『カメ止め』ブレイクのしゅはまはるみ、苦節から時の人に 戸惑いと葛藤は『カメ止め』の呪縛

石井 隼人 石井 隼人
『カメ止め』ブレイクのしゅはまはるみ(撮影:石井隼人)
『カメ止め』ブレイクのしゅはまはるみ(撮影:石井隼人)

インディーズ映画として異例の大ヒット&社会現象化した『カメラを止めるな!』(2018年)から3年。今年5月にフランスでのリメイク版製作決定のニュースが報じられたことで、再び注目が集まっている。

公開当時の熱狂を振り返り「どうしてあんなことになったのかと、いまだに驚いています」と首をかしげるのは、『カメ止め』出演を機に人生を激変させたしゅはまはるみ(46)だ。自称「苦節43年」にピリオドを打ってくれた運命的作品との出会いは約3年前、まさに人生における大きなターニングポイント。しかしその成功の影には“止まれない!”葛藤もあるようだ。

全員無名の低予算インディーズ映画ながらも、SNSを中心に話題沸騰。都内2館でのスタートから、最終的には全国300館を超える劇場で拡大公開された。出演者の中には大手芸能事務所への所属が決まる者も現れ、『カメ止め』旋風はさながら現代のシンデレラストーリーに。主人公の妻・日暮晴美を演じたしゅはまも、そんな旋風の恩恵を受けた一人だ。

「面白いものが完成したという手応えはありましたが、私としては自分の名刺代わりの作品ができたという程度の認識でした。『カメ止め』での私の出演シーンをダイジェスト的にまとめた営業用DVDが作れるなと。それがいざ劇場で公開されたら社会現象化。ダイジェストDVDが日の目を見ることはありませんでした」とたった一作品で状況は一変した。

『カメ止め』フィーバー中は「撮影現場では『観ました!』と声をかけてくれる方も多くて、自分に対する説明がいらなくなりました。それまでの『誰?』というようなアウェー感もなくなり、現場に行きやすくなりました」と一躍時の人に。しかし急激な環境の変化に戸惑いも生まれた。「例えば今日のようにインタビューを受けたりすると、誰が私の事なんか知りたいの!?と不思議。私自身は何も変わっていないのに取材の対象になるって…どういうこと!?」と苦笑い。

生まれた『しゅはまを止めるな!』の強迫観念

現在のしゅはまは、俳優業の傍らダイエット企画の一環でグラビアデビューを飾ったり、海外ドラマデビューを目標にTOEIC800点を目指したり、自らに挑戦を課す活動に積極的。その源には“『カメ止め』の呪縛”があるのだという。

「以前は、ただただ売れない役者として安穏として日々を生き延びればいいという気持ちでした。でも『カメ止め』のオーディションに挑戦したことで成功して今があるわけですから、挑戦することを止めたらあとは落ちるだけという不安があります。それに、挑戦している姿を周りから常に期待されているのではないか!?という強迫観念も生れました」と“止まれない!”葛藤を打ち明ける。

自称「苦節43年」のキャリアも“止まれない!”に拍車をかけている。「小劇場を中心に細々とやって来た年数が長い分、貧乏性なのかもしれません。安定を感じた瞬間、また細々とした環境に戻ってしまうのではないかと、怖くて胡坐もかけません。もしかしたら今も何かに挑戦し続けている姿を私自身が期待していて、『カメ止め』で感じた面白さと楽しさを追い求めているのかもしれません」。

しゅはまを含む3人で立ち上げた自主映画ユニット・ルネシネマも、そんな挑戦の中のひとつ。ユニットのプロジェクト第2弾となる映画『あらののはて』が、8月21日から『カメ止め』の聖地である池袋シネマ・ロサで公開される。しゅはまは絵画教室の講師を演じる。

「私が言いそうなセリフしか書かれていなかったのでナチュラルに演じることが出来ました。生徒のオジサンたちを相手に会話する場面は、小劇場のレジェンドたち(劇団『動物電気』の政岡泰志や小林けんいち)との共演で緊張しましたが、スナックでのアルバイト経験が活きました。美術の先生という職業に対する憧れもあったので、本物っぽく見せる工夫をするのも楽しかった」と見どころに挙げている。

今後の目標は、ルネシネマから『カメ止め』を凌駕する話題作を生み出すこと。やはり、しゅはまは止まれない!

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