「食後に物理学を服用」!? 意外なメンタル改善法を紹介した研究者のツイートが話題

竹中  友一(RinToris) 竹中 友一(RinToris)

うつや不安などの症状を抱えたり、精神科に相談したりする人は少なくなく、精神の不調は現代人にとっては身近な問題と言えます。そんなメンタルの問題に対して、意外な解消法を紹介したツイートが話題になっています。

「精神科の先生に『熱中できることはありますか?』と聞かれたから『物理ぐらいですね』と答えたら『では不安な気持ちになったら物理の研究をして下さい』と言われたので、1日3回食後に物理学を服用してる」

ツイートをされた武田紘樹(@tomatoha831)さんは、現在は京都大学で宇宙物理学を専門に研究を行っている研究者です。

物理がなぜ、どのようにメンタル改善に効果があるのでしょうか。武田さんにおうかがいしました。

――これまでどのような不安を抱えていらっしゃったのでしょうか?

武田さん:子どもの頃から、自分の意思とは無関係にある考えが頭に浮かんで離れなくなる“強迫観念”や、その時の不安を振り払おうとして何度も同じ行動を繰り返してしまう“強迫行為”、といった症状がありました。

例えば、身体のちょっとした変化を大きな病気ではないかと心配して、長時間ネットで調べたり体重や体温を何度も測定したり、医師から大丈夫と言われてもまだ心配で、医師の発言を一字一句頭の中で思い返そうとしたり…といった具合です。

また、高校時代には、教科書の一文を意味もなく1時間も読み返し続けたり、書いた文字が気に入らなくて何度も消しゴムで消しては書き直したりといったこともありました。

――そのような不安症状が研究で解消されるのですね。宇宙物理学を専門とされているそうですが、具体的にどのような研究なのでしょうか?

武田さん:私は“重力”について研究をしています。“重力”は基本的な力の一つですが、完全にはその正体は分かっていません。現在の重力の基本理論では説明できない現象の性質を探ることで、真の重力理論を探す研究を行っています。このようなテーマを考えることにより、自然現象がなぜ、どのようにして起こって宇宙がどのようにして進化してきたのかを、数学を使って解き明かすのを目標にしています。

――なかなか難しい…でも興味深いテーマですね。では、そのような研究によって、なぜ不安が解消されるのでしょう?

武田さん:物理学は強制的に「考えさせられる」ので、それがいいのかな。私にとって、研究は仕事であり好きなことでもあるので、精神的に苦しくてもそれに熱中することによって「知らぬうちに不安が消え去っていた」という経験を重ねられているのが良いのだと思います。

物理だけではなく、人によって方法はさまざま

物理学の研究に打ち込むことで、不安な気持ちを忘れられたという武田さん。

武田さんのツイートのリプ欄にも共感する声が多くありました。

「高校時代の物理教師が言っていた。『僕は物理がないと生きていけない。悲しい時に物理、苦しい時も物理、食前食後に物理…』多くの人々を救う物理学は偉大ですね」
「寝る前に物理やったらあっという間に朝になりますね(笑)」
「知人に法律の勉強に疲れた時は物理学の本を読んでリラックスするという人がいたので妥当かと」

このように、「物理学はメンタルに良い」と考える方は確かに一定数いるようです。

しかし、万人に必ずしも物理学が合うかというとそういうわけではありません。実際に、武田さんは自身に物理が有効だったと話す一方で、「物理が嫌いな人にはメンタル対策にはならないと思います」とも語っています。

ちなみに、筆者も正直言って物理や数学は苦手。物理ばかりやっていたら頭が痛くなってきそうです(苦笑)。そのような人はどうすれば良いのでしょうか。

「好きなもの、熱中できるものに集中している間は、メンタルが安定すると思います」(武田さん)

武田さんが医師から聞いた話によると、不安などの精神症状を抱えている時にメンタルを強くしようとか不安を無くそうとか思うと、かえってそれがプレッシャーになって良くないのだそう。あえて不安に立ち向かおうとするのではなく、自分が日ごろ自然に行っていることや、好きなことを継続して行うことで、「知らないうちに不安を忘れていた」という状態に自分を持っていくのが良いそうです。

仕事や家事・趣味など、人によってすべきことや好きなことは違います。なので、自分が今できることやしたいことを見つけることが、不安解消の第一歩になるといえそうです。それが武田さんにとっては物理研究だったということなのですね。

真剣に悩まず、楽しみながら…

武田さんを見ていると、メンタルを保つ秘訣は他にもありそうです。

武田さんは、自身の研究や日々の経験などをTwitterで紹介していますが、そのなかで一見辛いと思えるような出来事も、冗談混じりで発信していることがよくあります。

実は、「1日3回食後に物理を服用してる」という今回のツイートも、武田さんなりのユーモアを交えたもの。ツイート内に「不安」や「精神科」といった言葉も出てきているのに、まったく悲観的な印象を受けないところに、武田さんの人柄が出ているように感じます。

「私は真面目な話が苦手で、どんなことでも話しているうちに冗談とか皮肉に落とし込んでしまうんです。Twitterも初めは研究の息抜きに始めましたが、今では芸能人や著名人を含め、いろいろな人に見ていただけて、物理学以外の私の一つの楽しみになっています」(武田さん)

あまり真剣に悩みすぎず、時には冗談を言ったり、楽しみに変えられるように工夫をしてみるのも、メンタルの改善には良い方法かもしれませんね。

  ◇  ◇

現在はポスドク(ポストドクター;特別研究員)だという武田さん。将来正規の大学の教員のポストに就くことを目標に研究に励んでいます。

また、自身の研究活動と並行して、研究の楽しさや面白さを世に伝えたいという思いから、TwitterなどSNSで普及活動を行ったり、DMで研究者になりたいという学生の相談を聞いたり、宇宙物理学のYouTuberを目指して奥さんと動画撮影を行ったりなど、精力的に活動をしているといいます。

「研究が日本中の誰にもとっても身近で、カッコいい憧れの的になって欲しいです」(武田さん)

夢や理想・目標を掲げつつ、楽しみも見出しながら、前向きにさまざまな活動に取り組むこと。それがメンタルを安定させる上で最も良い方法なのかもしれません。

■武田紘樹さんのツイートはこちら→https://twitter.com/tomatoha831

■武田紘樹さんのホームページはこちら→https://hiroki-takeda.github.io/index.html

■武田紘樹さんの話題ツイートのまとめはこちら→https://twitter.com/i/events/1138460168201654274

■武田紘樹さんのnoteはこちら→https://note.com/tomatoha831/circle

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