割れ窓理論をご存じでしょうか。窓ガラスを割れたままにしておくと、キチンと管理されていない建物とみなされ、ゴミが捨てられたり他の窓も割られたり。ついには犯罪の温床となり地域環境が悪化するというものです。
つまり、小さなことでも放置せず対処することが犯罪の抑止力となります。野良猫を大切にするのも割れ窓理論にあてはめて考えると、理にかなったこと。当事者は些細なことだと思いがちですが、これを放置しておくと街が荒んでしまうでしょう。
福岡県のとある街で、保護猫団体にレスキュー要請がありました。なんでも、漬物樽に子猫が入れられているとのこと。漬物樽が置いてあったのは私有地だったため、団体スタッフが家主の老人に話を聞きます。
なんでも、漬物樽に入っているのは、可愛がっている野良猫3匹が産んだ子猫たちなのだとか。母猫たちは可愛いけれど、子猫はいらないから漬物樽に入れているとのこと。
「ああしておけば、すぐ死ぬ。死ぬのを待っている」
これを聞いた団体スタッフは、とっさに言葉が出てきませんでした。それほどショックだったのです。
子猫たちを譲り受け、母猫たちは避妊手術(TNR)して元の場所に戻されます。子猫たちは預かりボランティアさんに。その中の一軒がS家です。4匹の猫を預かりました。S家の人たちは初めて猫と暮らすのですが、初めてだからこそ色々と相談ができるボランティアが良かったのだそう。
犬とはずっと暮らしてきたS家の人たち。猫は勝手がわからないものの、愛護団体のサポートにより楽しく過ごせました。ところが、預かったうちの1匹が真菌にかかっていたのです。元々の飼い犬にも感染し、大ごとに。
真菌に感染していなかった子は別の家に移動になり、感染していた子はS家に残されました。その子こそ、今もS家で暮らすことらくんです。突然兄弟と引き離され寂しいだろうと、S家の人たちが代わる代わる構います。
そのうち情が移ってしまい、預かりボランティアから里親になりました。臆病で怖いことがあると固まってしまうことらくんを、他の家庭に任せたくなくなったのです。
ことらくんは臆病であるものの、自分を助けてくれたS家の人たちのことは大好き。特に長女のMさんのことは全幅の信頼を寄せています。
Mさんが「おいで」と肩をぽんと叩くと、なんと肩に乗るんですって。朝は一緒に起きて、朝ごはんの準備。「ごあぁん」と鳴きながらついてまわるんですよ。
それでも漬物樽に閉じ込められた恐怖がまだ残っているのでしょうか、Mさん以外の家族にはことらくんが安心できる場所でないと触れません。普段の寝床と冷蔵庫の上、あとはお風呂場の前。この3か所はことらくんの安心できる場所です。ここなら、なでなでも抱っこもOK。どんどん安心できる場所は増えていっています。
この調子ならいつか、とMさんが抱いている野望があります。それはことらくんを自身のハンドメイドショップの看板猫にすること。Mさんはペット関連のグッズを作っているので、モデルにもなってもらいたいみたい。ことらくんがいることで、どんどん夢が広がっていきます。
こんな夢が見られるのはことらくんがあの時、漬物樽の中で命を落とさなかったから。保護猫団体が、Mさんにトラくんを託してくれたから。
夢という未来への希望を人間が抱くためにも、小さな命を守っていきたいものです。動物愛護は、決して愛玩動物だけのためではないものと知ってほしいと願っています。