飼い猫を連れてきて一緒に過ごせるシェアオフィスが、10月にオープンする。大阪市都島区に誕生する「網島サンク」だ。ひとりで留守番させておくのが心配な子猫でも、一緒に連れてくることができれば安心して働ける。そして、猫がいれば、ストレスも和らぐし、見知らぬ人どうしでも、コミュニケーションが生まれそうだ。
常駐の猫はいないが、飼い猫を連れてきて一緒に過ごせる場所
「24時間いつでも出入り自由で、しかも連れて来られるペットは猫限定です。こんなシェアオフィスは、自分が知る限りほかにありません」
こう話すのは、株式会社人と不動産の代表取締役で、「網島サンク」を企画プロデュースした小上馬(こじょうま)大作さん。ざっと調べたところ、猫や犬がいるシェアオフィスを謳っていても、実態は猫カフェ・犬カフェに近いものが少なくないようだ。
「網島サンク」があるのは、大川と寝屋川の合流点に近い閑静な環境にあるビル「東文ビル」の3階。都会の喧騒からはやや離れている場所だ。
「ペットを連れて来られる」と小上馬さんがいうように、ここは「飼い猫を連れてきて一緒に過ごせる」ことがコンセプト。猫カフェのように、常駐の猫はいない。
「たとえば自宅でひとり留守番をさせておくのが心配な子猫を連れてきて、フロアで自由に遊ばせておくのもよし、ケージに入れておくのもよし。それは飼い主さんの自由です」
必ずしも飼い猫を連れて来なければいけないという規則はないが、誰かが連れてきた猫がいるという前提で、利用は猫好きの人に限る。
シェアオフィス会員は自分専用に使えるデスクと収納棚を借りて、自宅から猫を抱いて手ぶらで出勤できる。オフィスを賃貸するプランもあって、こちらは猫にかぎらずペットと一緒に出勤できるという。
同じビルの5階に住んでいる、ビルオーナーの内野美代さんも2匹の猫を飼っている。内野さんが3階に下りてくるときは、猫も一緒だ。
「妊娠している猫を保護なさった夫婦がおられて、4匹生まれたうち2匹をうちで引き取ったんです」
黒ブチの子が「大ちゃん」、黒のハチワレの子が「福ちゃん」、2匹あわせて「大福」だそうだ。
空きスペースの新しい活用法を探った結果「猫だ!」
築30年になる東文ビルの新築当時から入っていたテナントから昨年、退去の申し出があった。36坪の空きスペースをどう埋めようか、内野さんから小上馬さんへ相談を持ち込んだのが昨年12月だった。
設計士さんも交えて相談しているとき、ふとした雑談で内野さんが長年飼っていた猫が亡くなったという話が出た。
猫好きで、自分も猫を飼っているという設計士さんが「それは悲しかったでしょう」と同情すると、犬派の小上馬さんがあることに気づいた。
「猫が人を惹きつける力って、犬のそれより強いのではないかと感じました。猫カフェに対して犬カフェの数は少ないし、猫好きという括りでビジネスとして一定の市場があるんじゃないかと」
そう考えたときに、オーナーさんは猫好きだし、猫好きのテナントさんをこのフロアに集めたら、より一層楽しくなるのではないかと考えた。
そうして生まれたアイデアが、猫好きという共通点をもった人たちが集まる、猫好き限定のシェアオフィスだった。
設計士さんも猫好きなので、壁と天井にはキャットウォークをつくってあるし、猫が頭をぶつけそうな梁がある場所には保護措置が施されている。
「設計士さんも猫の行動をよく理解して設計してくださいました」と、内野さんも満足しているという。
猫を通じて年齢・性別を超えたコミュニケーション
猫好きのためのシェアオフィスをプロデュースする過程で、小上馬さんに小さな変化が現れ始めたという。
「猫好きの人たちの気持ちがわかってきたような気がします。街を歩いているとき、ビルの陰に子猫の姿を見つけると『大丈夫かな。保護してくれる人がいるかな』と意識が向くようになりましたね」
犬派の心にも変化をもたらした「網島サンク」は、今後どのように展開していくのだろうか。
小上馬さんも内野さんも、ターゲット層はこの近辺の徒歩圏内に住む30〜40歳代を想定してはいるものの、猫好きをきっかけに年齢性別とは関係なくコミュニケーションがとれる場になればいいという。
「共通点があることで垣根が低くなるし、猫がいるだけで和やかになりますよね」(内野)
「コロナ禍の今は人と人とのつながりが希薄になりがちなので、人が交流するスペースになってほしい。コロナが収束した先には、また新しい展開があるかもしれません」(小上馬)
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