バイデン政権発足から半年 「中国は最大の競争相手」継承されるトランプ路線

治安 太郎 治安 太郎

 バイデン政権が発足して半年が過ぎた。国際協調路線を貫くバイデン大統領は、パリ協定やイラン核合意への復帰などに舵を切るなど、脱トランプ路線を進んでいるように思われる。しかし、最大の問題である対中国では、トランプ路線をそのまま継承している。トランプ前政権が中国に発動した経済制裁を、これまでのところバイデン政権は非難もしていないし解除もしていない。バイデン大統領は今年2月の施政方針演説で、中国を最大の競争相手と位置付け、安全保障や経済、人権やテクノロジーなどあらゆる分野で中国に対応して行く姿勢を協調した。

 だが、この半年間をみると、中国への対抗方法ではトランプとバイデンは大きく異なることは明らかだ。フランスやドイツなど欧州主要国との関係が冷え込んだトランプ政権は、基本的には独自で中国に対抗してきた。中国との対決姿勢を鮮明にしたトランプ前大統領は、米国単独で輸出入制限や関税引き上げなどの制裁を連発してきたが、それは二国間内での対立だったと言える。反対に、バイデン大統領は米中対立を二国間内での対立として捉えず、米中対立を多国間対立に拡大させる戦略を取る。すなわち、バイデン大統領は日本やオーストラリア、英国やフランスなどの友好国や同盟国と連携を重視し、多国間で中国に対抗していこうとする。正に、国際政治でいえば国連の集団安全保障体制のようだ。バイデン大統領が就任直後から欧州との関係改善に動き出した背景には、多国間による中国包囲網を作り出したい思惑もあったことだろう。

 そして、新型コロナウイルスの感染拡大、香港への非民主化圧力、ウイグル人権問題なども相まって、多国間による中国包囲網の動きは加速化している。中国は依然としてコロナ起源の真相解明で十分な協力姿勢を示していないが、そういった姿勢を堅持する中国に対して、新型コロナによって大きな被害を被った米国や欧州の対中不信は遡及できないほど高まっている。また、人権問題を重視するバイデン政権になって以降は、香港やウイグル人権問題が大きな論争となり、対中国での関係当事国間の結束がいっそう強くなっている。

 こういった国家間関係の変化を利用するかのように、バイデン大統領は米中対立の多国間化をいっそう進めている。バイデン大統領は今年3月に日米豪印の首脳レベル会合“クアッド”をオンラインで主催し、4カ国が結束して中国に対抗する姿勢を示した。また、外交防衛の側近たちを積極的に同盟国や友好国に送っている。ブリンケン国務長官やオースティン国防長官はバイデン政権発足後初の訪問先として日本を訪れ、2プラス2の外務防衛会談で中国を強くけん制した。両長官は韓国でも2プラス2の外務防衛会談を行い、オースティン国防長官はその後インドも訪れ、安全保障上の関係を強化していくことで一致した。今年秋には日米豪印のクアッド会合が再び実施される予定となっている。

 習政権にとっては、トランプよりバイデンの方が厄介な存在だろう。トランプ時代の4年間は、米国と欧州との関係が大きく冷え込み、G7も機能麻痺に陥ったことから、影響力を高める中国にとっては悪くない環境だった。しかし、中国へ対抗する姿勢を継承するだけでなく、第三諸国を積極的に巻き込み、中国の一種の孤立化を形成しようとするバイデン大統領に、習政権も警戒を高めている。バイデン時代においては、中国は陣営固めのためにも諸外国との関係維持・強化を重視しなければならない。中国が去年以降活発化させるワクチン外交の中にも、その狙いがあることは想像に難くない。

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