盲学校に通う弱視の女の子と、喧嘩上等だけど根はまっすぐなヤンキーとの恋愛を描いた日テレ系のドラマ「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜」が好評だ。視聴率こそ8〜9%台だが、回を追うごとに「単なる“胸キュンドラマ”とは一線を画す深みがある」と視聴者の評判は右肩上がり。登場人物それぞれの心情を掘り下げて丁寧に描いていることに加え、物語に散りばめられた“弱視あるある”も注目を集めている。実はこのドラマ、ロケ地にもなっている横浜市立盲特別支援学校が監修としてもがっつり関わっているらしい。
弱視にスポット「画期的」と話題
「生徒や教職員はもちろん、保護者もみんな毎週楽しみにしています。放送翌日の木曜日は、その話題で盛り上がっているんですよ」と話すのは、同校の長尾一(はじめ)校長。映画やドラマなどのフィクションで視覚障害者が登場する場合、多くは「全盲」で、本作のように「弱視」にスポットが当たることは少ない。このため関係者の間では「画期的なことだ」と好意的に受け止められているという。
「恋です!」は、漫画家うおやまさんの「ヤンキー君と白杖ガール」が原作。「見えにくさ」を抱える人のことを知ってもらおうと、2018年にうおやまさんが個人でWeb連載を始めた。それが出版社の目に留まり、現在単行本が6巻まで刊行されている。うおやまさんのインタビューなどによると、父親が弱視であることが執筆の動機のひとつになっているようだ。
ロケ地と監修で全面協力
横浜市立盲特別支援学校は、ドラマで主人公の赤座ユキコ(杉咲花さん)が通う盲学校のモデルとして登場。学校の外観や教室、図書室などが実際に撮影で使われている。
長尾校長によると、今年の春ごろに日テレ側からドラマ化に際して連携協力の依頼があり、学校側も市教委と相談の上、「視覚障害のことを知ってもらう機会になるなら」と快諾。台本も教職員が準備段階から目を通し、視覚障害教育の立場からアドバイスしている。
具体的には、例えば物語の冒頭で、点字ブロックの上に座っているヤンキーの黒川森生(ドラマでは杉野遥亮さんが演じている)とユキコが初めて出会う場面。原作ではユキコが白杖を武器にして抗議するのだが、「白杖をこんな風に使うことはまずあり得ません」(長尾校長)。このためドラマでは、森生に白杖を掴まれたユキコが思わずを脚を振り上げて、それが股間にヒットするという描写に変更したという。他にも、ユキコが普段、自宅で白杖をどこに置くのが自然なのかなど、視覚障害者の“リアル”を反映したアドバイスが随所に生かされている。
同時配信、音声ガイド…作り手の真摯な熱意
また長尾校長が嬉しく思っているのは、ドラマがTVerなどで地上波と「同時配信」されていること。「盲学校は全国に67校あるのですが、中には日テレ系がネットされていない地域もあります。でも同時配信によって、みんな同時に楽しむことができているんですよ」。音声ガイドにも配慮が行き届いており、視覚障害の当事者からも喜びの声が上がっているという。
長尾校長は「啓発的・教育的な視点も織り込みながら、ラブコメとしての面白さが全く損なわれていない。ちゃんとしたドラマを作ろうというスタッフや俳優の皆さんの真摯な熱意が感じられる作品になっていると思います」と話す。
そして何より同校の関係者が舌を巻いたのは、盲学校の生徒を演じる杉咲花さんらキャストの真に迫る演技。撮影前に同校を訪れて当事者と話をしたり、弱視の見え方を体験できる「シミュレーションレンズ」を着用したりした上で臨んでいるといい、実際にドラマを見て「本当によく研究してくれている。スマホの操作など、弱視の人の動き方も演技できちんと表現できていてすごい」と驚かされたそうだ。
長尾校長は「このドラマをきっかけに、見えにくい人が日々どんなことを経験し、感じているかということを多くの人に知ってもらえるなら、こんなに嬉しいことはありません」と期待している。
Web媒体で「弱視あるある」も連載中
さらに同校は、KADOKAWAのWeb媒体「横浜LOVE Walker」でドラマと連動したコラムも連載中。弱視当事者でもある教職員2人(まちこさん、みゆきさん)が、視覚障害や盲学校のこと、ドラマでの描写についても当事者の視点からわかりやすく解説している。読者からは「恋です!」の世界をより深く知ることができるとポジティブな反響が寄せられているそうだ。
連載はこちら→ https://lovewalker.jp/special/3000839/
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「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜」は毎週水曜日、午後10時から日テレ系で放送中。11月10日の第6回では、ユキコが通う盲学校のマラソン大会の様子が描かれる。予告では「ついにユキコと森生が初キス―!?」という気になる一文も盛り込まれており…、ああもうどうしましょう!
【「恋です!」公式サイト】https://www.ntv.co.jp/yangaru/