住宅街がカエルの大合唱に包まれる!民家の裏庭になぜ? 卵からカエルになるまでお世話する男性に聞いた

山中 羊子s 山中 羊子s

 大阪・箕面市にある住宅街の一角が今年も「カエルの大合唱」に包まれている。宅地造成のため、森が切り拓かれ、その奥にあった池がコンクリート製の貯水池へ。それが原因かどうかは分かりませんが、近くに住むAさん宅の裏庭にモリアオガエルが卵を産むようになった。毎年、交尾が行われる2カ月間限定の自然の営みです。

ある日突然、住宅街の”怪”

 大阪郊外、箕面市の閑静な住宅地に住むAさん宅の裏庭で、10年ほど前からカエルが繁殖するようになりました。

 もともとメダカを数匹、プラスチックケースの水槽で飼っていたのですが、その真上で隣の家から伸びてきた木の枝に卵を産みつけたカエルたちがいたのです。

 枝から下がる野球ボールくらいのねばねばした白い泡状の巣。「最初見たときは、ウソかと思いました。森の中の池の淵で木の枝に産卵するモリアオガエルが住宅地のしかも四方を家に囲まれた裏庭で…。家族は誰一人信じてくれなかったですね」と当時を振り返るAさん。

 すると、どうでしょう。半月ほどして泡状の卵から数え切れないくらいのオタマジャクシが現れ、びっくりするやら、感激するやら。それ以来、毎年梅雨の季節が待ち遠しくなったそうです。

 Aさんの家の北側にはもともと自然豊かな森が広がっていて、この森は公団の所有で立ち入り禁止。15年前、引っ越してきた当時、こっそり森に入ったことが一度だけあったといいます。小径を登っていくと小さな池があり、まわりは木々でおおわれていました。まるで童話の世界のような光景でした。  

 しかし、10年ほど前から宅地造成が始まり、森には遊歩道が作られました。小さな池があった場所はコンクリートで覆われた大きな貯水池になりました。行き場を失った何匹かのカエルが住宅地の裏庭に産卵場所を求めたのだろうとAさんは考えています。

モリアオガエルの産卵はカエルの大合唱

 カエルがやってくるのは1年の間で4月末から7月中頃の3カ月。産卵時期は5月、6月の2カ月だけです。モリアオガエルの求愛はかなりうるさいらしく、ゲゲゲッ、ガガガガッ、クククッなどカエルの数だけ鳴き方も声も違い、大合唱となるわけです。

 Aさんは「毎年、近所迷惑ではないかと心配になります。でも、1年のうち2カ月間限定のことなのでどうか許してくださいという気持ちです。そもそも池がなくなり、水辺の産卵場所がなくなったことが原因ですからカエルばかりを責められません。よくぞ、うちのような狭くて澱んだ水たまりにやって来てくれたと感謝しているくらいです」と話します。

オタマジャクシの大好物は食パン

 オタマジャクシは1センチほどになるまで2週間ほど泡の中で暮らし、雨が降りだすタイミングに合わせて一斉に外へ出て元気に泳ぎ始めます。数日間は泡を食べて生き延びますが、泡を食べつくすともう食べるものがありません。自然界のような天敵がいないかわりに十分なエサのない水槽暮らし。食事の世話もAさんの役目です。

 はじめは食パンを与え、体が大きくなると今度は金魚用のエサをあげるそうです。8月の声を聞くころには、オタマジャクシは体長4センチにもなり、やがて尻尾が取れ、2センチほどの小さなカエルになって裏山へ消えていくそうです。

 Aさんの仕事は他にもあります。なぜか水槽とコンクリート塀の隙間に産卵するカエルが多く、大雨の朝は、水たまりを生まれて間もないオタマジャクシがひしめいていることもしばしば。1匹ずつ救出するのはAさんの重要な任務です。

 こうして毎年、数百匹のカエルが森に戻って行きますが、1年後、産卵に戻ってくるのは10匹足らずだとか。「自然らしさが全くない裏庭になぜ戻ってくるのか?その方がぼくには不思議です」

 産卵が終わるとカエルたちは翌年の春、ケケケッと鳴き出すまで庭に姿を現すことはありません。この夏もモリアオガエルの繁殖期は終わりに近づいています。Aさんも別れを惜しんでいるようでした。

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