日本が誇る(ある意味)世界最強のバイク、ホンダ・スーパーカブ。アニメの影響もあってなのでしょう、最近とても人気です。実用的で働き者のイメージですが、そんなカブで真剣にレースをしている人達が居ます。11月21日、近畿スポーツランドで行われた全日本カブ耐久・2021最終戦を取材しました。
真剣に、でもゆとりを持って大人のレース
京都・宇治の山奥、一部には「天空のサーキット」と呼ばれている(らしい)近畿スポーツランドは、朝から賑やかな熱気に包まれていました。8時30分、コース上でブリーフィングが始まります。このレースを主催しているのは奈良県生駒市のはっぴいえんどプロジェクトさん。レースに関する注意事項は、とにかく「無理をしないこと」です。真剣にやらなければ楽しくない、でも必死になったら危ない。その辺りをちゃんと理解して大人のレースを楽しみましょうという、そんな気持ちが伝わってきます。
たとえばこの日はカブのレース以外にも「R48」というレースなどがあったのですが、これは「一周48秒を切ってはいけない」という規則で、それより速く走ってしまった分は周回数に算入しないというおそろしいペナルティが課せられます。ちなみに48秒というのは「結構早いけど無理をすると超えてしまう絶妙なタイム」のようです。今回二位になったチームでは「速く走りすぎて優勝を逃してしまいました、ごめんなさい」とエースライダーがチームに謝罪する(笑)姿も見られました。
こういうところを楽しめる大人のためのイベントなんですね。
110分カブ耐久レース
メインの「全日本カブ耐久2021最終戦」は9時にスタートしました。110分間の耐久レースです。「カブ」というタイトルは付いていますが、スズキのバーディやヤマハメイトなどもエントリー可能です。レギュレーションは「50cc」で「カブ種」となっていますが、つまり「遠心クラッチ」で「変速ペダル」の付いた「働くバイク」ということでしょう。また普通カブをレース用にするというとレッグシールドを外してしまいがちですが、ここではクロスカブのように最初から装備されていないものを除いて「取り外し禁止」です。なので、全体としてみんなとてもカブ感のある仕上がりになっています。
マフラーは改造可能なので、姿形はカブながら結構勇ましい排気音です。そしてホームストレートではおよそ70km/hのスピードが出ているそうです。ライダーもみんな皮つなぎにフルフェイスヘルメットで、写真を撮っているとファインダー越しに気迫が伝わってくるアグレッシブなライディングです。サイドバイサイドで第一コーナーに飛び込んでくる姿は、もうモトGPのような迫力(ってそんな場所で見たことないんですけど)。ただミッションはもちろんカブなので、「がしゃん」というチェンジの音や「ぎゅいーん」と唸るミッションの音が間に混じって微笑ましいです。
110分間、まさにデッドヒートが繰り広げられました。
レースを楽しむ素敵な大人達
このレースで優勝し、さらに本年度の年間チャンピオンが確定したゼッケンナンバー1の内田さんにお話を聞きました。
周回数ではなくスピードメーターの距離計の走行距離で順位が決まるカブ耐久レース、「女性とか初心者はどーんとハンデがもらえるけど、反対にぼくらにはめっちゃ厳しいからなかなか難しい」とのことです。レーシングチーム「アクノソシキ」を主宰されている内田さん、過去09年と10年に全日本カブ耐久レースシリーズチャンピオン(ポイント制で独自に計算しているそうです)になっていたのですが、間が空いて今回見事に返り咲きました。
この日はまさに内田さんの日だったようで、この優勝だけではなく、最後のじゃんけん大会でも見事に「世界限定5個の貴重な腕時計」をゲットされていました。
カブ耐久レースの後もコースでは様々なクラスのレースが続きます。そんななか、カブクラス参戦チームで片付け中に筆者と目が合ってしまった(?)RT青心工機の森さんにインタビューしてみました。
森さんのカブは比較的新しいインジェクション仕様。なので「走りながらタブレットで燃調(ガソリンの噴射量などの調整)が出来るんです。セッティング変更はレギュレーションでOKなので」と燃調マップを見せてくださいました。まるで湾岸ミッドナイトのような世界です。カブもここまで進化していたのですね。
「レースというと大変そうだけど、でもそれがカブだったら出来そう、という敷居の低さが魅力です」という森さん。中古で安く手に入れた車体をベースに、あまりお金を掛けずに楽しんでいるそうです。ただ、最近のブームでカブ関係は車体も部品も高くなっていて、特にキャブレター仕様の車体は高騰しているといいます。
「でもまあカブのレースは丸一日、安く遊べます」と笑顔でした。
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素敵な大人の集う、楽しいレースを企画されるはっぴいえんどプロジェクトさん。来年のスケジュールはまだ未定で、年末までにまたWebで発表されるということです。
戦うカブを間近に見られる、バイク好きの方にはとても楽しいレースです。ぜひ一度お出かけください。