ってもらえたら、それが一番ですよね。僕自身、もっともっと勉強するために、休日を利用して他の施設にも行ってみたいですし、シーズンオフには小学生の参加者を募って、シェルターで実際に犬と触れ合ってもらうのもいいですよね。現状を知ってもらえれば、すでに飼っている家庭での考え方も変わってくると思うので、どんどん発信していきたいと思います」
いよいよキャンプイン。きっとリベルくんたちも秋山投手を応援してくれるはずです。