通学途中にパンクしたためやむなく近くの公園にとめた自転車。夕方、取りに戻ると、タイヤはいつのまにか修理され、前かごには何やら書き置きが。〈朝方 困ってたみたいなので、暇なオヤジがパンク修理しておきました〉で始まる手紙には、善意のバトンをつなぐことが記されていました。こんなことってあるんですね。目に見えないけれど、世界は優しさでできています。
大阪在住の大学生で、イラストレータでもあるやういも@イラスト(@ppt_ppt_ppt_ppt)さんが、2021年5月26日に「え嘘やろ?」と投稿した1枚の画像が、7万超のいいねが付くなど話題になりました。一連の経緯を説明するツイートに「こんないい人おるん?」「映画『ペイ・フォワード』思い出す」「通りすがりのあしながおじさん?」「こういうことが無限に連鎖したらいいな」などとユーザーが喝采を送りました。
やういもさんが自転車で学校に向かっていた同日午前8時ごろ、差し掛かった段差でパンクしてしまいました。中のチューブが外に出るほど激しい損傷。リモート授業に切り替えようと自宅に引き返すことにしましたが、担いで帰っていては間に合わない。やむなく公園の隅に止めて帰宅しました。授業が終わり、ひと段落ついた夕方、取りに戻って見つけたのが、あの置き手紙でした。
〈朝方 困ってたみたいなので、暇なオヤジがパンク修理しておきました。空気圧が完全ではないので、速やかに補充した方が良いと思う。「ありがたいと『恩』」に思ったら、家族でも誰でもいいので、何か一つ『恩を返して』下さい。〉のメッセージとともに、差出人でしょうか。手紙の右下には「暇なフーセンおじさん」と記されていました。
パンク時は通勤通学の人はいたものの、公園に人けはありませんでした。そこから夕方までの10時間近く。困り果てたやういもさんをどこかで目にしたのでしょうか。暇なフーセンおじさんは、修理器具を持って公園に駆け付け、修理を終えた後には自宅で手紙をプリントアウトしたのでしょうか。ヒーローのような振る舞いに想像が膨らみますが、手紙以外に手がかりはありません。修理された自転車は空気圧を調整し、快調に走っています。
困っている人がいたら助ける。そして助けられた人は別に困っている人がいたら手を差し伸べよう。置き手紙の主はこう伝えたかったのでしょう。「私は優しくなろうと思いました。皆さんもぜひ周りの人に優しくして下さい」とツイートしたやういもさんに聞きました。
―印象的な手紙です
「手紙の中にあった『恩を返してください』というメッセージを受けて、母に普段の感謝を伝えました。『いつもありがとう』くらいの感じでしたが、母は気持ち悪いと言ってました笑」
―目の前に困っている人がいたら
「道を聞かれたら答えるくらいでした。これまでは自分から積極的に関わろうとはしませんでした」
―暇なフーセンおじさんに
「もし会えたとしてもおじさんは『俺に恩を返す必要はない』と言うと思います。おじさんから教わったおじさんの想いみたいなものを引き継いでいくのが何よりの恩返しになるのかなと思っています」
おじさんからの手紙は机の中にしまっているそうです。