捨てられた飼い猫は外では生きていけない 絵本「あるすてねこさんのおはなし」を出版した獣医師の思い

渡辺 陽 渡辺 陽

大阪府八尾市内にある「Happy Tabby Clinic」の院長である獣医師の橋本恵莉子さんが出版した、「あるすてねこさんのおはなし」という絵本。そこには、捨てられた猫が死んでしまう話が綴られています。飼い猫の遺棄が非常に多く、命を落とす猫もたくさんいるという日本。この絵本を通して伝えたいこととは何なのか、話を聞きました。

後を絶たない飼い猫の遺棄

――なぜ絵本「あるすてねこさんのおはなし」を出版したのでしょうか。

橋本で医師「猫は野生動物で、外でも問題なく生きていけると思われる方が多いですが、家の中でずっと飼われていた猫は、外での生き方を知らず、食べるものも生活の場所にもありつけずに衰弱してしまい、最悪死亡してしまいます。しかし、その事実はあまり知られていません。そのため、飼えなくなったり、飼い主が亡くなったりするなどして行き場を無くした猫が、外に棄てられるというケースが度々見られるからです」

――何匹くらいの猫が遺棄されているのでしょうか。

橋本獣医師「猫の遺棄については、環境省の公開している、飼い主から保健所への大人猫の引き取り数でみると、平成31年4月から令和2年3月までに6936匹ですが、保健所ではなく野外への遺棄も含めると、その数はもっともっと多いでしょう。筆者である私が運営するHappy Tabbyにも、猫の飼育放棄や遺棄された猫に関する相談が度々寄せられます」

――どのような相談でしょうか。

橋本獣医師「飼い主が死去したため、その子供さんが猫を野外に放たれ、猫が毎日泣いて助けを求めている。飼い主が入院したため、世話をする者がおらず保健所に持ち込もうかと考えている、などです」

――野良猫と間違われることもあるのでしょうか。

橋本獣医師「私が毎日不妊手術を行っている手術現場でも、地域猫の餌場に急に現れた人馴れした猫、野良猫だと思いTNRのため連れてこられたがマイクロチップの入っていた猫(登録もなく、遺失届も出されていませんでした)、野外で衰弱していた首輪をしたやせた猫、すでに不妊手術をされている人馴れした猫、など捨て猫を疑う猫に度々遭遇します」

あちらこちらに捨てられている元飼い猫

――たとえばどんなところに捨てられているのでしょうか。

橋本獣医師「これはHappy Tabbyのスタッフの体験談なのですが、
・家の前に段ボールに子猫が5匹入って遺棄されていた。
・段ボールに入れられて遺棄されたラグドールを保護した。
・アニマルハーモニー(動物愛護管理センター)の近くにこの2年で3件、段ボールやバケツに入れられた子猫の遺棄を見た。
・スーパーの駐車場に子猫が2匹捨てられていた。
・勤めていた猫カフェの前にへその緒がついたままで箱に入れられていた生まれたばかりの子猫や、段ボールに入れられガムテープでぐるぐる巻きにされた子猫、その他3匹の子猫がそのまま遺棄されていた。
・紙袋に入れられ道端のフェンスに吊るされていた子猫に遭遇した。
・以前勤めていたペットショップやホームセンターには毎年箱に入れて捨てに来る人がいた。
・斎場に今年だけで3匹捨てられている。
・近くの高校に捨てられていた。
地域猫活動をしているスタッフは、若くて人馴れしているきれいな猫が、突然餌場に現れるという経験を何度もしているそうです。いかに猫の遺棄が多いか、ひしひしと実感しています」

助かるのは運良く保護された子の一部だけ

――死んでしまう猫も多いのでしょうか。

橋本獣医師「私自身の飼い猫も、駅前ロータリーに段ボールに入れられて棄てられていた猫や、暑い日に畑に段ボールに兄弟で捨てられていた捨て猫でした。クリニックのお客様からは、絵本のようにキャリーに入れられて棄てられた猫や、リードに括り付けられて遺棄された猫に遭遇した経験も聞きます。私の近しい人々からのお話だけでもこれだけの事例があります。私たちが知らないところで、もっともっと多くの遺棄があることでしょう。そして運よく保護されて助かるのはほんのごく一部で、おそらくほとんどの捨て猫が、保護してもらえる人に出会うことができずに命を落としていることと思います」

――絵本に込めた思いについて聞かせてください

橋本獣医師「私は猫を飼うすべての人、また猫を飼っている親戚やご両親のいるすべての人にこの絵本を読んでもらいたいです。猫を棄てることは、殺すことだと知ってほしい、そしてもし、猫の飼育に困った時に、猫を棄てることを思いとどまってほしいと思います。
また、子供たちにも広く絵本を読んでもらいたいです。子供たちにこの物語を読み聞かせすると、声をあげて泣く子供もいます。この物語を通じて、猫も自分と同じように、お母さんに棄てられたら辛くて悲しいことを知り、猫だからってこんなひどいことをしてはいけないと、自然に思える人になってもらいたいです。
動物を棄てる人、虐待する人が、一人もいなくなりますよう祈りを込めて、私の獣医人生の中で出会ってきた保護猫たちを思い出しながら、この絵本を作画しました。動物の遺棄が心配されるコロナ禍の今こそ、この物語を知っていただき、捨て猫の抑止力になることを願っています。どうか、広く、広く、読み継がれますように」

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