保護犬がデイサービスの“癒し犬”に 足元にそっと寄り添うと高齢者の気持ちに驚くべき変化

岡部 充代 岡部 充代

 四国犬のふたばちゃんにとって、水玉模様の服は“お仕事”へのスイッチです。勤務場所は兵庫県尼崎市にある地域密着型デイサービス『南武庫茶寮』。デイサービスといえば、要介護状態にある高齢者がスタッフのサポートを受けて入浴や食事などをする日帰り施設のことですが、南武庫茶寮は外観も内装もオシャレで、地域住民も利用できる“カフェ”の機能を備えて2021年5月に開設しました。

 

「デイサービスと聞くと、お年寄りばかりが集まる場所をイメージされると思いますが、ここは違います。いろいろな年代の方が集ってこそ、社会の一員であることを実感できると思うので、地域の方にもカフェとして利用していただき、介護施設っぽくならないようにしているんです。自然な老いのためには社会参加が絶対に必要ですから」

 そう話してくれたのは、施設管理者の若月怜子さん。ふたばちゃんの飼い主でもあります。

 

民家の床下で野犬のママから産まれた保護犬、「向かないかもしれない」と言われたが…

 ふたばちゃんは2016年秋、香川の山間にある民家の床下で野犬のお母さんから産まれました。地元の愛護団体に保護され、同年12月に里親募集サイト『ペットのおうち』を通じて若月さんの家へ。一緒に働ける犬を探していた若月さんの上司が、写真を見て「この子!」と一目惚れしたのだそうです。当時、ふたばちゃんは生後約2カ月。保護主には「野犬は施設の犬には向かないかもしれない」と言われましたが、会いに行ったとき「きょうだいの中で後れを取って、ごはんを食べられないこともあるようなおっとりした子」だと聞いて、若月さんは決心しました。

 

 家族に迎えて間もなく、事務所に同伴出勤スタート。車で営業に出るときは助手席に乗せ、訪問サービスに連れて行くこともありました。南武庫茶寮ができてからは、利用者の送迎に同行させるなど、徐々に仕事のパートナーとしての時間を増やし、今年8月初旬から茶寮に“出勤”。

「私が家にいるときとは違うからでしょう。常にふたばを見ているわけにいきませんし、最初は少し不安そうでした。今も朝、“出勤拒否”の日がありますし(苦笑)、出勤しても『もう帰ろうよ』という空気を出すこともあります。そんなときは無理をさせないようにしていますが、来られる予定のお客様によっては、頑張ってもらうこともありますね。あ、ここでは“利用者様”ではなく“お客様”とお呼びしています。ふたばがいることで変化が見られるお客様もいらっしゃるんです。例えば、いつも大きな声で独り言ばかり言っていた方が、静かに雑誌を読めるようになったり。(入所している)施設の方も驚いていました」(若月さん)

 

 ふたばちゃんは茶寮の空気を穏やかにするのが仕事。お客様にとって癒しの存在であるだけでなく、働くスタッフにとっても大変な業務の中、ちょっとふたばちゃんをなでたり話し掛けたりするだけで、心が穏やかになると言います。

「今はまだ自分の仕事を分かっていないかもしれません。でも『ここではお行儀よくしないといけない』ということは理解していますし、オシッコも外の茂みでしかしません。お客様の気持ちを察して接することができるようになる日も近いと思います。そうなれば、もう“プロ”ですよね。役割を与えられた犬って、生き生きしているじゃないですか。ここがふたばの“犬生”にとって、そういう場所になってくれたらうれしいですね」(若月さん)

 

 体重18キロのふたばちゃんは存在感たっぷりですが、それでいて、お客様の足元にそっと寄り添う姿は、まるで空気に溶け込んでいるよう。デイサービスの施設に、これほどピッタリの犬はいないかもしれません。

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