「お父さん、何かできるんちがう?」天国の愛犬のメッセージでトリマーに転身 主の幸せ願った犬の行動に涙

岡部 充代 岡部 充代

 兵庫県赤穂市在住の橋本圭司さん(63)は軽自動車を改造した“トリミングカー”で出張トリマーとして活動しています。特に宣伝はしていないそうですが、シニア犬や、飼い主が高齢でトリミングサロンへ連れて行くことが難しくなったケースなど、需要は増えているとか。「最初は生活できるくらい稼ごうと夢を膨らませていましたが、今は困っている人の手助けができたらいいかなと思っています」(橋本さん)

 橋本さんの年齢からしてベテラントリマーかと思いきや、61歳で資格を取得し、62歳で開業したというから驚きました。公務員として定年まで勤め上げ、そのまま再任用で仕事を続けていたときのこと。亡くしたばかりの愛犬・モモちゃんからメッセージが届いたそうです。

「お父さん、何かできるんちがう?」

 

 モモちゃんは2011年5月に北海道で生まれたスタンダードプードル。縁あって橋本さんの家族に迎えられ、生後約2カ月で千歳空港から羽田空港、そして岡山空港へと飛行機を乗り継いでやって来ました。子どもがいなかった橋本夫妻は、モモちゃんを我が子のようにかわいがったと言います。

「洋服を着せたり、リボンを付けたり。毎週のように岡山のドッグランへ連れて行きましたし、年に1、2回の旅行も楽しみでした」(橋本さん)

 そんな幸せな日々に暗雲が垂れ込めたのは、モモちゃんがもうすぐ6歳になろうかという頃。血尿が出たり、尿にキラキラしたものが交じるようになりました。「ストルバイト」という尿結石の一種でした。モモちゃんがそれまで見られなかった行動をするようになったのは、秋祭りが終わる頃だったでしょうか。

「散歩に行くと、『誰か来ないかな』とでも言いたげに振り返ったり、四つ角の真ん中で他の犬が来るのを待ったり。気に入った犬がいる家へもよく行くようになったんです」(橋本さん)

 そんなことがしばらく続き、橋本さんはふと思いました。「モモちゃん、寂しいんかな?」。翌年6月、モモちゃんの“妹”としてミニチュアシュナウザーのいろはちゃんが家族に加わりました。

 

 モモちゃんはきっと喜んでくれるはず、と思っていましたが、どうも様子が違ったようです。

「いろはが近づくと、『私じゃなくてお父さんのところへ行きなさい。お父さんにかわいがってもらいなさい』とでも言うかのように、いろはを私たちに押し付けて、全然構ってやらないんです」(橋本さん)

 その年の10月、スタンダードプードルが100頭以上集まる“オフ会””がありました。橋本家もモモちゃんといろはちゃんを連れて参加。そこでのモモちゃんはお姉さんらしく、いろはちゃんが他の犬に絡まれそうになると追い払ったりしていたそうです。ゲームに参加し、お母さんと一緒に走って、楽しい一日を過ごしました。ところが…。

 翌日、モモちゃんは天国へと旅立ちました。散歩から帰宅し、庭でリードを放してもらった直後に倒れたそうです。その日から毎日、泣いてばかりだったという橋本さん。1カ月たち、2カ月たち…ある獣医師のブログに出合います。そこには「愛犬の一番の願いは飼い主の幸せ。自分の死期を察知すると、残された飼い主ができるだけ悲しまずに過ごせるよう、“次の子”に飼い主の幸せを託すことを考える」といったことが綴られていました。

「モモちゃんは自分の命が残り少ないことを知っていて、いろはを飼わせ、私たちが悲しまないように置いて行ったのかなと」(橋本さん)

そして、冒頭のメッセージが聞こえたのです。

「お父さん、何かできるんちがう?」

 

 なぜ「トリミング」が思い浮かんだのか、橋本さん自身も定かではありませんが、モモちゃんに導かれるようにトリマーの学校を探し、通い始めました。御年61歳。最初は仕事と両立させていましたが、父親の介護が必要になり、退職。学業に専念すると同時に開業の準備を進め、昨年6月『出張トリミングカー いろは』を相棒に第二の人生をスタートさせました。いろはちゃんともう1匹、新たに迎えたスタンダードプードルのはなちゃんに見守られながら。

 モモちゃん、見えていますか? あなたのメッセージ、お父さんはちゃんと受け取ってくれましたよ。

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