東宝スタジオから、特撮監督目指す小6に届いた直筆の手紙「チャンスはきっとある」母のガンで、夢は途切れても

竹内 章 竹内 章

怪獣映画の特撮監督になりたかった小学6年生に届いた東宝スタジオからの手紙。そこには「知識と経験をいっぱい積みましょう。チャンスはきっとあるはずです」と手書きで記されていました。月日はたち、事情もあって、監督という夢からは遠ざかりましたが、“元小学生”が抱く怪獣への熱意は今も変わりません。「ずっと身近な存在です。今までも、これからも」。怪獣にまつわる新たな目標を追いかけています。

 「小学6年生の時にやった『なりたい職業調べ』の授業で、自分はどうやったら映画監督(特撮の監督)になれるのか?という内容の手紙を東宝に送ったんですよ。その返答の手紙がこちら。”一生の宝物”にしようと厳重に保管しすぎて長らく行方不明でしたが、今日部屋の整理をしていたら発見しました。」

ツイッターユーザーのスガワラタカフミ(@mgs3pwv124)さんが2枚の画像とともにつぶやくと、「誠実なお返事だなぁ」「文字にとても親しみを感じるし、子供相手だからと甘言で濁さずにいるのも書き手の心遣いを感じる」「僕も40年前同じ事を文集に書いた。特撮技術の監督になりたいと。なってないけど現在もゴジラやウルトラマンが好きなのには変わりない」など共感の声が上がり、2万超のいいねがつきました。

 届いた“夢の切符”「こうしたらなれる」という方法はなくても

東宝スタジオは1932年、写真科学研究所(PCL)として東京・成城に創立。以来このスタジオからは『七人の侍』をはじめとする黒澤監督作品や『青い山脈』『駅』といった日本映画を代表する名作、また『シン・ゴジラ』などの「ゴジラ」シリーズや、『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』といった数々の話題作が産み出され、映画ファンの夢の工場であり続けています。

同世代の少年と同じように、スガワラタカフミさんも怪獣映画に心を躍らせた一人でした。4歳のころにVHSで観た「ゴジラvsメカゴジラ」(1993年公開)、お母さんに連れられて映画館で観た「ガメラ2 レギオン襲来」(1996年公開)が怪獣とのファーストコンタクト。以降、毎日のように怪獣図鑑を読み耽り、怪獣の身長・体重・必殺技を覚えて…という幼少時代だったそうです。

東宝スタジオに手紙を送ったのは、小6の夏休み前。「東宝さんも忙しいだろうし、返事が来るかどうか分からないよ」と周囲が言う中、スガワラさんは「早く返事が来ないかな…」と事あるごとに玄関の郵便受けをチェックしたそう。そして、夏休みの終わりか明けたころ、東宝スタジオ経営室からの手紙が。うれしくてその場で泣き出してしまったことを今も鮮明に覚えています。

「御返事が遅くなってごめんなさい」で始まるその手紙は、スガワラ少年に「始めに言わなければならないのは、『こうしたら必ず監督になれる』という方法は無いということです」と現実の厳しさを説きつつ、「チャンスを作る方法はあるので教えます」と語り掛けます。監督への一歩として、どんな仕事でも構わないから撮影のスタッフとして現場に入ること。現場に入ってからは「努力」が必要なこと。そして「そこで知識と経験をいっぱい積めば監督になるチャンスはきっとあるはずです」と励まします。

「ゴジラの映画を撮る」が目標だった小学生は、手紙を”夢への切符”としてお気に入りのゴジラフィギュアと一緒に部屋に飾りました。

母にがんが…夢は夢のまま終わっても

中学生になっても夢は変わらず、進路について深く考え始めていた中学3年の春、スガワラさんの母の体にがんが見つかりました。夢を貫くことも考えましたが、母のことを考えて「普通の高校へ行き、就職する」と決断しました。「あなたの夢を私のために捨てさせてしまい、申し訳ない」と泣き崩れる母。初めて見る涙でした。

長い闘病を経てスガワラさんの母は2013年に他界しました。「病気と闘う母親を最後まで支えることができたのであの決断に後悔はありません」と話すスガワラさんに聞きました。

 ―東宝スタジオからの手紙が反響を呼んでいます

「当時12歳だった私にとても真摯な内容の手紙を送ってくださった東宝スタジオ運営室の方にあらためて心より感謝いたします。あの手紙をいただいてすぐにお礼をお送りし、それへのお返事もいただきました。必ず残っているはずなので、今探しているところです」

―ツイッターの自己紹介文からは今も変わらぬ怪獣愛が

「夢が夢のまま終わってしまった後も私の脳内は怪獣のことでいっぱいでした。私にとってゴジラシリーズやガメラシリーズ、ウルトラシリーズに登場する”怪獣”というのは”生涯の友達”だと思っています。『空想上の存在で現実にはいないのだけれど、常に自分の身近にいてくれる存在』です」

―その魅力を

「怪獣たちは今も昔も映画やテレビを通して、私に多くを教えてくれます。自分より強い相手に立ち向かう勇気、命の大切さと尊さ、何かを必死に守ろうとする心、善と悪、生と死。ただ単に街で暴れたり敵と戦ったりするのではなく、生きていく中で『当たり前すぎて普段忘れがちになっている大切な何か』を観る人の心に訴えているのではないでしょうか。それが怪獣の奥深い魅力の一つと考えています」

―新しい「夢」とは

「『怪獣専門のフィギュアショップを開きたい』というのが、今の私が目指す新しい夢です。これもきっかけがあります。今から15年以上も前ですが、近所に昔の怪獣ソフビ(ソフトビニール人形)やフィギュアを売るお店がありました。そこで買い物をするうちに店長の方と仲良くなって、店に行く度に怪獣玩具の知識を勉強させてもらっていたんです。いろいろあって『人生の新しい夢(目標)を決めたい』と悩んでいた時に、ふと楽しそうな笑みを浮かべて私に玩具の説明をしている店長の顔が浮かんで『これだ!!』と思ったのが始まりでした」

―人との出会いが夢になる…素敵ですね

「実現まで先は長いでしょうが必ず叶えたいです。それとは別に、ツイッターを始めたことによって怪獣好きの方々との出会いもありました。一緒に何か面白いことがしたいよねという話もあります。そちらの方も頑張りたいなと思っています」

 再びスガワラタカフミさんの前に現れた”夢への切符”。その目標がどうか叶いますように。

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