ウイグル人権問題で翻弄されるユニクロ 米中対立が激化する中「この混乱は始まりにすぎない」

治安 太郎 治安 太郎

 ユニクロを展開するファーストリテイリングの岡崎健取締役は15日、中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害問題について、「衣料品を作る縫製工場は第三者の監査機関に入ってもらい、人権に問題がないことを確認している」「生産を委託している中国の工場で自治区に立地する施設はなく、綿も生産過程で労働環境が適正に守られたものだけを使っているとしている」と説明した。

 今年に入って、人権問題を重視するバイデン政権の誕生で中国との人権を巡る対立が激化しているが、ユニクロはその影響でフランスでの刑事告発(現地の人権NGOが人道の罪に触れる疑いで告発)や米国でのTシャツ輸入差し止めに直面している。フランス検察当局は既に捜査を開始しているという。

 今回のファーストリテイリング側の発表では、いくつか疑問点が残る。

 まず、“第三者の監査機関”とは具体的にどこなのだろうか。これが中国系であれば間違いなく信憑性に欠ける。現在、新疆ウイグル自治区で何が起こっているかを把握することは極めて難しいのだ。米当局や世界的なメディアでさえ、何が起こっているかを把握できていない。たとえ自治区内に入れたにしても、問題の核心は絶対的にベールに隠されており、正に“中国の北朝鮮”がそこにあるというレベルだろう。ファーストリテイリング側には、政治的な動きを睨んだ行動を取ってほしいところだ。

 また、“綿も生産過程で労働環境が適正に守られたものだけを使っている”と発言しているが、たとえ、栽培場所や縫製工場で労働時間や賃金払いが適正に守られていたとしても、それは問題をクリアーしたことにはならないのだ。要は、強制的に栽培場所や縫製工場に連れて来られたり、移動させられたりしている可能性が十分にあり、それも欧米が強調する強制労働、人権侵害に該当するのだ。ファーストリテイリング側には、もっと広い視野でこの問題を考える必要がある。

 しかし、これはユニクロだけに該当するものではなく、他のアパレル・衣料品メーカーにとっても対岸の火事ではない。新疆ウイグル産の綿花は世界の5分の1を占め、値段が安くて質もいいので、“脱”新疆綿は決して簡単な決断ではない。

 米中対立が激化し、今後さらにエスカレートする恐れがある中では、ウイグル人権問題の政治化がいっそう進み、ウイグルとの関連が少しでも疑われるだけで企業の活動が制限される可能性がある。そして、それによって日本と欧米との経済・貿易関係で摩擦が拡大する恐れがあることを忘れてはならない。

 一方、ウイグル人権問題で日本企業が欧米に足並みを揃え続けると、逆に中国の反外国制裁法に明記される「第3国」に日本が該当することになり、中国が日本企業に制裁を発動してくる恐れがある。

 おそらく、今回のユニクロの問題は、“米中対立の中で混乱する日本企業の動き”の始まりにすぎないだろう。グローバル経済の中で、日本企業も選択肢はいっそう困難さを増している。

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