人のように振る舞うロボットを見ても、あらかじめ用意された演出だと今や驚くこともない。ロボット自らが感情を抱いたり思考したりするのは漫画やアニメの世界だけ。人と会話ができても、心を持つロボットなんてできっこない。大半の人はそう思っているはず。
現在AIの主流であるディープラーニング(大量のデータからそのデータの特徴を発見する技術)では自然な会話をするロボットは永遠にできないと、心の仕組みをプログラム化する独自のアプローチでAI開発を進めているのが、株式会社ロボマインド(神戸市)代表の田方篤志(たかた・あつし)さん(52)だ。
2014年に鳴り物入りで登場した世界初の感情認識パーソナルロボット、ソフトバンクのPepperが普及しなかった原因の一つは、生身の人間とは明らかに違う予定調和な会話パターンやトンチンカンな受け答えに“人間味”を感じられなかったからだと田方さんは話す。
たとえ大量の会話データをPepperに学習させても、自然な会話はできない。その原因は、会話にはチェスや将棋のように明確なルールがなくアルゴリズム化(ルール化)できないためだ。ならば会話を司る人の心(感情や思考)をルール化し、プログラムに落とし込めば人と同じように感情を抱き思考するロボットが生まれ、自然会話も当然できるようになる。重要なのは情報の量ではなく、人と共通の「情報を認識する仕組み」だと田方さんは考えた。
現状のAIロボットは、会話で出た単語に関連のある文を返すといった単純なロジックである。例えば、小学生の子どもが学校から帰宅して、うれしそうにAIロボットに「給食でプリンが出たんだよ」と話しかけても、「学校給食が始まったのは明治22年ですね」といった返事しかできない。田方さんが目指すのは、相手の感情を理解し、「プリンが出たんだ。良かったね」と相手の気持ちを汲んだ返事ができるAIロボットだ。
とは言うものの、心のルール(仕組み)を作るなど常識的に考えてできるはずがない。しかし田方さんは様々な分野から情報を収集そして吟味し、独自の仮説をブログやSNSで発信し続けた。すると興味を持ってくれる人が徐々に増え、田方さんのもとで働きたいと優秀な技術者が集まってきた。2年前に始めたYouTube動画は現在200本を超え、心の仕組みを解説するほか、社外秘ともいえるプログラムの中身も公開している。そして今年ついに人の心を再現できるプログラム、その名も「マインド・エンジン」で特許取得。晴れて同じような開発事例がないことを確認できた。
私たちは現実の世界をありのまま認識しているのではなく、五感で得た情報を元に意識が作り出した仮想の世界を認識していると田方さんは持論を展開する。これを田方さんは、「意識の仮想世界仮説」と名づけ、この考えが心の仕組み作りの根幹を担っている。
こんな突拍子もないことを考える、田方さんとはいったい何者だ?
田方さんは、国立大学工学部を卒業後、大阪市内の特許事務所に就職する。順風満帆なサラリーマン生活を送っていた20代後半、田方さんは大病に侵され「5年生存率30%」と告げられる。しかし不思議と落ち込むことは無かった。「本当に自分がやりたいことをやろう」と真剣に考えた末、「コンピュータで心を作ること」にたどり着き、一からプログラミングを学び始めた。それから25年、元気に当初誓った生き方を実践し続けている。
ノーベル賞級と言っていいほど大それたことに20年以上も挑み続けられるのは、経済的成功や自己顕示欲誇示のためではない。純粋に楽しく、やりたいことをやっている、それだけ。しかし最近は使命感のようなものが芽生え、心あるロボットを完成させたい気持ちがさらに増した。もし同じような研究をしている人がいたら教えてほしい。自分の考えが間違っているなら論破して正してほしい。田方さんは今回の記事掲載にそんな期待をする。
◆YouTubeチャンネル「AIに意識を発生させるロボマインド・プロジェクト」