トンガに残る「赤い波」神話は隕石落下による巨大津波だった 神戸大研究者らが発表

竹内 章 竹内 章

南太平洋の島国トンガ王国沖で起きた海底火山の大規模噴火。安否確認や被害の把握が難航しています。そのトンガが、15世紀に南太平洋に落下した隕石による巨大津波で、南西太平洋と中南部太平洋のいくつかの国を統治した大国時代の終焉をむかえたことを神戸大学大学院海事科学研究科・海洋政策科学部のクリストファー・ゴメス教授(地学)とソルボンヌ大学、ケンブリッジ大学などの研究者グループが突き止めました。隕石による津波は高さが100メートルという試算も。南太平洋の楽園に15世紀、今回を上回るような厄災が降りかかっていたとは…。

謎に満ちた植民地時代以前

トンガと西ポリネシアの植民地時代以前(16世紀以前)の歴史は、現在も謎に満ちています。考古学では、「トゥイトンガ」と名付けられた国王が、300年以上にわたって南西太平洋と中南部太平洋のいくつかの国を統治し、「トンガ海事帝国」と呼ばれる強国をつくりました。トンガ群島の島々は、中央集権の下にあり、伝承によると中央太平洋の近隣の島々にもその勢力下にありました。

しかし、15世紀中頃に重大な危機が訪れ、群島間の人々の移動は停止。帝国は近隣の首長国への影響力を失ったとされています。変化の理由については、現在でも議論が続いており、内政上の混乱を引き起こした何らかの原因があったと考えられています。

島に残る巨大なサンゴの岩

これまで大規模な自然災害の仮説が提示されることはほとんどありませんでしたが、研究チームが現地調査で島内に広範囲に広がる巨大なサンゴの岩に着目しました。

そのひとつが、首都がある本島のトンガタプ島には「マウイロック」と呼ばれる巨岩。長さ15メートル、高さ9メートルで780立方メートルで、最大1600トンと推定されます。この巨岩の下から堆積物や木炭を採取し、放射性炭素年代測定(C14年代測定)で分析したところ、15世紀ごろという結果が出ました。

海底に直径10キロのクレーター

この地域のプレート運動や活断層、火山などの地質学的活動状況から推測すると、このような巨大な岩を動かすエネルギー源が見当たりません。一方、海底にクレータが存在することから、津波は隕石の衝突によるものであると推測しました。クレーターはトンガタプ島の南250キロの水深3800メートルの海域にあり、直径は約10キロとされています。

隕石衝突時の影響をシミュレーションしたところ、隕石落下から1時間半後、トンガタプ島は高さ100メートルの巨大津波がトンガを襲われたと計算結果が出ました。栄華を誇った帝国は、この突然の天変地異で取り返すことができないダメージを受けたと考えられます。

周辺の国にも似た伝説

トンガには、「赤い波(ポークラ)」によって多数の大きな岩が堆積したという伝承が残されています。また、ニュージランドのマオリとオーストラリアのアボリジニの間にも、同じような「赤い海波」の言い伝えがあります。また、トンガ語の「赤い波」は津波を意味します。トンガに残された神話を、理化学的な研究によって裏付け・論証されたことになります。クリストファー・ゴメス教授に聞きました。

ー隕石落下の衝撃はどれほどのだったのでしょうか。地震に置き換えられるのでしょうか。

「隕石の衝突は地震のスケールとは比較にならないほどのエネルギーです。地震そのものや地震による津波とは比較できるようなものではありません。津波のヴォルクフロモデルによる計算結果では、落下地点やその周囲では津波の高さが200メートルで、トンガには100メートルの津波が到達したと推定されます」

ー100メートルの津波、想像できません

「珍しいことではないです。例えば、ハワイの火山山体崩壊に伴い、100メートルぐらいの津波は少なくても数回も起きたことがあります。一方、トンガでのフィールド調査によると、津波の遡上高を30メートルまで確認しています」

ー隕石の落下による影響はトンガ以外にも。気候への影響も考えられますか

「今回、発表した論文にあげた隕石はさほど大きなものではなかったため、ニュージランドなどに到達した津波は数メートル規模だと考えられます。ニュージランドの南島の山中の調査では、津波の堆積物が見つかっており、他の隕石の衝突でも大津波が起こっていたのではないかと考えられます。気候には影響したと想像されますが、それを証明する手掛かりは見つかっておりません」

ートンガ国民の防災意識は

「トンガは島国であるため、島の人たちの中にも津波の意識はあります。自然災害などの危険性を伝える伝統もあります」

ー研究のタイトルにも「伝説と科学の架け橋」と表現しています

「科学が発達するよりずっと以前から、トンガのような島国では自然災害などの危険性を伝えるための伝承がありました。古来からの伝承を紐解くと、現代の科学よりも伝承が命を守るということがわかります。伝承にも耳を傾けるべきだと考えます。逆に科学と工学だけに頼っていては、災害の影響は防ぎきれないと思います。未来に起こりうる災害の影響を防ぐためには、古くからの伝承を重んじるボトムアップな考え方が重要ではないかと思います」

ー今回のトンガの火山噴火について

「付近には何も情報がない海底火山が多いので、日本も危険性を考える必要があるかもしれません」

この研究成果は国際学術誌「Frontiers in Earth Science」に掲載されました。論文はこちら→https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/feart.2021.748755/full

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