衰弱し、声にならない声をあげて助けを求めてきた子猫、にゃあ子ちゃん。妻と愛猫と別れて打ちひしがれていたJUNさんは、偶然にゃあ子ちゃんに出会って保護したのだが、にゃあ子ちゃんはJUNさんに「幸せって、何か」を教えてくれた。JUNさんの世界は一変した。
車の下に隠れていたボロボロの子猫
大阪府に住むJUNさんは、2018年10月、妻と紅葉を見に行った大きな公園の駐車場で数匹の野良猫に出会い、ごはんを与えに行くようになった。2019年2月、一番懐いていた茶トラ猫がぐったりしていたので保護。入院治療後、茶々丸くんと名付けて飼うことにした。
しかし、妻が茶々丸くんを連れてトルコに永住したいと強く希望したため、夫婦は別れることになった。日本に残ったJUNさんは一人、失意のどん底にあった。
茶々丸くんと出会った公園の駐車場にはまだまだ野良猫がたくさんいたので、JUNさんは毎日ごはんをあげに行っていた。茶々丸くんがトルコに旅立ってから1週間後、駐車場に停まっていた車の下に、黒い小さな物体を見つけた。何だろうと近寄ると、衰弱してぐったりしたガリガリの子猫だった。サビ柄の子猫は、目ヤニと鼻水で顔はぐしゃぐしゃ。声がうまく出ないようだったが、それでもJUNさんを見ると声にならない声で必死で「にゃあ、にゃあ」と訴えた。JUNさんは迷わず子猫を抱きかかえ、いつも車に積んでいたキャリーに入れ、茶々丸くんを診てもらった動物病院に向かった。
子猫はかなり衰弱していたが、大きな病気はしておらず、家に連れて帰ることができた。
「声もほとんど出ないのに必死に助けを求めてきた顔が忘れらず、にゃあ子と名付けました。生後2ヶ月ほどの800gの女の子でした。後で知ったのですが、サビ猫は柄が汚いという理由で人気がないらしく、一番よく捨てられるそうです。譲渡会でも貰い手が少ないと聞きました」
もし1週間早く出会っていたら、猫エイズキャリアだった茶々丸くんがいたので保護できなかったかもしれない。JUNさんの車の車高が低かったので角度的にたまたま発見できたが、SUVなどに乗っていたら目に入らず、気づかなかったかもしれない。JUNさんとにゃあ子ちゃんは、奇跡的に巡り合った。
にゃあ子ちゃんがいない!
保護した日、なんとかごはんは食べてくれたものの、にゃあ子ちゃんはJUNさんを怖がって、部屋の奥の隅っこに隠れていた。何度も何度も呼んで、夜中の12時過ぎまで出てくるのを待ったが、出てこない。その日はJUNさんも疲れていたのか、そのままリビングのソファーで寝てしまった。JUNさん宅にはリビングに大きなゴリラのぬいぐるみがあるのだが、朝起きると、にゃあ子ちゃんはゴリラのお腹にしがみつくように眠っていた。まるでお母さんに甘えているようだった。
「事情は分かりませんが、生後2ヶ月弱の子猫がたった1匹で、外で生きていた心細さを思うと、胸が締め付けられるようでした。その時、にゃあ子を一生かけて守っていくと決心しました」
3日後、会社に出勤するため、初めて長時間留守番させなければならなかった。ふと気づくと、朝ごはんを食べ、リビングにいたはずのにゃあ子ちゃんがいなかった。JUNさんは全身から汗が吹き出すくらい焦り、全ての部屋のありとあらゆる場所を探した。しかし、にゃあ子ちゃんは見つからなかった。時間が無くなりそのまま出勤することにしたが、心配のあまり一日中落ち着かなかった。帰宅して電気をつけたが姿は見当たらず、あきらめて食事の支度をしていると、足元に何かが当たった。
「下を見ると、にゃあ子がふくらはぎに頭をこすりつけていたんです。私の心配をよそにぽかんと見上げるにゃあ子を見て、くすっと笑ってしまいました」
幸せって何?価値観が変わった
妻と愛猫との別れという味わったことがないような寂しさから、JUNさんを救ってくれた恩猫。JUNさんはにゃあ子ちゃんが愛おしくてたまらないという。
「私は車が大好きで、暇さえあればドライブをしていたのですが、にゃあ子が来てからはとにかく一緒にいたいので、休みの日もずっとにゃあ子と過ごしています。外を歩く時、ゆったり歩くタイプだったのですが、いまは1分でも早く家に帰りたいので、強烈早歩きです(笑)」
にゃあ子ちゃんを迎えるまで、JUNさんは良いクルマに乗り、良い時計をし、良いグルメを楽しみ、良い旅行をする、とにかく優雅な生活を送ることが人生の幸せだと思って生きてきた。しかし、今はにゃあ子ちゃんに話しかけたり、一緒に昼寝をしたりすることに最高の幸せを感じているという。
「にゃあ子には感謝しかありません。にゃあ子〜 、お父さんの前に現れてくれて有難う。 これからも2人でいっぱい幸せに生きていこうね〜」と、JUNさんは心の中で思っている。